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第四章 胸椎再手術 四の10 人工胸椎をもらう

人工胸椎をもらう

 一回目の胸椎再建手術の時に入れたチタンでできたロッドやボルトは、二回目の手術の際に新しいものに置き換えられ、廃棄処分となった。Kは担当医から「いりますか」と言われたので、即座に「ください」と言った。こうしてチタン製のロッドとボルトがかれのものになった。ベッドの上で、手術の戦利品を自慢げにわたしに見せてくれたが、ビニールの袋に入り、水気を含んでいたので、かれの体液のようで不気味に思われた。もちろんそれはアルコールなどの消毒液できれいにされたあとだったのだが。

 退院後しばらくして、Kは二回目の手術後の胸部のレントゲン写真のコピーを手に入れ、それをわたしに見せてくれた。そこには、体の中に入っている状態のチタン製のロッドやボルトがはっきりと見えた。特にロッドを止めているボルトがとても大きく見えたので、どのように胸椎が再建されているのかを、二人で検討してみることになった。

 胸椎の構造を調べ、レントゲン写真を見ながらKの説明を聞いたが、なかなか理解することができなかった。ボルトの位置が府に落ちなかったのだ。喧々諤々と言い争っていた時に、事務職員が会議の打ち合わせのためにわたしの研究室に入ってきた。その職員が入ってきても、我々の論争は続いた。

 ひとまず探求はおいて、職員と話をすると、難しい研究について真剣に話しているかと思ったそうだ。実際には、Kの体の中のことについて話していたことがわかり、半ばあきれられた。会議の打ち合わせに入りそれを終えて、再びかれと探求に入っていったが、わたしを理解させることはできなかった。そこで、もらったチタンの部品を組み立ててみよう、ということになった。そんなに部品があるわけではないので、すぐに組み立てることができた。そこでやっと人工胸椎の構造を理解することができた。

 人工胸椎を組み立てていると、それがけっこう重いことに気づいた。これが背中の中に入っていて、重くないのかとかれに聞いてみると、重さを感じたことはないと言う。まあ、重かったら首が上がらなくなってしまうことだろう。首が上がらないのは、おくさんだけですませたいところである。

 人工胸椎のロッドは曲がっている。たしかにレントゲン写真でも、このあたりの正常な背骨は曲がっている。当然のこととはいえ、背骨の曲がりに合わせて、ロッドは作られていたのだ。もしロッドが真っすぐだったら、かれは反り返ったような姿勢になったことだろう。

 こうして医者から頂戴したチタン製の人工胸椎はKの手術の記念品であるばかりでなく、二人の間でおもちゃになり、しばらくの間楽しませてもらった。


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