第四章 胸椎再手術 四の9 胸椎再手術
胸椎再手術
手術は、整形外科が担当する胸椎の再建手術だけではなかった。放射線治療で、背中の筋肉に、縦5cm、横2.5cm、深さ2.5㎝の穴が空いてしまったのだ。そこでこの穴を塞ぐために、広背筋の一部を血管がついたまま剥いで、それで埋めることになった。この担当は形成外科であった。また二つの科にまたがって手術をしてもらうことになったのである。
ダブルヘッダーの前半の手術は、前回後半だったH先生の整形外科チームが受け持つことになった。前半の胸椎補強手術では、バカになった第4・第5胸椎の支えをさらに1つ分延長して、下側の第6胸椎にもボルトを打って、ロッドを補強することになった。上側も下側との力学的バランスを取るために、前回の第1胸椎、第7頸椎に加え、第6頸椎までロッドを延長し、ボルトで固定する手術になった。チタンでできたロッドもボルトも古いものは外され、新しいものに取り替えられた。第2・第3のシリンダーケージ型の人工椎体は、当初新しいものに置き換えることになっていたが、元のものに新しい骨が伸びていてきれいだったので、従来のものがそのまま使われることになった。
後半の手術は形成外科チームが担当した。予定通り、剥いだ筋肉で穴を埋めた。
二度目の手術ということで、ギャラリーのわれわれも慣れっこになっていたので、大掛かりな手術になるとは思わなかった。なにか簡単に手術をするようなイメージを持つようになったが、実は7時間にも及ぶ大手術であった。脊椎の手術なのだから、脊髄を切ってしまって、下半身不随になるかもしれないほどの危険性のある手術なのだ。われわれもそうだが、当事者の本人も、初回ほどの緊張感はなかったように思える。緊張感があろうがなかろうが、手術が成功してよかった。
かれが手術をしていた頃、東京でC団体研究会のシンポジウムが開催されていて、そこでかれは講演する予定になっていた。早くに自分の講演を中止すればいいものを、かれは入院中にパワーポイントと発表原稿を作り、シンポジウム当日、研究者仲間に20分間の原稿を代読してもらった。パワーポイントの進行と原稿の読み上げのスピードがずれ、会場から笑いが起こったそうである。かれの行動には、なぜかこのような生真面目さとユーモラスさが伴うのである。