第四章 胸椎再手術 四の5 手術の後遺症
手術の後遺症
手術直後から、胸の神経や筋肉の痛みをおぼえるようになり、日が経つにつれ徐々に激しくなっていき、そのうちモルヒネなどの鎮痛薬を処方してもらわなければ耐えられなくなるほど、激しくなっていった。手術時にばっさりと神経の束を切った影響なのだろう。バーチャルな痛みが数分おきに襲ってきた。寝ていても、痛くて起き上がってしまうほどだ。モルヒネは副作用として腸などの消化管の活動を停止させ、便秘や吐き気を引き起こす。がんの予兆として左肩が痛んだ時に、モルヒネを服用したが、その時に、食欲不振におちいることがわかったので、できるだけ服用しないできた。だが、この激しい痛みを抑えるためには、当面飲み続けるしかない。痛みと共にモルヒネの副作用が憂鬱の種となった。この胸の激しい痛みは、これ以後もずっと続き、現在もかれの最大の悩みであり続けている。
この胸部の激痛と同時に、かれは血圧異状を訴えるようになった。寝た状態のままでも、最高血圧が110mmHg前後だったものが、突然150mmHgまで上がり、逆に、立ち上がると最高血圧が突然50~70mmHgまで下がるのだ。循環器科などに診てもらったが、まったく原因不明で、とりあえず心電図を調べることになったが、心臓に異状はなかった。
緩和ケアやリハビリの先生は、手術の際に第2、第3胸椎の周辺の神経束をそれぞれ3cmくらい切ったので、手術後、体の中で神経回路の修復が起こっていて、運動神経と自律神経がランダムに結びついたりしているのが原因ではないか、との仮説を述べた。かれもこの仮説が当たっていると思った。この仮説が正しいならば、でたらめに結合した神経回路は、頻繁に使われる正常な回路以外はいずれ消失していくことになり、正常の回路だけが残るはずである。それがいったいいつ頃になるのか、それは誰にもわからない。
この血圧異状が原因で、かれに次の大きな試練を与えることになった。