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第三章 肺がんと胸椎の手術 三の7 手術が論文になる

手術が論文になる

 後に、Kは自分の手術が、平成27年11月の『第56回日本肺がん学会総会』で発表されたことを、インターネットで発見し、わたしに教えてくれた。演題は「導入化学放射線療法後にTh2、3全椎体合併切除により切除し得たT4肺がんの1例」である。演題をみてもこの患者がKであることはわからないが、発表者名とその所属、「60代男性.左背部から左上腕と前胸部にかけて疼痛を主訴に近医受診.MRIで第2、3胸椎に浸潤する腫瘍性病変を指摘され整形外科を受診.・・・」で始まる要旨の内容を読めば、そこに書かれている患者がKであることは明らかだった。

 かれが学会発表のことを見つけた際、どうせなら学会で手術のビデオが流されているのだから、ビデオをもらったら、とわたしは提案した。外来で担当医に診てもらった際に、そのことをかれが医者に話すと、医者は快く「差し上げますよ」、と言ってくれた。それから、平成29年3月になって、ビデオだけでなく論文まで同封されて送られてきた。論文は専門用語でわからないところも多いが、手術の手順がよくわかり、とても面白いのだ。論文の中では、かれの手術の学術的価値にも触れられていた。上記の手術のあらましは、この論文を参考にさせていただいた。


「論文を書いてもらって、手術のいい記念になったね」

「うん、そうだね。論文にできたということは、手術がうまくいった証明でもあるしね」

「論文の中に、手術後10か月の今も生存していると書いてあるよ」

「論文が発行されるまでは、どうしても生きていないといけなかったんだ。もう手術後24か月になるんだけど。もし10か月前に死んでしまったら論文にできなかったのかね?」

「手術はうまくいきました。しかし、数か月後に死んでしまいました、という論文は書きづらいんじゃないの」

「さすがにそうだよね。生きてて、手術した先生に少し恩返しができたようなものだ」

「ところで、論文の中の写真を見ると、胸椎を取ったところに埋めたシリンダーケージがメッシュになっているのも、驚くほどよくわかるね。人工椎体も真っ白でわかりやすいじゃない。だけど、こんなに大きいんだ。ボルトも大きいよね」

「これでしっかり止まっているんだ」

「こんなに大きいチタン製のロッドやボルトが入っていて、重くはないの」

「いや、重さは感じたことはないね」

「そうだろうね。骨と同じような重さなんだろうね」

「ビデオのことだけど、先生はビデオを見ると気持ち悪くなるかもしれない、と言っていたけど、ぜんぜん平気だったよね」

「でも1回見たくらいでは、素人の我々は何が何だかよくわからないね。何度も繰り返して見ないと。解説してもらえると助かるのだけれど、そういうわけにもいかないしね」

「送られてきたビデオは、学会で発表の時に使った、数分にまとめたダイジェスト版だけど、病院には手術全部を写したビデオがあるから、時間があったら見に来たらいい、と先生は言うんだけど、一緒に見に行く?」

「さすがに十何時間も見る気はしないね。それは遠慮しようよ」

「手術の記念品は、この論文と手元にあるチタンのロッドで十分だね。ついでだから取り出した胸椎ももらえばよかったのに」

「やっぱり生ものは外に出すことはできないんだって。でもチタンのロッドはもらったじゃない。チタンは高価じゃないかな」

「論文とチタン、手術のいい記念だね」


 Kの体の中で除去した胸椎の代わりに背骨を支えているはずのチタンの棒が、どのようにして体の外に出て、今現在、かれの手の中にあるのか。マジックのような話であるが、種明かしは、乞うご期待。ちなみに、チタンの値段は1㎏で150円(2017年4月14日現在)と、Kが思っていたよりもずっと安いのだ。残念でした。


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