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第二章 放射線と抗がん剤治療 二の6 ひとまず退院

ひとまず退院

がんを小さくするための放射線照射と抗がん剤の治療が終了した。このまま入院を続け、がんを除去するための外科手術に入るのかと思ったが、ゴールデンウィークの間は手術ができないので、体力をつける意味からも、一度退院することになった。手術は連休明け後ということだった。50日間の入院は、声が出なくなり、体重も激減して誰の目から見ても明らかなように、重篤な病気を持っている病人になった。本人にはその自覚はさらさらないようであったが。

入院した3月2日は雨のち晴れで、最低気温0.6℃、最高気温4.5℃と寒く、3月中は何度か雪にも降られたが、退院した4月24日は、一日曇ってはいたが、最低気温9.2℃、最高気温25.7℃と非常に過ごしやすい季節になっていた。春になっていた。

 退院すると、じっとはしていなかった。一人で自家用車を運転して大学に出てきて、研究室に閉じこもって、コンピュータに向かって仕事をしているようだった。そして時々私の研究室にお茶を飲みに来て雑談をした。そこにかれの日常があった。かれはこうした日常を大切にしていた。がんになり、体がよれよれになったからといって、気落ちすることはなかった。


 「ずいぶんやせたけど、放射線と抗がん剤の治療はきつかったの」

 「想像していたよりも楽だったね」

 「えっ、何も食べられなくなって、激やせしたのに、それでもそれほどきつくなかったって言うの。やせ我慢じゃないの」

 「抗がん剤の副作用で髪が全部抜けて、つるっぱげになると思っていたんだ。それがほとんど髪が抜けなかったじゃない。だから、思ったよりも副作用が弱かったな、と思うんだ」

 「髪の毛はそうだったけど、食べられなくてずいぶんやせたじゃない」

 「いや、もっとぼろぼろになるかと思っていたんだ。何にも食べられなかったわけじゃないし、やせたと言っても、いまもこうして元気に(?)動き回れるものね。とにかく、退院中にいっぱい食べて体力を戻さなくっちゃ。手術に耐えられる体を作らないとね」


 連休が明けたら、手術が待っている。今ひと時の戦士の休息である。


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