第二章 放射線と抗がん剤治療 二の4 原発は肺の扁平上皮がん
原発は肺の扁平上皮がん
生検によって声を潰したその代償というわけでもないが、縦隔と胸椎に浸潤したがんの本体が肺の扁平上皮がんであることが明らかとなった。肺で発生した扁平上皮がんが縦隔組織に浸潤し、さらに胸椎を侵したのが、一連の流れなのである。
扁平上皮がんは喫煙と高い相関があると言われている。かれをよく知るものたちは、かれのがんの原発が肺の扁平上皮がんであることに十分納得した。それでも、どうしてこんなに長く原発箇所が分からなかったのか不思議であった。縦隔には心臓や気管以外にも胸腺、甲状腺、神経節、リンパ節など様々な器官や組織があるので、いったいどこでがんが発生したのか、慎重に調べる必要があったのだ。Kをよく知る我々素人軍団は、すでに状況証拠から原発が肺であることを勝手に決めてかかっていたのであるが(素人は恐ろしい)。
しかし、肺の扁平上皮がんがわかってからも、我々がかれから受けた説明は正直よくわからないものであった。かれは肺がんのことよりも、もっぱら縦隔のがんと第2・第3胸椎がダメになっていることを強調していたのである。たしかに、大きな塊として成長していたのは縦隔腫瘍であり、がんが浸潤している胸椎を治すにはどうしたらいいか、素人の想像が及ぶ範囲ではないほどの病であった。最初に異状が見つかったのも、この両者であった。一方、レントゲン写真を見ても肺がんは左肺の上方に点在しているだけで、それほどの深刻さをかれに与えなかった。当然、我々の説明においても、原発である左肺の肺がんは軽く扱われることになったのだ。




