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エナの人形的諸事情

作者: 史郎アンリアル

 お久しぶりです。史郎アンリアルです。今回は連載中の多作とはまったく関係のない一話完結の短編です。とにかく書きたいことまとめた感じなので、あまり深く考えずに読んでいただけると幸いです。

 人間が得る情報の約七割は、視覚によるものとされている。つまり、見た目さえよければ、それ以外のマイナス要素はある程度ごまかされてしまう。ということだ。

 その代表的な例が「かわいいから許す」という判断基準である。見た目が優れていれば優れているほど、他のマイナス要素はかき消され、「かわいい」の頂点に立つ者は、そのうち神にも近い地位を得ることになる。

 だが、恵奈はその限りではなかった。

 夜空のような漆黒のロングヘア―、透き通るような白い肌に包まれた顔に、紅葉のような赤茶色の大きな瞳を持つ彼女は、第一印象においては、負け知らずのかわいさを持っていた。

 しかし、恵奈はあまりにも無能だった。

 まるで人形のようとまで言われた美貌ではごまかしきれないほど、何もできなかった。運動も、勉強も、絵も歌も、すべてが底辺レベルの能力しかなかった。そのせいで、初めは興味本位で近づいてくる大勢の人々も、幻滅した絶望したなどと言って、恵奈から逃げて行った。

 恵奈が中学に上がってもなお無能である理由は、努力や才能の不足だけではない。いや、むしろ最大の理由と言っていいものが、彼女を取り巻く環境だった。

 大手銀行長の後継ぎであり、財産に溢れた父。恵奈に匹敵する美貌を持ち、一流の専門学校を卒業した美容師の母。一見、完璧にも思える両親の問題は、どちらもとんでもない遊び人であるということだ。二人が稼いだ大量の収入は、主に酒とギャンブルに流され、家に残るのは最低限の金額だけ。当然、そのわずかな余裕が恵奈のすべてだった。

 極めつけは、母が時々家に連れてくる派手な友人だ。それが平日の昼間ならまだしも、恵奈が家にいる放課後や週末は、彼女のことをエナちゃん人形と呼んでは、酒の勢いで執拗ないたずらを繰り返していた。

 そんな生活に慣れた恵奈の存在は、まさに人形そのものだった。何をされても表情を崩すことがなく、それが一部の人には気味が悪いとまで言われていた。

 だが、十三の春。彼女は初めて真剣に自分と向き合う機会を得る。

 新しい教室で、おそらく顔も名前も覚えないであろう担任教師に言われたのが、進路という単語だった。ほとんどの者がそれに対して高校への夢を語った。

しかし、恵奈は一人考えた。

 実際に、進学が不安になるほど成績が低かったのだが、彼女の悩みはそこではなかった。

 いや、むしろ彼女の中には、選択肢など初めから一つしかなかったのかもしれない。

 その日の晩、恵奈は自分の夕食を調達するために、近所のコンビニへと向かった。いつものことだ。両親が恵奈のために食事を作ることなどめったにないので、料理と食材選びの腕だけは、恵奈自身が生きるために、自然に成長していた。

 だが、その道中で彼女はある異変に気付いた。

空が妙に明るい。そう言えば、今夜は大規模な流星群が予想されていた。同級生達の会話から、そんなことを小耳にはさんだのを思い出す。

恵奈は限られた知識の中で、流星群に関する情報を必死に探した。

その中から一つ、彼女はある重要な情報を思い出す。

流れ星に願い事をすると、それが叶う。

彼女は迷わなかった。いや、迷うほどの雑念など、彼女の脳には存在し得なかった。

手を合わせることも、祈ることもせず、恵奈はただ願った。

 お星さま、どうか願いが叶うなら……。

 恵奈は、人形として、他の誰かと生きる道を選んだ。


 ~☆


 東京。そこはまあまあ夢が叶う町。場所を選ばなければ大学にも通えるし、適当な経歴を得れば、就職に困ることもあまりない。

 もし世界の中心がいくつかあるとしたら、間違いなくそのうちの一つに、東京の名前が挙がっているだろう。そう言われるほどに発展した、有名な町だ。

 歩美も、そんな都会に憧れて宮城から一人、上京してきた。

 そして今日が、彼女の運命の日。ついに十社目の大台となった入社試験の結果発表の日だ。

 夜。都心からわずかに離れた簡素なアパートの一室で、彼女は九社の不合格通知を抱えたスマホを、すべての希望を賭けて睨んでいた。

 もし今回落ちたら、田舎に帰って、家族のコネで小さな食品工場に入ることになっている。そういう保険はあるのだが、歩美の東京への憧れは、そんな内定では安心できないほど強かった。

 緊張のあまり全身が小刻みに震え、茶色いセミロングの髪が、ばさばさと生まれつきのくせを取り戻していく。

 そしてついに、スマホがピロリン、と挑戦的なほど軽快な通知音を奏でた。

 受かれば晴れて都会の仲間入り、落ちれば空しく里帰り。その緊張感を指先に込めて、特に意味はないが渾身の力で通知を開く。

 恐怖のあまり、一瞬だけ目を閉じてからゆっくりとその文面を確認する。

 祈られた。

 これからの一層の活躍を祈られた。

 里帰り決定の瞬間は、いとも簡単に訪れてしまった。歩美はその場に膝から崩れ落ち、画面が点いたままのスマホを床に落とした。

 しばらく魂が抜けたように硬直した後、彼女は冷静に考えた。なぜだ。学歴だってそこそこいいところで、見た目やコミュニケーション能力も申し分ないはずだ。筆記も面接も問題なかった。わからない。なぜ自分はこうも都会に嫌われるのか。

 結局、歩美の望む答えはどこからも出なかった。

 しかし、かと言って何の楽しみもない田舎に帰ることは、素直に受け入れられない。

 歩美は気合いを入れ直すと、引き出しから銀行の通帳を取り出し、中身を確認する。

 余裕をもっても、帰りの交通費を含めてあと三週間はここで過ごせる。暗算には自信があるので、たとえ十社落ちようともそれは疑わなかった。

 絶対に帰るものか。この金尽きるまで。彼女はそう決意を固めると、早速貯金を下ろすことと数日分の食料を買いに行くため、近所のコンビニへと向かった。

 いくら東京と言えど、中心部を一歩外れればそこはただの住宅地。人も車もたまに見えるくらいで、都会基準で考えればかなり静かな場所だ。かつて憧れていた都会の喧騒は遥か彼方から聞こえるが、今の歩美にとっては、それも忌々しい雑音でしかなかった。


 一通りの用事を済ませ、歩美はコンビニから出た。

 確かニュースでは、もうそろそろ大規模な流星群が予想されているとか言っていた。歩美は何となく夜空を見上げると、そこには確かに、闇夜を照らす無数の流れ星が輝いていた。

 最後の試験に落ちた歩美にとって、この夜に現れた流れ星の大群は、もはや皮肉でしかなかった。まるで田舎に帰る自分を応援されているようで、彼女には腹立たしいものですらあった。

 こんな物、長くも見ていられるか。ついに涙がこぼれそうになった目を服の袖で押さえ、帰り道に視線を戻す。

 すると、その先には先ほどまで気にしていなかったのだろうか。コンビニを出た直後には見えなかった人形が落ちていた。

 歩美は不思議に思い、それを拾ってよく見た。

 きれいな金のツインテールを持つ、細身のぬいぐるみのような女の子の人形。大きな目はどちらも青く、肌はまるで生きているかのように血色がいい。一目で製作者のセンスの良さをうかがわせるほどかわいい作りだった。

しかし奇妙だ。家を出てから誰ともすれ違っていないから、きっと昼間に子供が落としたのだろうが、それにしてはきれいすぎる。ただ地面に付いていた部分だけ、わずかに汚れている程度だ。それはまるで、突然その場に現れて、誰かに拾われるのを待つ都市伝説のようなものにも思えた。

歩美はそれを落とし物として、交番に届けるべきか考えた。地元であれば、気やすく預かってくれるだろう。しかしここは東京。以前財布を届けた時は、ひどく面倒くさがられたものだ。そのことを思い出した彼女は、この奇妙な人形を家に持ち帰ることにした。

そしてアパートに帰った時、飾り物など何一つなかった歩美の本棚に、初めてかわいい人形が置かれた。もしこれがもう少し早く私の目の前に現れたら、もう少しは頑張れたかもしれない。歩美は運にも嫌われた自分を、また一つ嫌いになってから布団に潜った。


~☆


「ああああああああああああああっ!」

 翌朝五時十四分。歩美はスマホの目覚ましより三十分以上早く、謎の絶叫によって叩き起こされた。

 寝起きなのでどんな声かまではわからなかったが、多分二日酔いか何かの勢いで、誰かが暴れたのだろう。歩美は勝手にそう解釈した。そして寝たままの姿勢で大きく伸びをすると同時に、枕元のスマホを見る。画面が点灯すると同時にずらりと現れる大量の通知は、どれも家族からのメールや不在着信だった。

 気にすることはない。きっとこれからしばらくは、この通知に追われる生活になるのだから。

 自分にそう言い聞かせ、歩美は体を起こす。今日は特にやることないなぁなどと考えていた彼女の脳は、目の前の光景によって一瞬で覚醒する。

 部屋が、荒らされていた。

 ゾワッという音が聞こえそうなほどの悪寒が、歩美の背筋を襲った。

 今まさに握っているスマホで、警察に通報するべきか。いや、交番のこともあるから、東京の警察は信用できない。歩美はそう判断し、まずは自分で状況を把握することから始めた。

 荒らされたと言っても、それは昨晩コンビニで買った物だけで、それ以外はスマホも財布も、あらゆる物が昨日までのまま置いてあった。ただ、コンビニ袋の中からいくつかのカップ麺が消え、代わりに同じ数の空容器が、その周囲に散乱している。

 よほど空腹の侵入者でも来たのだろうか。被害がカップ麺だけでよかったと、歩美はひとまず胸を撫で下ろした。そして、とりあえず今日は部屋から出ない方がいい。直感でそう察した。

 おそらくこれから二度と使わないであろう就活用のスーツは、早くも今日からクローゼットの奥に封印された。


 ~☆


「ああああああああああ!」

 翌朝五時十四分。この日も歩美は謎の絶叫で目を覚ました。そして嫌な予感から慌てて飛び起き、部屋中を眺める。

 今回も、被害はカップ麺だけ。しかし今回は一個だけだった。しかも丁寧に洗われて、プラスチック素材の容器と紙のラベルが丁寧に分別されている。どうにも奇妙な光景だった。

 いや、そんなことはどうでもいい。問題はこの部屋が侵入者の夜食場になっているということだ。さすがに二度もやられては黙っていられない。歩美は一つの対抗策を思いついた。


 その夜。いつもならすやすやと眠っているはずの時間に、歩美は本棚の陰でスマホのカメラを構えていた。その背後に栄養ドリンク、氷水、刺激の強い食べ物など、ありとあらゆる目覚ましグッズを備えて。

 そして二十三時を過ぎた頃、ようやく事態が動き出した。

 カーテン越しにわずかに差し込む月明かりの中、不穏に動く人影。玄関や窓の音はしなかった。他の入り口を見つけたということだろうか。歩美はさらなる悪寒をどうにか抑え込んで、観察を続ける。

 人影は住人を恐れる様子もなく、すたすたとテーブルに向かって歩く。テーブルの上には歩美があらかじめ用意しておいた、一番値段の高いカップ麺。東京生活最後の日に食べる予定でいた、お楽しみの一品だ。

 そしてついに、人影がそれを手に取った。

 それを見た瞬間、歩美は激しいカメラフラッシュと共に、本棚から飛び出た。

「あんたね、何度も私の家に入り込んでたのは!」

 同時に部屋のすべての明かりを点けると、そこにいたのは中学生くらいの小さな少女だった。驚いているのか、泣き出しそうな目を歩美に向けたまま動こうとしない。

 予想外の犯人の姿に、歩美も一瞬硬直する。しかし見た目はどうあれ、相手は立派な犯罪者だ。立場ははっきりさせておかなければならない。

「あんた、名前は? どうしてこんなことやってんの?」

 歩美が問いただすが、少女は赤茶色の大きな瞳を震わせたまま、何もできないでいた。

 しかし、よく見るとかわいい。長い黒髪も、白い肌も、歩美にとっては絶望的なほど美しかった。そう考えると、しだいに彼女の心に罪悪感が芽生えてくる。

「あっ、ごめんね。驚かせちゃった? でもこういうことしちゃいけないから、早くおうちに帰った方がいいよ。どこから来たの?」

 無意識に下手に出てしまった自分を心の中で叱りながら、歩美は優しく話しかける。

 しばらく答えを待つと、ようやく少女の震えが止まった。そしてゆっくりと、本棚の上を指差した。

「……あそこ」

 少女が指差した先は、歩美が先日拾った人形を置いた場所。しかし、あらためて見ると、そこには何もなかった。

 歩美は不思議に思い、少女とは関係ないはずの人形を探す。しかし、どこを見てもあのかわいい人形は見つからなかった。

 その時、一つの可能性が歩美の脳裏をよぎった。

 あの夜、流れ星と共に現れた謎の人形が、実は全く違う姿の女の子でしたー。

 なんとファンタジーな展開だろうか。いや、まずあり得ない。これまで都会に嫌というほど現実を思い知らされた歩美の心は、その程度の不思議現象には揺さぶられなかった。

 とりあえず今は、この侵入者を普通の少女として接することにした。

「……君、名前は?」

 少女は本棚を指差していた手を戻し、静かに口を開く。

「エナ」

 消えそうなほど小さく、透き通った声で、彼女はそう言った。

「エナちゃんね。苗字は?」

「……エナ」

 質問を理解していないのか、エナは同じ回答を繰り返した。彼女の出所を探すために、少しでも情報を得ておきたい歩美は、慌てて聞き直す。

「いや、だから苗字。上の名前は?」

 すると、再びエナの体が小刻みに震え始めた。

「エナ。……あとは、わからない」

 結局、どう聞いてもエナ以外の個人情報は聞き出せなかった。歩美はかつて、都会は子供も怖いと聞いていたが、ひどく怯える小動物のようなエナの姿を見ていると、彼女だけは例外に思えた。

 エナがなぜ名前以外の情報を話さないのか。それが警戒心によるものか、純粋に知らない、もしくは忘れたのかは、今の段階では判断できなかった。

 そこで、歩美は新しい手に出る。

「そうそう、私のこと話してなかったよね。私は岡崎歩美」

 歩美はエナに近寄り、わかりやすいように自分の顔を指差す。

 再び、エナの震えが止まった。そして、しばらく何かを考えるように黙り込んだ後、ふと口を開いた。

「アユミ、アユミお姉ちゃん……」

 聞き慣れない呼び方に、歩美は思わず驚く。

「お、お姉ちゃんって。歩美だけでいいよ。地元じゃよくアユちゃんなんて呼ばれてたけど」

歩美はできる限り優しく話しかけたつもりだが、エナは黙り込んだまま、大した反応を示さなかった。

このままでは話が進まない。そう判断した歩美は、ついに食べ物で釣る作戦に入った。エナが最初に狙っていたのも食べ物だから、こうすれば間違いないと考えたのだ。

歩美が不意にコンビニ袋から取り出したのは、チョコレートを練り込んだ黒いクッキーに、白いクリームを挟んだ有名なお菓子。その名もオルオ。他のクッキーやビスケットより値は張るが、これに食いつかない子供はほとんどいない。

そしてやはり、そのずっしりとした外見が青い包装から現れた時、エナの目が輝いた。当たりだ。

しかし、今にも食らいつきそうな表情とは裏腹に、エナは手を伸ばそうとしなかった。だが、それでも歩美がゆっくりとオルオを近づけるにつれて、目の輝きが増すところを見ると、作戦は成功に向かっているようだ。

そして、オルオがエナの目と鼻の先まで到着した瞬間、歩美はそれをつまむ手を勢いよく引いた。同時に、エナの表情も一瞬で暗くなる。そう。この反応が来てからが、作戦の本番だ。空腹の子供にとっては、一種の拷問とも言えるだろう。

「ちゃんと私とお話ししてくれるなら、このオルオをあげましょーう」

 歩美の挑発的な態度に、エナの表情がさらに暗くなるが、すぐに明るくなり、首を大きく縦に振った。こうして見ると、その様子はまるで歩美の実家近くで手懐けられていた野良犬のようでもあった。


 しかし、決死のオルオ作戦も空しく、エナの口から出たのは「流れ星にお願いしたら人形になった」とか「夜だけ人間に戻れる」とか「最初は夕食の前に人形になったから、とてもおなかが空いていた」などといった、やはりファンタジー極まりないものばかりだった。このまま彼女の非現実的な話を聞いているだけではらちが明かないと思った歩美は、仕方なく話題を自分のことに切り替えた。

 話の内容は、歩美の地元の山や川にいた動物のことや、実家で畑を継いだ兄のこと、ぼけの進んだ老夫婦のくだらない話など、彼女にとってはどれも退屈な内容ばかりだった。しかし、おそらく生まれた時から都会暮らしだったであろうエナは、終始興味深そうに彼女の話を聞いていた。

 そして話はいつの間にか歩美の趣味に変わり、彼女が実家から持ってきたテレビゲームで対戦したりもした。元々は就職できたら会社の同期と仲良くなるために用意したのだが、まさかこんな場面で役に立つとは、歩美自身も予想していなかった。

 格闘、シューティング、カーレース……。都会から見れば、それらはどれも古いものばかりなのだが、エナは初めて触る機体を食い入るように眺め、必死に操作方法を覚え、本当の姉妹のように対等に戦った。

 全力でコントローラーを操作するエナの横顔を見て、歩美も彼女が本当の妹であるかのような錯覚に陥っていた。つい先ほど出会ったばかりの、不法侵入者の少女に対して、歩美はそんな感情すら抱いていた。

 そして、気が付けば時計の針は五時を過ぎていた。テレビゲームを始めた時点ですでに日付は変わっていたのだが、久しぶりに熱中した思い出のゲームの数々は、二人から完全に時間の感覚を奪っていた。

 最後の一本を遊び終え、テーブルに広げてあったオルオがすべて二人の胃の中に消えた時、歩美はようやく本来の目的を思い出した。

「……はぁ。……楽しかった」

 わずかに笑みをこぼすエナにはかわいそうだが、歩美はもう一度、冷たい現実を突き付けることにした。

「……何にせよ、朝になったら君の家か交番に行ってもらうからね」

 予想通り、エナの表情が不安に染められる。

「私だって、ずっとこうしてたいよ。でもさ、君にだって家族とかいるだろうし、私だって一人暮らしってことでこの部屋借りてるんだから。ちゃんと区切りはつけないと」

 何を言っているんだ、私は。犯罪者の少女とここまで息を合わせて、ここまで優しくしてしまうなんて。きっとこの甘さが都会に嫌われたのだ。歩美は、エナと出会う前からの疑問に、ようやく一つの答えを見つけた。

 だが、エナは侵入者で歩美はその被害者。無断でカップ麺をいくつも食べられたことも、変えようのない事実だった。

 きっと、エナにもエナなりの事情がある。彼女の言動からその程度のことは察していたが、それに付き合っていられるほど、今の歩美には余裕はなかった。このちょっと素敵な出会いは、今夜だけで終わらせなければならない。歩美は、心の中で自分の顔を叩いて冷静に考えた。

「朝は、行けない」

 必死に自分を戒める歩美の耳に、突然エナの声が入り込んだ。

「どうして?」

 予想はしていたが、それよりも強く、エナの体が震え始める。

「朝になると、人形に戻っちゃうから……」

 もう何度この話を聞いただろうか。そして歩美は何度それを心の中で否定したことだろうか。この期に及んでそんなことを言うエナに、ついに歩美は我慢の限界を迎えた。

「だから、その話はどうでもいいんだよ! とにかく、君とはここまでだから、これからはちゃんと普通に暮らしてよね!」

 思わず強く言い放ってしまったが、今度はそれによってエナが固まることはなかった。

「普通には、暮らせない」

「なんで!」

「意地悪な流れ星が、エナを本当に人形にしたから……」

 ここでようやく、歩美の怒りが頂点に達した。

「いい加減にしてよ! それはあんたの勝手な妄想でしょ! そんなくだらないファンタジーに私を巻き込まないで!」

 しかし、エナは反抗をやめないばかりか、さらに体の震えを強くする。

「本当、本当なの……。朝になったら、人形に、あ、ああ……」

「ど、どうしたのよ」

 五時十三分。昨日までより一分早く、例の絶叫が歩美の部屋に響いた。猛烈な苦痛にもだえるような、エナの声。それと同時に、エナの体が何かに押し込まれるように縮み、全身が変色し、あのコンビニの前で拾った人形の姿になって、そのままぽとりと床に落ちた。

 全くもって理解が追い付かない。歩美の思考は昇りゆく朝日とは裏腹に、完全に停止していた。

 だが、これですべての怪奇現象が解決された。突然現れた人形も、謎の絶叫も、カップ麺を盗み食いしたのも、すべてエナの仕業だった。そしてそれは彼女が心から望んだことではなく、人形に変えられたエナの、必死の行動だったのだ。

 こんな不可解な現象を、一体誰に話せばいい? 家族か? 警察か? それともラジオの相談コーナーか? 歩美は自分のするべきことを、完全に見失っていた。

 そして、目覚ましの効果が切れると同時に、歩美は死んだかのように、布団も敷いていない床に倒れて眠った。

 床に倒れた人形の無機質な笑顔は、どこかそんな歩美を見守るようでもあった。


 ~☆


 体に何かをかぶせられるような感覚で、歩美は眠りから解放された。

 充電コードに繋がれず、電池を消耗し続けていたスマホには、残りの電力が少ないことを示す赤いランプが灯っている。そんな機体に鞭を撃つように画面を点灯させると、表示された時刻は、とっくに二十三時を過ぎていた。

 どうやら丸一日眠ってしまったらしい。ようやくそのことに気付き、歩美は飛び起きる。床に直接寝転がっていたせいで、体中がぎしぎしと痛んだ。

 しかし、その体からはらりと落ちた物には、柔らかい感触があった。

 床に落ちたのは、いつも使っている安物の毛布。しかし、歩美の脳内には、これを押し入れから引っ張り出した記憶はない。しかも、毛布だけというのも奇妙だ。不思議に思った歩美は、寝ぼけ眼の視界で、部屋を見渡す。

やはり、本棚には例の人形がない。しかし、今回はカップ麺を食べられたような形跡はなかった。エナの姿も見当たらない。

まさか、今朝強く当たってしまったから、外に逃げてしまったのでは。そう考えると、歩美は一気に目が覚めた。

そして、慌てて外出の準備をしようとした時、歩美はキッチンの方から妙な音を耳にした。

何気なく、不便にもリビングから切り離されたキッチンを覗くと、そこではエナが、一人で料理をしていた。その手に握るフライパンには、一口サイズに切ったキャベツと豚肉。彼女はそれらを細い腕で、手際よく炒めていた。

油と調味料が程よく混ざり、いい匂いがする。歩美はエナがいた安心とその光景に驚いたことで、しばらく硬直してしまった。

「エナ……!」

 そして、思わず声が漏れた。

 すると、それに驚いたのか、エナは手元を狂わせて、ほぼ完成した炒めキャベツを数枚、ガス台に落としてしまった。

「あっ」

 エナはそのショックで一瞬固まってしまったが、すぐに作業を再開し、二人分の肉野菜炒めを皿に盛った。

 失敗を見られたことによるショックだろうか。それをテーブルに運ぶエナは、歩美とすれ違っても何も言わなかった。歩美も、驚かせてしまったことの責任感を感じずにはいられなかった。

 ふと、歩美はガス台に落ちたままのキャベツを拾って食べた。

 美味しい。東京で買える素材は、どれも田舎の直採れ物には劣るが、エナの調理技術が、その差を十分すぎるほどに埋めていた。

 歩美がその味に感動していると、背後の炊飯器が早炊きの完了を告げる特殊なアラーム音を奏でた。それに反応して、エナが駆け足で戻ってくる。彼女はやはり何も言わず、黙々としゃもじで完成した白飯をかき混ぜ、歩美の茶碗によそっていく。茶碗はそれしかないので、彼女は自分の分を普通の皿によそうと、また何も言わずに、炊飯器のふたを閉めてテーブルに着いた。

 予想していなかったエナの行動に、歩美はまたしても硬直してしまう。

「……食べよう」

 しかし、歩美から目を逸らすエナの一言が、歩美を硬直状態から解放した。


 エナが作った確実に美味しいはずの夜食は、互いに何も話さない気まずさのせいで、あまりちゃんと味わえなかった。歩美は、できればエナを全力で褒めちぎりたいところだったが、どうにも言い出すタイミングがつかめずに、ついに何も言えずに完食してしまった。

 キッチンで食器を洗っている間も、二人は一度も口を開かなかった。

 そして一通りの作業を終えると、二人は特にやることもないのに、テーブルに戻る。

 そしてついに、歩美が勇気を振り絞って声を出した。

「「あっ……」」

 偶然にも、エナとかぶってしまった。余計に気まずい。再び、静寂が二人を襲った。

「さ、先に言って」

 エナがひねり出したような声で、歩美に譲る。だが歩美も顔を赤くしたまま、しばらく声を出せないでいた。

「……す、すごく、美味しかった。料理。また、ほしい、作って……」

 年下の少女になんてことを言っているんだ私は! しかもとんでもない片言で! 歩美が心の中で自分を殴っていると、ようやくエナの表情に笑顔が戻った。

「……ありがとう」

 限りなく無表情に近いが、まるで天使のような、底知れない優しさを感じさせる笑顔が、そこにはあった。救われた。そう感じた時には、歩美の顔は火でも出そうなほどに赤くなっていた。

「それで、エナは?」

 ついに涙の浮かび始めた目で、歩美は反撃する。

「……ちょっと変な話」

「いいよ、何でも話してごらん」

 歩美は、今朝のエナに対する自分の態度を反省し、できるだけ彼女の話を信じて聞くようにした。

 エナの大きな双眸が、しっかりと歩美を捉える。

「初めてアユミと会った時、アユミ、すごくぐったりしてた。その後もそう。アユミ、普段は楽しくなさそう。何かあったの?」

 元々一人暮らしだったせいか、就活失敗による歩美の落胆ぶりは、部屋の中では隠しきれなかったようだ。仕方なく、歩美はこれまでの出来事を話すことにした。

「エナほどの大事じゃないけどね。やりたい仕事、全部断られちゃったのよ。夢、叶わなかったなーって思ってさ。それで、最後の望みがなくなった時に、君を見つけたの。ちょっと慰められたかも」

 もしも、もう少し早く、何か別の形で出会えていれば、お互いこんなに苦しまずに済んだかもしれない。そんな気持ちを飲み込んで、歩美はできる限り明るく振舞って見せた。しかし、エナは彼女の奥に潜むそのもやもやを見抜くように、鋭く澄んだ目線を向けていた。

「夢、あきらめちゃうの?」

「そりゃそうよ。無理なものは無理。都会に出て嫌ってほど思い知らされたよ」

 適当に振り払う歩美に対して、エナの関心はどこまでもまっすぐだった。

「エナは、ずっと夢見てる」

「ほう、どんな?」

 ここまでエナが積極的に自分のことを話すのは初めてのことだった。歩美はそれを聞き逃すまいと、軽く身を乗り出す。

「空を飛んでみたい」

 それはいかにも子供らしい、幼稚な夢だった。

「鳥みたいじゃなくてもいいから、飛行機とかヘリコプターで、空を飛んで、色んな所に行きたい。そのために、どこにでも連れて行ってもらえる人形になりたかったの」

 歩美はその言葉を聞いて、心の底から涙が沸き上がってくるのを止められなかった。あの夜の流星群がエナの夢を叶えたのなら、これほど中途半端で、意地悪な叶え方があるだろうか。それまで自分を見捨てる都会を嫌っていた歩美の怒りは、その悪質な流れ星に向けられた。

 そして、思わずエナの体を強く抱きしめた。

「ア、アユミ……?」

「わかった。その夢、絶対に私が叶えてあげる。もう意地悪な流れ星なんか、いらなくなるようにね」

 端的に表現すれば「愛」だろうか。エナは初めて感じるその気持ちを、両手で優しく包み込んだ。

「よしっ、そうと決まれば……」

 突然歩美は立ち上がり、何やらスマホを操作し始めた。

「何してるの?」

「飛行機探してるの。もうすぐ宮城に帰るから、その時に一緒に乗ろうよ!」

 その時、エナの表情が初めて笑顔で埋め尽くされた。しかし、必死に画面を操作する歩美は、その瞬間を見逃してしまった。

 そして、仙台空港行の便を探すため、時刻表のページを開こうとした瞬間。

「あっ」

 突然訪れた仕事に、歩美のスマホがついに限界を迎えた。電力不足のマークをダイイングメッセージのように表示してから、その画面を暗く静かに閉ざした。

「ごめん、充電切れ……」

 震える瞳で振り向いた歩美に、エナは優しく笑いかけた。

「ううん、いいの。エナの夢なんだから、ゆっくりでいい」

 この時、歩美の目標は東京に残ることより、いかにして飛行機で宮城に帰るかに切り替わっていた。

 そしてその日、帰宅手段を電車から飛行機に変えたことで、貯金残高から計算できる残り日数が数日減った。


 ~☆


 エナと出会ってからの数日間で、歩美の生活はがらりと変わった。毎朝六時前に設定していた起床時刻は昼過ぎに。そしてエナが人形に戻る日の出を過ぎてから寝るようにした。寝るときはエナが辛くないように、同じ布団に入って、一緒に寝る。これを始めてから、エナが人形に戻る時の苦しみが和らいだらしく、歩美も安心して眠れるようになった。

 そして圧倒的に短くなった昼間の時間は、エナのために洋服を買ったり、夜でも無料で使える運動施設を探して回った。

 夜食は相変わらずエナの担当だが、たまに二十四時間営業の飲食店を見つけては、そこに食べに行った。エナにとってはどれも食べ慣れたファストフードだったが、それを物珍しそうに見る歩美の姿が、彼女を外に駆り立てた。

 人形に戻る恐怖もほとんどなくなり、エナの表情はしだいに豊かになった。そして歩美以外の、世の中のことにも興味を持つようになった。

 だが、そこまで多くのことを知ってしまったからこそ、エナは自分のために尽くす歩美のことが心配になった。

 時々エナが「こんなに夜ばかり起きていたら、帰った時に怒られる」と言うと、歩美は「別に。どーせあんなド田舎で真面目に働く気なんてないし」と、適当に振り払われてしまう。エナは、今の歩美を彼女の家族や地元の仲間達が見たらどう思うか、自分のことよりもそれが不安だった。

 こうして、何気なく十日間が過ぎてしまった。

 その夜、食事を終えた歩美は、珍しくスマホのニュースに食いついていた。

「うへぇー、すごいことするなー」

「アユミ、どうかした?」

 食器を洗い終えたエナが、歩美の横からスマホの画面を覗き込む。

「これよこれ、昨日の国際航空機爆破事件。犯人捕まえた人、犯人と一緒にパラシュート無しで飛び降りたんだって」

 画面にはその他にも、エンジンには影響がなかったため不時着に成功したことや、犯人を捕まえた超人がいまだに見つかっていないこと、犯人がとある犯罪者グループの一員であることなどが書かれていた。

「これ、アユミの乗る飛行機にも出ないよね……」

 エナがそれを読みながら、不安そうに声を漏らす。

「まっさかぁ。私達のは国内線だし、こんなことめったに起きないでしょ。あっ」

 突然、歩美が思い出したようにバッグをあさり始める。そして、中から一枚の小さな紙きれを取り出した。

「じゃーん。これなーんだ?」

 その紙には、青地に無数の数字や記号が書かれていた。エナには一瞬、その意味が理解できなかったが『羽田発』の表示を見て、すぐに目が輝いた。

「き、切符……。アユミの……!」

 歩美が無言で、得意げに頷く。そしてゆっくりと切符をつまむ指をずらすと、その後ろから同じ切符がもう一枚現れた。

 エナは再び、混乱した。元々、人形の状態で歩美の荷物として飛行機に乗るつもりだったので、なぜ二人分の切符があるのか、わからなかった。

「ほらほら、発着予定を見て」

 歩美が指差した先、発着予定の時刻には『三時~四時二十分』と記されている。それを見て、エナはすべてを察した。

「もちろん窓際の方が君の分。エナ、一緒に乗ろう!」

 そう言う歩美の笑顔を見た時、一瞬でエナの瞳に涙が溢れ、大粒のしずくとなって次々にこぼれ落ちた。

「アユミ……、アユミ………!」

 我慢できず、エナは歩美に勢いよく抱きついた。

「大、好き……っ!」

 泣きながら胸に顔を擦りつけるエナの頭を、歩美は優しく撫でた。東京に来て、自分の夢は何一つ叶わなかったけれど、エナの夢を叶えてあげることができる。それだけで、歩美は上京してから最大の幸せを感じていた。

「あっ、でも……」

 はっ、と気付いたように、エナが顔を上げる。だが、歩美にはエナの不安がだいたい理解できた。

「お金は大丈夫。こっちにいられる時間は短くなっちゃうけど、むしろ田舎の方がお金かからないしさ」

 一時は不安に曇ったエナの表情が、再び希望に輝いた。

「ありがとう、アユミ、ありがとう……」

 そしてその夜は、静かに終わりを告げた。


 ~☆


一時。

「エナー、準備できたー?」

「うん、ばっちり」

 鏡に向かって必死にくせ毛を整える歩美を、エナは玄関近くで待っていた。と言っても、エナの持ち物は数枚の着替えだけで、荷物のほとんどが歩美の私物で埋め尽くされている。それでもエナは、半分は自分が持つと言い張って荷物を分けた。ここまで自分のために尽くしてくれた歩美に、料理以外にも何か恩返しがしたい。その感情が、今のエナにとっては何よりも優先された。

「……よし、まぁいっか!」

 何とかくせ毛処理に区切りをつけた歩美が、自分の荷物を持ってエナのもとへ向かう。その身には久しぶりに就活用のスーツを纏い、いまだに春の始まりを思わせる独特の緊張感を漂わせていた。もっとも、歩美がそれ以外にろくに遠出できる服を持っていなかったのが、今回のチョイスの原因なのだが。

「じゃ、行こうか」

 初めからあった家具以外、すべての物がなくなった部屋に最後の別れを告げ、二人は外に出た。


 最寄り駅から先の移動は、エナにとって完全に未知の領域だった。初めて手にする切符、初めて乗る複雑な地下鉄、初めて歩く迷路のような乗換駅……。すべてが疲れるほどに新鮮で、エナの呼吸は感動に荒れていた。

「エナ、大丈夫?」

 二人以外誰もいない車内で、歩美は何となく話しかけた。

「……うん、それより、早く飛行機に乗りたい」

 希望の光に満ちたエナの表情は、無邪気な子供そのものだった。歩美にとって、それまで就活で幾度となく苦しめられた地下鉄も、そんなエナの存在が嫌な記憶を振り払ってくれた。

「実は、私も飛行機初めてなんだよね。ちょっと緊張してきたかも」

「えっ、そうなの?」

 エナが目を丸くした。

「実はね。修学旅行も新幹線だったし、ここまで遠出したのは、東京が初めてだったり」

「じゃあ、二人の初めてだね!」

「ははっ、そうかもねー」

 何気ない二人の笑い声が、地下鉄の雑音に混じって車内に響いた。

そして。

「で、でかい……」

「おぉ、大きい……」

 羽田空港。距離が短いからと油断していた歩美も、本の中でしかその存在を知らなかったエナも、初めて間近で見る飛行機の巨大さに圧倒された。

「ねえ、これからあれに乗るの?」

 エナが、いつになくハイテンションで聞く。一方で歩美は緊張のあまり「た、多分……」くらいしか答えられなかった。

 切符の確認を終え、荷物検査を問題なく通過すると、いよいよ搭乗通路で、歩美の体が震え始めた。田舎に帰ることへの不満だけではない。エナと出会い、多くの思い出を作った東京を離れることが、今さらながら歩美には耐えがたいものがあった。

「アユミ?」

 通路の途中で立ち止まる歩美に、手をつないだエナが不安そうに声をかける。

「ううん、大丈夫。向こうでも夜食、作ってね」

「……うん!」

 エナの元気な返事を聞くと、まだ涙のこぼれない目をこすって、歩美は再び歩き出した。


 本日はご利用いただきどうのこうのというアナウンスを完全に無視し、エナは窓に張り付いていた。

 飛行機が瞬く間に規定の高度に達し、多くの乗客が社会の疲れに満ちた表情で眠りにつく中、エナと歩美だけが、都会の夜景に興奮していた。

「よかったね。エナの夢、叶ったよ!」

 歩美が背後から声をかけるが、感動のあまり言葉を失っているのか、エナは何も言わなかった。きっとそういうことなのだろうと歩美が勝手に納得していると、エナはゆっくりと席に座り直し、落ち込んだような表情を歩美に見せた。

「……今度は、エナの番」

「えっ?」

「エナが、アユミの夢を叶える番」

 歩美は、思わず言葉に詰まった。自分はこうも簡単にエナの夢を叶えてしまったが、自分の夢は子供がどうにかできるレベルの話ではない。だが、もうその夢を隠し通すことに、精神的な限界を感じていた。

「アユミの夢は?」

 それでも、歩美はまっすぐエナを見ることはできなかった。

「別に。ちょっとしたファッションデザイナーだよ。そのために美大も卒業したんだし。でもいいんだ。こうしてエナの役に立てたんだから」

 この場で言えることはすべて言ったつもりだったが、エナの瞳は暗いまま、じっとりと歩美を見続けていた。

「……正直、すごく悔しい。せっかく何年もそのためだけに頑張ったのにさ、田舎者って言われても必死に勉強して、最初に落ちた日はそりゃ眠れなかった。でも、無理なものは無理なんだから、いつまでも引きずってるわけにはいかないよ」

 そして、エナと出会ってからずっと心の奥にしまい込んでいた言葉が、不意に歩美の口を突いた。

「もしも、もう少し早く、何か別の方法で出会えていれば、お互いこんなに苦しまずに済んだかもしれないのにね」

 それは、エナも同じだった。だが、今まさにエナの夢は叶っている。一人だけ幸せになってしまったことで、エナは自分が許せなくなった。世の中の仕組みはよく知らないが、きっと歩美の夢は、自分の力ではどうにもできない。それくらいのことは知っている。それでも、もしも、もう少し早く、何か別の方法で出会えていれば、もっと多くのことをしてあげられた。直接は無理でも、歩美の夢を応援するくらいのことはできたかもしれない。料理以外に何もできなかった悔しさが、エナの表情をさらに曇らせた。

 二人の夢を乗せたはずの飛行機には、その後二人の声が響くことはなく、ただ静かに飛び続けた。


 離陸から約一時間。着陸態勢に入る準備を始めようとした機内に、突然男の声が響き渡った。

「てめぇら、これから一歩も動くなよ!」

 何事かと、乗客達の間にざわめきが広がる。その中で立ち上がったのは声の主、無精ひげを生やしたやせ型の中年男だった。

「これからこの飛行機を、アメリカまで向かわせる。ちょっとでも抵抗すれば、てめぇらを撃つかこの飛行機を爆破する! いいか、黙って座ってろよ!」

 男は右手に拳銃を構え、上着の内側に忍ばせた爆弾を見せた。

 ハイジャックだ。男が操縦席に向かって歩く間、機内の誰もがそう思った。先日の国際航空機爆破の犯人はあるグループの一人。つまり、今この飛行機を乗っ取ろうとしているこの男もまた、同じグループである可能性が高い。つまり、ドッキリなどという生ぬるいものではなく、彼が本物の犯罪者であるということだ。

 男が客室から消えた後、一度だけ鋭い銃声が響いた。

 歩美は恐怖に怯え、震える脳で必死に考えた。そもそもこの短い国内線でアメリカまで行けるのか? いや、できる。なぜならこの便は安さを優先するため、小規模な国際線の機体を流用したものだから、国をまたぐ程度の飛行はできるはずだからだ。機体が予想より大きかったのも、きっとそのせいだろう。おそらくあの男も、それを知った上でこの便を狙ったのだろう。考えてもいなかった可能性に、歩美はあるはずがないと笑い飛ばした先日の自分を、心の中で激怒した。

 突然、機体があらぬ方向へ傾いた。予定の航路を外れ、太平洋に向かって進み始めたのだ。

 しばらくして機体が安定すると、男が客室に戻ってきた。

「いいか、何度も言うがぜってーに動くなよ! さっきも一人、俺を止めようとした添乗員をヤってきた。わかってんな。俺は容赦しねーぞ!」

 そう言うと、男はいつでも逃げ出せるように、緊急脱出用の非常口の前に陣取る。

 航路が変えられたということは、男の目的は半分達成されたことになる。このまま何もせずアメリカに到着すれば、全員無事で済むのだろうか。いや、その保証は何もない。かつての同時多発テロのように、飛行機そのものを何かにぶつける可能性だって、十分にあるのだ。そのことを思うと、歩美は動かないどころか、震え以外に体を動かすことができなくなった。

 しかし、エナは違かった。

 客室の誰もが命の危機に震える中、その小さな少女だけが、ゆっくりと立ち上がった。

「……エナ?」

「アユミ、止めないで」

 エナはやっと見つけた。歩美のためにできることを、歩美がいつか夢を叶えられるように、これからも生き続けられるようにできることを。

「エナ、やめて! エナ!」

 歩美の必死の静止にも応えず、エナはゆっくりと男に近づいて行く。

「なんだてめぇ、ガキが調子乗ってんじゃねーぞ!」

 歩美の声に反応した男が、すかさず発砲した。

 拳銃から放たれた弾は、正確にエナの頭部を捉えた。そして、鈍い音と共に、標的を貫通した。

 ほとんどの乗客が、そこから目を背けたり、手で顔を隠したりした。しかし、歩美は絶望のあまり、そうすることもできなかった。エナが銃弾に貫かれる様子を、すべて目にしてしまった。

「大丈夫。エナは、アユミを悲しませたりしたくないから……」

 確実に撃ち抜かれたはずのエナが、その足を止めることはなかった。急所を外したのだろうか。男が慌てて、さらに数発撃ちこむ。しかし、そのすべてが命中したエナは、まるでそれらを意に介さず、ついに男の目の前まで迫った。傷口からは大量の血が流れ、それでも無表情を保つ。まるで人形のようなその様子が、男に底知れない不気味さを覚えさせた。

「な、なんなんだよ、てめぇは!」

 男の表情が恐怖に歪み、エナから逃れようと壁に張り付く。しかし、彼に放ったエナの言葉は、あまりにも現実からかけ離れていた。

「意地悪な流れ星が、ちょっといいことしてくれたの」

 あの夜、エナは人形になること以外に、もう一つだけ願い事をしていた。それは、他の誰かと一緒に生きること。それだけは、ちゃんと正確に叶えられた。歩美と一緒に、生きることができた。エナは、それが確認できたことに満足していた。

「くっ、くそぉっ!」

 震える手で、男は非常口のレバーに手を伸ばす。

 しかし、男の手が届くよりも早く、エナの細い手が、レバーを動かした。

 ガコン、という音と同時に壁が外れ、気圧の差による猛烈な暴風が機内を襲う。最もその近くにいた男が、外に放り出された。

 一瞬の静寂の後、機内に歓声が響き渡る。ハイジャック犯は消えた。その喜びに、乗客達は互いに抱き合ったり、泣いたりして喜びを分かち合った。

 しかし、エナが歩美のもとに戻ることはなかった。

「……ごめんね、アユミ」

 消えそうなほど小さく、透き通った声が、まるで鶴の一声のように機内を静まり返らせた。

 犯人を吹き飛ばした正義の風が、次の標的にエナを選んだのだ。エナの体が、少しずつ外側に引っ張られていく。

「待って! エナ! 行かないで!」

 歩美が席を飛び出し、非常口に向かって走る。非常口の近くにいた数人の乗客も、事の緊急さに気付き、エナに近づこうとした。

「さよなら。夢、叶えて……」

 しかし、その言葉を最後に、エナの細く軽い体は、いとも簡単に外に消えてしまった。その様子は、その場にいた、歩美を含むすべての乗客の目に、しっかりと焼き付いた。

 風の音がごうごうと鳴り響く機内が、それまで以上に静かに感じられた。

 その場から一歩も動くことなく、こぼれ落ちる大粒の涙に手を伸ばすこともなく、歩美は膝から崩れ落ちた。

「そん、な……。エナ……、そんな………」

 これはきっと夢だ。犯人がまだ残っていても構わない。エナはきっと席で恐怖に震えているはずだ。そう信じ、歩美はエナの席に振り向く。しかし、そこには二人分の手荷物以外に、何も残されてはいなかった。歩美とエナの荷物だけが、エナがそこにいた証だけが、静かに置いてあるだけだった。

 数人の乗客が歩美に近寄り、慰めの言葉をかける。中にはもらい泣きする者までいた。しかし、真っ白になった歩美の心には、彼らの声が届くことはなく、ただ虚無の夜空だけがはっきりと映っていた。

 外を覆う暗い空には、予報より数分早く、朝日が昇り始めていた。


 ~☆


 想定外のトラブルにより、歩美達の乗る飛行機が仙台空港に到着したのは、予定より一時間以上遅い、五時半のことだった。

乗客達が安どの表情で緊急時用のタラップを降りる中、歩美だけはろくに動けず、添乗員に支えられて、なんとか滑走路に降り立った。

 周囲には警察や救急の車が大量に停められていたが、迅速な解決のおかげで、それらの世話になる者は、撃たれた添乗員以外一人もいなかった。

 それから一時間ほど後、歩美は空港内の小部屋で警察の事情聴取を受けたが、魂の抜けたような体からは、最後まで自分の名前以外に何も言うことができなかった。ただ、今夜は念のため、警察が用意した宿に泊まることだけが、歩美の脳内に留まった。


 その日の正午頃、空港近くのホテルの一室。点けっぱなしのテレビからは、ハイジャック未遂のニュースが延々と流され続けた。まるで先日の爆破事件の時のようだ。そんなことを考えていると、一瞬だけ歩美の頬がひきつったりもした。

 不意に、部屋の扉が開かれた。歩美がその方向を見ると、そこには二人の警察官がいた。

「岡崎さん、お疲れのところ申し訳ないのですが、捜査に進展があったので、お知らせに参りました」

 歩美は何の反応も示さない。最初からそうだったので、警察官は構わず話を進める。

「あなたは事件当時、犯人に向かって行った少女にエナと呼びかけたそうですね。彼女とはどのような関係ですか?」

「………ぁ」

 歩美は、声を振り絞ろうとした。しかし、エナのことを、どう説明すればいいかわからず、その口からは思いもよらない言葉が出た。

「……初対面です。名前はその場で知りました」

 嘘だ。そんなはずがない。これは警察のさらなる取り調べを避けるために、無意識に放ってしまった嘘だ。エナのことに対して、平気でそんなことを言える自分を、歩美はこの世の何よりも嫌いになった。

「そうですか……。それと、もう一つ」

 警察官が手元の紙に記録すると、その下からもう一枚の紙を取り出し、歩美に見せた。

「事件があった空域付近の海から、こんな物が見つかりました。おそらくそのエナという少女に関係があると思うのですが、何か心当たりは?」

 その紙には、発見した座標など難しい説明文の下に、女の子の人形の写真が載せられていた。

 歩美は、その写真から目を離すことができなくなった。長い金のツインテール、青く輝く瞳、鮮やかな薄橙の肌……。頭と体には数か所穴が開き、全身が海水を吸い込んでひどく劣化していたが、それは忘れるはずもない、エナだった。

 すかさず歩美は、警察官からその紙を取り上げ、何度も見直す。やはり、何度見てもエナそのものだった。

「エ……、私の人形です! どこにあるんですか?」

 その言葉を聞くと、警察官は納得したような表情で、歩美から紙を受け取った。

「そうでしたか。犯人には関係ないようなので、すぐにお返しできると思います。ではこちらへ」

 もうすぐ、エナに会える。きっととても辛く、怖い思いをしたことだろう。会えたらすぐに慰めてあげよう。いつまでも抱きしめよう。歩美は心の中でそう決めた。


 しかし。

 その夜、待てども待てども、エナが人間の姿になることはなかった。劣化し、穴の開いたその人形は、ただ無機質な笑顔を浮かべたまま、歩美の目の前にたたずみ続けた。

 エナは、死んだ。

 そんなことは、わかりきっていた。あの高さから飛び降りたのだから、無事なはずがない。あのニュースに出ていた超人は、きっと普通の人間ではないのだから。それでも、エナは人形だから、死なないかもしれない。そんなファンタジー極まりない希望に、歩美は最後まで縋りついていた。

 再び虚無に染め上げられる心をどうにかしようと、歩美はスマホの画面を点ける。飛行機に乗るために切断していた通信を再開すると、一斉に現れた無数の通知は、やはり家族からの不在着信ばかりだった。

 しかし、その中に一つだけ、違う色の通知が来ていた。就活用に作ったメールアドレス宛てのものだ。歩美は何となくそれを開くと、中身は最初に歩美を落とした第一志望の会社からだった。

「……えっ?」

 歩美は思わず目を疑い、その内容を何度も読み返す。しかし、綴られた文面は変わらなかった。

 合格通知だった。

 入社試験の処理に手違いがあったらしく、それによって歩美が不合格扱いになっていたらしい。

 エナのいないこの部屋で、歩美は一人、静かに泣きじゃくった。

「遅いよ……。どうして、もっと早く……」

 もっと早くこの通知が来ていれば、あの飛行機に乗ることはなかったはずなのに。エナが死ぬこともなかったはずなのに……。

 歩美は、どこまでも都会に嫌われていた。


 ~☆


「……ただいま」

 栗原市の農村地帯にぽつりと建つ、平屋の一戸建て。東京の部屋から見れば何倍も大きい実家に、歩美は帰ってきた。

「おっ、歩美か!」

 玄関の扉を開けると同時に、歩美の兄が駆け足で詰め寄ってきた。

「なんで何も連絡しなかったんだよ! 心配したんだぞ! どーせまともな仕事も見つかんねーで、泣き泣き帰ってくるんだろってな!」

 予想通りだったのか、どこか得意げに叱る兄を、歩美は暗い表情で押し返す。

「ごめん、色々あったの。飛行機が乗っ取られたりして……」

 すると、兄はややわざとらしく、驚いて一歩引く。

「えっ、マジかよそれ。つーか、なんでお前飛行機なんかで帰ってきてんだよ」

「とにかく、私は疲れたからしばらく寝る。母さんにもそう言っといて」

 そのまま、歩美は二人分の荷物を引きずって、自室に消えた。

「お、おう……」

 何も知らない兄には、歩美に何があったのか、まったく想像できなかった。


 歩美の部屋は、数か月前に勝手に抜け出した時から何も変わっていなかった。仙台の美大に出るまでの退屈な日々が、歩美の脳裏をよぎる。しかし、それよりも東京に出て、エナと出会ってからの数日間の方が、その記憶を押さえつけて蘇ってきた。

「また、すぐに行かなくっちゃね……」

 事故があったとは言え、一応東京での仕事は手に入れたのだ。家族にそのことを伝えたら、すぐにあの狭いアパートに戻らなければならない。しかし、エナのいない生活を想像すると、なかなかそんな気にもなれなかった。

 歩美は荷物を整理することもせず、部屋の押し入れから最低限の敷き布団だけを引っ張り出し、スーツ姿のまま眠りについた。


 歩美が妙な音で目を覚ましたのは、日付が変わってからのことだった。深夜零時半過ぎ。誰もが寝静まったはずの自宅に、あるはずのない生活音が響き渡る。

 不思議に思った歩美が体を起こすと、引っ張り出した記憶のない掛け布団が、はらりと落ちた。

 まさか。経験したことのある流れに、歩美はいても立ってもいられなくなった。荷物の中にエナはいない。慌てて部屋を飛び出し、少し遠いキッチンに走る。

キッチンを覗くと、そこでは見慣れた姿の少女が、一人で料理をしていた。その手に握るフライパンには、一口サイズに切ったキャベツと豚肉。彼女はそれらを細い腕で、手際よく炒めていた。

油と調味料が程よく混ざり、いい匂いがする。歩美は彼女がいた安心とその光景に驚いたことで、しばらく硬直してしまった。

「エナ……!」

 そして、思わず声が漏れた。

 少女がその声に反応して、歩美を見る。

 その姿は、歩美の記憶と完全に一致していた。長い黒髪も、赤茶色の大きな瞳も、白い肌も、すべてが彼女の記憶の中にあるエナの姿だった。

「アユミ、もうちょっと待ってて。すぐにできるから」

 聞き慣れたその声とほぼ同時に、別の声が外から聞こえた。

「んぁ? なんだぁこんな時間に……」

 兄だ。兄が目を覚ました。歩美はとっさにエナを隠そうとした。理由は言えないが、とてもまずいような気がした。

 しかし、歩美にキッチンの隅に押し込まれそうになるエナは、得意げに笑って見せた。

「大丈夫。アユミは、料理の続きをお願い」

 そう言うと、エナの体が突然変色し、人形サイズに縮んで、そのままぽとりと床に落ちた。それは穴も汚れもない。きれいな人形の姿だった。

「え、えぇっ?」

 歩美は何が起こったのか理解できなかったが、兄がキッチンに入る頃には、人形のエナを抱えてフライパンを振っていた。

「なんだ、歩美か……。夜食なら、あんまし食いすぎんなよ。朝辛くなるぞ」

 それだけ言うと、兄はあくびをしながら、何事もなかったかのように去って行った。

 兄の足音が消えてから、人形が人間のエナの姿に戻った。歩美が驚いて手を離すと、エナは満面の笑みを浮かべて、こう言った。

「お願い、変えてもらっちゃった」


 人形として生きていくことを選んだ少女エナは、人間としての生き方を思い出した。

ただ一つ、松本恵奈の記憶だけを取り残して。


 ~☆


人間が得る情報の約七割は、視覚によるものとされている。つまり、見た目さえよければ、それ以外のマイナス要素はある程度ごまかされてしまう。ということだ。

だが、時としてその大きなプラス要素は、ほんの小さなマイナス要素を引き立ててしまうこともある。

 「かわいいから許す」など、そんな判断基準はただの幻に過ぎない。

 見た目の陰に隠れた無数の輝きを、いかに引き出すか。そのような技術が、私達が人と向き合い、成長していくためには必要だと考えている。

 岡崎歩美の、最初の面接記録の一節である。


 すべては、ファンタジー極まりない運命とやらだったのかもしれない。

 百合はすばらしい。この一言に尽きます。反応次第では続編や外伝も書いてみようかな……。

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