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異世界へ







眩しい。瞼の上から太陽の日差しを感じる。

朝???あれ?私何をしてたっけ?バイト終わって...家に帰ろうとしてた気がする...急に身体が熱くなって......ケーキ...ケーキ!!雪に落ちたんだ!崩れちゃう!!!






意識を覚醒すると共に、飛び起きて、右手に持っていたケーキへと視線を巡らせた。

しかし、目に映ったのは予想していたケーキの入った箱ではなく、自分の者とは思えない、薄汚れた小さな手だけだった。



「え?何これ」



私気を失って、目覚めただけだよね?



驚いて出た声はとても幼かった。自分の身体を見回してみた。身体も幼い。小学生低学年か高学年か迷う微妙なサイズ感だ。

そして肩に掛かった髪の色がおかしかった。林檎のように深い赤色なのだ。自分から生えているの物だとは信じられなくて、引っ張ってると痛かった。私の髪の毛なんだと認めるしか無かい。


私は高校生になって直ぐに、大人っぽくなりたいと髪の毛を染めたけれど、頭髪検査に引っかからないレベルの明るさの茶髪だった。こんな反省文回避不可能で即帰宅させられたような色では無い。




自分自身を良く見ていくと、私は全体的に薄汚れていた。あちこち小さな穴の空いた大人用のシャツをワンピースの様にして着ていて、袖を捲って調節して手を出している。靴は靴下も履かずに、左右違う物を履いていて、右足は脱げそうだ。服も手足も黒ずんでいる。


足元には起き上がった時に落ちたと思われる汚い大きな布が落ちていた。眠っていた時に掛けていた様だ。



もしかして私あれを掛けて寝てたの?うわ、最悪。絶対臭いよ。



布で寒さを凌いでいたのかなと考えた所で、辺りには雪も積もっておらず、辺りがワンピース1枚でも少し肌寒いなと感じるくらいの気温だと気付いた。確かに冬でも日中暖かい事はあるけれど、流石に薄手のシャツ1枚で外にいて平気な訳がない。


もしかして、場所も移動してる?と急いで辺りを見渡すと、石畳の狭い道で両側と背中には煉瓦造りの建物が建っている。どうやら路地の行き止まりの様な場所にに座り込んでいたみたいだ。



石畳と煉瓦って外国みたい。



そんな感想しか出てこないくらいに私は混乱していた。目が覚める前の状況と何もかもが違って、目の前の現実に脳が追いつかない。

ああ、夢なのかと一瞬思ったけれど、頬に当たる風や石畳の上に寝ていたことで体のあちこちにくる痛みが長くは夢だとは思わせてくれなかった。ここは現実だ。




「取り敢えず現状を確認しよう」


「私は冬の夜道で気を失った。目が覚めたら赤い髪の子供になっていて、知らない場所にいた。何処かは分からない。汚れている。持ち物は汚い布だけ」



声に出して自分の状況確認していく。今分かることはこれだけだった。酷い有様だと思う。




路地を出て、まずは場所の確認しよう。ここに居てもこれ以上分かることは無いだろうと立ち上がった。

薄汚れた布を持って行くか少し悩んだけれど、唯一の持ち物だと思うと持って行かないわけにはいかず、畳んで両手で抱えるように持つと、私は右足の靴が脱げない様に気を付けながら歩き出した。進める方向が一つで良かったと思う。


歩幅が小さく視線も低くなっていて、ただ歩いているだけなのに不思議な気分だった。


暫く歩くと時々左右にも道が出てきた。3つ目の右の道の奥に布に包まっている子供が何人か座り込んでいるのを見つけた。みんな薄汚れている。

話し掛けてみようと思い視線を向けると、子供の1人が睨む様な目付きで私を見てきた。そして、周りの子供達に目配せしなが、私を指差してきた。もしかして今の私を知ってる子達なのかもしれない。

そう思ったけれだ、思い違いだったみたいだ。気づいた時には子供達が大きな声で叫びながら立ち上がって、一斉にこちらに走って向かって来ていた。怖い。私を指差していたのではなく、私の持っている布を指さしていたのだ。



怖い!怖い!怖い!!!



私は必死に走った。体育祭でだってバイトに遅刻しそうな時だって、こんな全力で走ったことは無い。子供の小さな足がもどかしい。いつ肩を掴まれるんじゃないかと怖くて怖くて仕方がなかった。


路地を抜けて、大きな通りに出て、漸く振り返ることができた。肩で息をしながら呼吸を整えていく。

途中で子供達は追い掛けるのを辞めていたみたいで、後ろには人気の無い路地が奥に続いてるだけだった。

走っていたうちに右足の靴は無くなっていて、血が流れていた。足の裏を切ったみたいだ。

走っていた時は気付かなかったけれど、今になって痛みが出てくる。足の痛みを我慢しながら息を整えた。




呼吸が落ち着いてきて、そこで漸く周りを見ることが出来て、私を見る視線に気付いた。通りを歩く人から向けられる視線は蔑んだ物で、17年生きてきて、向けられた事の無い視線だった。存在自体を否定されている様で、私は耐えきれなくなって直ぐにこの場から逃げ出したかった。けれど路地に戻ることも恐ろしくて出来ずに、そっと路地の入口の横に蹲るように座り込むことしか出来なかった。



通りを行き交う人達は私とは違うシンプルだけれど、汚れていない綺麗な服を着ていた。ヨーロッパの何処かの国の民族衣装に似ている気がする。髪の色は茶髪や金髪が多く、たまに私と同じような赤や青、黄色、緑と言った、ファンタジーの世界の様な髪色の人がいた。


私のように薄汚れた人がいない事から、きっと私はニュースや社会の授業で習ったストリートチルドレンの様な物なのだろうと思った。

路頭で独力で生活する子供だ。海外では社会問題になっていたはずだ。現代日本にで暮らしていて、身近でストリートチルドレンを感じることは事は無かった。児童相談所や養護施設などがあって子供は保護される対象だったからだろう。

だから、ニュースや授業で習った時も、そんな子供たちもいるのかと何処か別の世界の話の様に感じていた。自分がそうなったらなんて考えた事もなかった。

その子供達がどの様にして生きていたのかを私は詳しくは知らないけれど、物乞い、窃盗、買春など犯罪に手を染めなければ生きて行けないと思う。



私には無理だ。



目から涙が溢れて、抱えるようにしていた布が濡れた。






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