1話 最強の契約者と紅蓮の皇女
人生初のオリジナル作品です。設定とかこの頃はかなり曖昧なので、ご了承下さい。
「蒼い月光と、紅い皇炎」
~プロローグ~
「はぁ……今年から若霧魔法学園に入学かぁ……」
電車に揺られ深い溜息をつく少年……月詠冬風、今年から若霧魔法学園に入るために色々手続きをするために学園へ向かっている最中である。
広大な海のど真ん中に位置する大きな島、人口は約1億人あまりという大規模な島である……
名前は(ユスティア王国)
この世界では魔力を生まれ持ったものは必ず妖精と契約させられる、魔力を持っていない人間は契約出来ない為普通に暮らしていることが多い。少し魔力値の高いものは精霊と契約できる、その魔力を調べる装置を王都で開発してユスティアの各地へ送られた。
単位はベクル(Bcrx)である。
ユスティア国内の王都フィリアス、それぞれの首都に若霧魔法学園の分校があり……本校はフィリアスにある。若霧魔法学園とは……生まれ持った魔力の使い方を教えてくれる学校である、その為魔力を持ったものしか入ることは許されない。
そのフィリアスの魔法学園に入学する少年……月詠冬風は生まれながらに計り知れないほどの魔力を内に宿して生を受けた少年である。
「……母様、僕はどうしたら良いでしょうか」
今にも泣きそうな声で呟きながら、胸元のペンダントのクリスタルを握りしめた。冬風の故郷では他では取れない鉱石という、魔力を吸収して蓄えておくことが出来る鉱石である。今ではもう出回っていない希少なクリスタルだが、安物なら市場で少しは出回っている。冬風が持っているクリスタルは太古に取れたクリスタルということで(エンシェントクリスタル)と呼ばれている。
冬風の母……月詠春音はこのクリスタルを家の裏にある山の奥の祠の結界の中で発見し、ネックレスに加工してもらい大切につけていた。しかし春音は重い病を患っており、冬風が3つの時に無くなった。冬風の父……月詠龍彦は冬風の実の兄である月詠秋水が6つに剣術の極意を全て教えた後、急用があるとかで家を出てそのまま行方不明になった。実質冬風と秋水は5つしか離れておらず、母親を失ったことになる。身寄りなどは1人だけ心当たりがあるが、遠くて気軽に行ける所ではない……それなので2人だけで生きてきた。
1話~最強の契約者と紅蓮の皇女~
冬風は電車に揺られながら強烈な眠気に襲われた。なぜ冬風が若霧魔法学園に入学するかというと、彼の伯父にあたるらしい現ユスティア国王、渚彦道という人が冬風に入学を推めてきたのだ。
(多分原因は……例の事件のことを兄の秋水に聞いたのだろう。伯父様は情報に関しては伝わるのが早いからな……)
~次はフィリアス、お出口は右側です。足元に段差がありますので、躓かないようご注意してお降りください。~
アナウンスで目が覚めた。
”冬風、そろそろ着くってさ。早く荷物持ってドアの方に行こうよ”
雅が霊化し、寝起きで意識朦朧としている冬風をリードしてくれた。雅は霊化している間は声は出せない、だから念話で話しかけている。そうすれば心のなかで会話できるからだ。
席を立ち、背中を鳴らした。ゴキゴキっという快音を放ち、やがて全身まともに動くようになってきた。荷物を持ち、電車を降りた。外はまだ寒く、鞄の中に入っていた黒いコートを羽織って改札を出た。駅を出てみるとすごく人の多い……まるで中世を思わせる趣のいい街があった。お金は秋水兄様から頂いているし、出発してから1日は経っている。
(今は午前の…9時か、道理でお腹が空くはずだ。)
僕は近くにある屋台でパンを購入し、急いで食べてから地図通り王宮へ向かった。王宮の門の前に着くと、門番が僕を見て通してくれた。
「これは冬風様、お待ちしておりました。どうぞお通りください」
冬風は挨拶しながら通った。なぜ僕のことを知っているかというと、渚 彦道は遠い親戚に当たる伯父様。なので城の皆は僕のことを知っている。
冬風も城の皆を知っている、ただ自分が生まれる数年前頃に伯父様の息子が結婚し、冬風が産まれた年に子供を産んだとかで喜んでいたと秋水兄様が仰っていた。僕はその子には会ったことも見たことも無いから分からない。冬風が最後に訪れたのは9年前……つまり小学校にも入っていない時に、招かれて以来来ていない。僕は城の人々に挨拶しつつ、伯父様のいる皇玉の間へと足を運んだ。大きな扉の前で身をと整え、扉番が叫んだ。
「冬風様のご到着!!これより扉を開きます!」
少しずつ開いてく扉。すると、伯父様が椅子に座り待っていた。
「久し振りだね、冬風君。まぁそこに座り給え」
頭をペコリと下げ、椅子に座った。するとメイドが僕の前に紅茶の入ったカップを置いて、そそくさと消えていった。
「いやぁ本当に久しぶりだ。昔は子供っぽかったのに、今では女性顔負けの子に育っておるわ、がっはっはっは」
(これを言われたのは何度目だろう……)
確かに今の僕の見た目は女性っぽいかもしれない、背中まで伸びている髪を紐で束ね、黒いコートの下は白いワイシャツ、ズボンは黒いスラックスだしな……でも、面と向かって言われると恥ずかしい。
「そうかもしれませんが、僕は男ですよ?伯父様。お久しぶりです、相変わらずお元気そうで何より」
内心では戸惑いつつも微笑みながら話した。伯父様もがははと笑っていた。昔から陽気で気前のいい方だったからな、病気になっているところなんて見たこと無い。それだけ元気な人だった。
「そうだな、それはともかく……冬風君、お主あの村で散々やったそうじゃな?」
やはりその話を聞いてきたか。
「はい……仰るとおりです」
僕は俯いた……。叱責されると思い歯を食いしばった。しかし、叱責は飛んでこなかった。
「ふむ……それで、そうした理由を聞かせてもらいたい」
意外に理由を聞いてくれた。あの村では誰も理由を聞いてこず、"殺した"というだけで鬼の形相で追いかけてきたのだから。
「理由……ですか、伯父様からしてはちっぽけなことと思いますが……僕の幼なじみである子覚えていますか?雨宮忍です」
「あぁ、よく冬風君と遊んでベッタリだった子じゃな」
そう、僕と兄様の2人の幼馴染みである雨宮忍という少女が居た。青い髪の子で好奇心旺盛で、面白いことにはとことん素直な女性だ。小中学と同じ学校で、登校から下校までずっと一緒だった。周りからは恨まれるほどに仲が良かった。特に冬風の場合はいつも一人で感情も表に出さず無口でとっつきにくいところもあった。それに忍は髪の色が蒼色でとてもではないけど目立っていた。なので男性どころか、女性ですら忍に近づこうと言う人間は居なかった。お互いに目立つ二人がいつも一緒にいれば、当然風評も悪くなる。それでも忍は僕から離れていく素振りなどは一切しなかった。そして、事件が起きたのは中学3年の冬の事……。
「はい、中学に入っても忍は僕とずっと一緒でした。ですが、あの日……忍の帰りが遅いなと思い学校へ向かうと、1台の救急カプセル
(医療用のカプセル、これに入れられ病院に搬送される。原動力は魔力を宿したクリスタル)
とすれ違いました。その後に僕をよく思わないと思っているのを分かっていたから、あえて遠ざけてた先輩方と僕をずっと睨んでくる同級生たちに囲まれました。そして彼らはなんと言ったと思います?
忍を意識不明になるまで殴ったり蹴ったり……暴行を加え続け動かなくなった後も加えていた、お前と離れていてくれたおかげでやりやすかったぜ……と喜々として語っていました。その時に頭が真っ白になり、気がつけば……皆殺していました、彼らの頭と血液意外は全て消し飛ばして……。」
うむぅ……と伯父様は唸った。
「僕はその時覚悟もなく手にかけてしまいました。その結果逃げる事に……そして家に帰り秋水兄様が謝ったことを知り、家の裏山の奥の祠で泣いてたら雅と出会いました」
その時、伯父様は目を見開いた。
「冬風君……雅と出会ったのか!」
それはもうものすごい迫力だった。
「えぇ、僕はその時あんな惨劇を繰り返さないようにと雅に力を求めました。そして契約しまして……そして僕は覚悟を決めました。
大事なものを守る覚悟、そのために自分を犠牲にしてでも守る覚悟、そして……人を殺す覚悟です」
いつの間にか僕の表情からは微笑みが失せていて、伯父様はびっくりした顔だ。
「冬風君、君はやはり春音と親子だな……」
「母様と?」
「春音もな、好きな人を守るために力を求めて雅と契約した。そして、彼女は見事守り、病に冒され死んだ。死ぬ数年前に生まれたのが、君と君の兄だ」
僕もびっくりした顔になった。まさか僕は母様と同じ道を……?
「だけど、守るために多くの人を殺めたのもまた事実……君たちにはそうなって欲しくはなかった。」
少し悲しそうな顔をする伯父様。だけど……だけど、僕はもう決めたんだ。
「安心してください、伯父様。僕は死のうと思っても死ねない体になったので……だから次こそは我が身を削ってまで守り切ってみせます。それに、もう1人ルシファーとも契約した以上もう後戻りはできませんし……この先苦難の連続だと思いますが、覚悟は出来ています。……ですが、今は守りたい人はベッドの上だし、今はそんな人は……」
僕は再度俯いた。伯父様はルシファーという単語でまた驚きの表情を見せた。
「ルシファー……だと?冬風君、君はなぜそこまでして貪欲に力を欲する?なぜそこまでして……」
「先程お話したとおり、僕は守りたい人を守るため……そして大切な人に近づく敵を排除するため……」
淡々としてて伯父様は少し困惑していた。顎のふさふさした髭を撫でているということは、かなり困惑しているみたいだ。
「そうか……ところで話は変わるが、君が若霧魔法学園に入学するのは聞いておるな?」
「はい、秋水兄様から聞かされております」
急に話題を変えられて戸惑ったが、冷静に答えねばっと思い即答する。
「それでな、実は儂の孫娘……つまり、この王国の次期国王になる夢依も今年入ることになっておるんじゃよ」
初耳だ、しかも会ったことがないため初対面ということになる。
「それで冬風君には夢依を守って欲しかったのじゃ……卒業するまでで良い、あの子の力になって欲しかったんじゃ」
「ですが……僕の魔力が異常なことはすでにご存知なはずです。その夢依さんにどんな影響が及ぶかもわからないリスクを考えたうえでのお考えですか?」
そう、僕は魔力が異常なだけに周りに及ぶ被害も大きい。人体に害が無いとも言い切れない……下手すれば命に関わる問題になりかねない。そして問題がもう一つ……。
「それに、僕と夢依さんは初対面です。そんな人に、自分を守ることを容認してもらえるとはとても……」
一番の問題点はそこだ、流石に夢依さんの感情を無視してまで守る事は出来ない。
「それに関しては問題はない、すでに話は通してある。それにどこの馬の骨かも分からぬ男に夢依を任せておけぬ故な、ならば遠いが親戚にあたり同い年の君に頼んだほうが安心できるというものよ。」
なるほど、要するに他の男に孫娘はやりたくないというわけですか。
「それに僕は男、万が一といいますか……その、夢依さんにも許嫁がいるのでは?」
「それは大丈夫じゃ、夢依には許嫁などおらんし冬風君になら夢依をあげても安心というものじゃ」
僕は椅子から転けそうになった。でも、2人で居ると……誤解が誤解を産んでとんでもない噂話が広まって、逆に夢依さんの居心地を悪くさせてしまうのでは……
「ふむ……誤解も何も、入学した時に教師には説明しておくし、事情を知れば誤解も産まなくなるじゃろ?」
「僕の心を読まないでください。でも……本当によろしいのですか?」
再確認のつもりで聞いた。すると、国王ともあろう伯父様が机に頭を擦り付けるように頭を下げた。
「頼む、夢依の事を守ってやってくれ!夢依も君に似たように過去につらい目を何度も経験している、だから友達といえるものは一人も居ないんじゃ。」
「わ、分かりました……お引受けいたしますから……頭を上げてください、伯父様」
僕は慌てた。国王である伯父様が僕にこんなに頭を下げるなんて……そんなにも孫娘思いの良き方なんだろう、ただ心配性は昔から変わってない様子だったけど。伯父様は、僕が引き受けたことを知ると目を輝かせて僕の手を握った。
「おぉ、引き受けてくれるか!有り難い、この際卒業しても護衛……もとい、夢依の伴侶となって欲しいものじゃ」
子供みたいな無邪気な顔で言われた。
「い、いや……伴侶は流石に、僕はそんな立場じゃないし……そもそも、皇女様である夢依さんと僕じゃ不釣り合いというか、こんなのが相手じゃ夢依さんも不快に思うというか……僕は、自分の意志は後回しで夢依さんの気持ちを尊重してあげたいと思います。なので、出来ることは何でもやるつもりです」
「じゃあ結婚も……」
「それは夢依さん次第というか……僕に女性と結婚する資格なんてありません」
そういうと、伯父様は少し泣きそうな顔をした気がした。すると僕の背後から突然、雅が話しかけてきた。
「叔父さん、多分大丈夫よ。冬風には私との約束があるから、その気になれば多分冬風と夢依さんは結婚出来ると思う……と言うか、させようかなと思ったわ」
面白そうに笑う雅。すると、少し嬉しそうに雅に笑いかける伯父様。
「おぉ、雅……お主も久しぶりじゃな。そうか、お主達は何か約束をしておるのか」
「はい、これは内緒にして欲しいのですが……その、僕は雅と忍……出来るかわからないけど、雅が言う僕が好きになった女性と笑って話し合い、酒を酌み交わす日が来るようにと願い、そんな笑い合える日々を作ろうと約束したんです。」
僕は顔を真赤にして説明した。あの時自覚してなかったけど、いざ人に話すと……誂われそうで恥ずかしかった。すると、伯父様は誂うどころか微笑んだ。
「そうか、それは素晴らしき目標じゃ。なら、存分に励むが良い。そして、儂が作り得なかった世界を見せて欲しい!」
僕はその言葉に胸を打たれて、少し泣きそうになったが、頑張ってこらえた。
「はい、精一杯励みたいと思います!」
「私がサポートするから大丈夫、絶対に叶えてみせるわ」
自信満々に胸を叩く雅、僕もより一層決意を固くした。
「そして、冬風君が好きになった女性が夢依なことも願うとするか」
さり気なく伯父様は、僕と夢依さんをそんなにもくっつけたそうにしていた。
「さて……すっかり長話になってしまったが、一つ良いかな?」
伯父様が僕に質問なんて、結構珍しかった。いつもは勝手に決めて僕はそれに従うだけだった為に。
「はい、何でしょう?」
「冬風君はこれから学園に手続きに行くのじゃろう?ということはやはり寮に入るのじゃな?」
「はい……というよりも、寮の方が安く済みそうですし」
「それでは、制服とかも自分で購入するのか?」
「そうですね……秋水兄様からお金は頂いておりますし、どうにかなると思います」
実質、学費は兄様が払ってくれている。それに制服代に食費も貰っている。僕は改めて秋水兄様の優しさに胸を打たれた。
「そうか……今は2月じゃ、入学式のある4月までどうするつもりじゃ?」
そうか、そのことを考えていなかった。といっても、木刀も道着もあるしどこかの宿屋探してそこの庭で鍛錬する以外は無かった。
「特には……ただ、そこらの宿屋に泊まり宿の庭で鍛錬する日々になると思います。」
「なるほど……ならここの城の一部屋貸してやろう、庭なら好きに使うが良い」
意外の言葉にびっくりした。
「い、いえ…そこまでお世話になるわけには……」
若霧魔法学園に入学させてくれるだけでも、かなりお世話になっているというのに……これ以上伯父様に甘えるわけにはいかない、これ以上迷惑はかけたくないからだ。
「子供がそんなこと気にするもんじゃない、儂が貸してやるといったのだから貸してやる。毎日3食付きじゃよ、それに入学前に夢依とも仲良くなる機会でもあるじゃろ?」
やばい、その条件にはすごくクラっと来る……最近簡単な食事しか取っていないため、なんと言うか……若干空腹状態で精神的に参っていた。それに伯父様の言う通り、夢依さんとも面識を持つ絶好の機会だ。
「そ……そうですか、もしご迷惑にならないというのなら……寮に入るまで暫く部屋をお借りしてもよろしいでしょうか?」
僕には両親が居ない……というよりも父は用事があるとかで行方不明になり、母は他界してしまった。なのでかなり遠慮しがちに育っていると秋水兄様に言われたことある。
「あぁ、良いとも!」
伯父様はフンッと鼻を鳴らしながら、胸をドンッと叩いた。すごく頼りになる。
「それじゃ、ご厄介になります」
僕は深々と頭を下げた。
「がっはっは、そこまで畏まらんでも良い」
笑いながら僕の頭を撫でてくれた。僕は懐かしく感じた。こうして話が終わり、僕はメイドに部屋まで案内されベッドに倒れ込んだ。
「ふぅ~……疲れた、それにこんな豪華な部屋に案内されるとは…」
照明はシャンデリア、他にも全て家具は揃っている。ベッドは当たり前のように広いダブル……これが王家の屋敷かと思いつつ、僕は学園に行かなきゃと思いベッドから起き上がり、書類を持って部屋を出て、伯父様に行き先を伝えてから城を後にした。城を出て、僕は街を散策しつつ学園を目指した。
「やっぱり、賑わっていていい街だな」
独り言のように言いながら歩いている内に、学園についた。僕は早速中に入り、いろんな人に聞きながら学園長室に入った。
「失礼します」
僕は入った途端、学園長の姿に驚いた。
「やぁ、冬風君。久し振りだね、9年ぶりと言ったところか」
ここの学園長はまさかの……伯父様の執事の河嶋雄斗さんだった。よく僕を可愛がってくれていて、よく誂われた人でもある。見た目は髪が僕より少し短く、男性の割にはすごく可憐と言っても良いくらいだ。
「お久しぶりです、雄斗さん。今年からお世話になります」
頭を下げると、雄斗さんは
「いいよ、そんなに堅苦しいのは苦手なんだ。先ほど国王様から連絡が来てね、城に4月までお世話になるんだってね、これからもよろしく」
優しく微笑みながら手を差し伸べてくれた。僕も微笑んでその手を握った。
こうして僕は無事に手続きが終わり、生徒手帳を渡された。どうやらこれは通貨代わりにも成るらしく、自動販売機や食券販売機にかざすと自動で支払いしてくれるらしい。とても便利だ。構内は入学した時に改めて見させてもらうと言い、僕は学園長室を後にした。外に出てお城に帰ろうとした最中、野次馬が集まっている場所を発見した。
「ん……?何か騒がしいな」
「冬風、見てみようよ」
興味津々で、すごくワクワクしている雅が言った。
「分かったよ、だけど面倒事は御免だからすぐに退散するよ」
「へーい」
全然人の話を聞いていない……僕は行列に近付いた。すると、一瞬自分の目を疑った。制服を着てないから、新入生だと思うのだが……燃えるような紅い眼、眩しいほどの白銀色の髪の少女が、ガタイの大きい男と喧嘩してるのか……?しかも男の方は数人の部下らしきものを引き連れて……耳を澄ませてると、喧騒が聞こえてきた。
「おい、人にガン垂れておいてその態度は何だ!」
「だから、アンタなんか眼中にないって何度も言ってるでしょ?放っておいて!」
「この女……言わせておけば!」
あ、やばい……この展開は殴り合いが始まるかも、でも女性に手をあげようとしてる場面を見逃したなんて、兄様に絶対怒られる。面倒くさいけど……助けるか。
僕はあの少女の前に狙いを済ませ、魔力転移をした。魔力転移は、予め決めておいた地点に魔力を消費して瞬間移動する技だ。僕の場合は、魔力属性が水…しかも高位なため多くの霧が僕を包み込み、消えたように錯覚させる事もできる。
「くたばりやがれ!!」
「っ……!」
大男が拳を振り上げ、少女目掛けて振り下ろした。少女は眼を瞑り明らかにビビっている様子だった。そしてあと少しで少女に届きそうになった瞬間……
「はいはい、喧嘩はここで終わり。大体男性が女性に手を挙げるなんて、男性失格だよ?」
僕が転移で間に割って入り、拳を片手で受け止めた。もちろん僕は魔力を手に集めてたため、痛くなかった。
「……!」
少女はびっくりしたと同時に腰を抜かした。大男は気に食わない口調で
「おい……お前は何者だ?しかも人の喧嘩に割って入ってきやがって……どうやってここまで来たか知らねぇが、その女の方を持つならお前が代わりに殴られろ!」
と言ってきた。そして大男は勢い良く僕に蹴りを繰り出した。少女は逃げてと叫ばんばかりに僕に訴える。
「やれやれ……遅いっつーの!」
僕は蹴りを片手で受け止め、身を翻しながら大男の腹部に後ろ回し蹴りを食らわせた。蹴られた大男は地面に膝をつき、苦しそうに唸りながら僕に訴えた。
「このっ……野郎!」
「ふんっ、君程度なら何十人束になってかかってきても結果は変わらない。僕に傷一つつけることすら出来ないのだから」
そう、僕は相手の魔力武装や結界、魔法の中の魔力を触れた瞬間に全て奪い取り冬の枝のように脆くして砕くことが出来る。つまり、僕には傷どころかかすり傷さえ与えることは不可能なわけだ。
「生意気言いやがって……この程度で終わったと思うなよ?俺とこの十数人を相手に何処まで強がれるかな?」
大男はニヤリと笑った。全く、体は大きいのに器はすごく小さい。
「はぁ……雅、少し力借りるよ」
そう呟きながら、腰を抜かした白銀髪の女性の前に立つ。
「水神結界……」
呟くと、薄青色の膜が少女を包む。
「こ、これは……何?!」
少女がびっくりしたように言う。
「その中でじっとしてて、その結界があるかぎり外からの攻撃は一切君に届くことはないから」
言い放ちながら振り返る。皆魔力武装を持ちながらゲヒヒッと笑っている。僕も薄っすら笑いながら人差し指でチョイチョイっとカモンのサインを出した。すると、一斉に武器で切りかかってきた。野次馬はどよめき、悲鳴さえ上げるものも居た。
しかし、そんなの気にもとめずに僕は次々と素手でなぎ倒していった。一人一人の魔力武装を破壊しつつ、確実に沈めていった。沈めると言っても、一時的な気絶のようなものだ。そして、全員倒し終わる頃には大男もだいぶ回復し、僕も体が温まってきていた。
「やるじゃねぇか、大口叩くだけの実力は持ってるようだな。だが、俺が相手な以上お前は終わりだ」
大男が魔力武装を開放した。すると、大男は両腕にごついアーマーを、装備していた。
「……装備型か」
「ご名答、いくぜ……!」
笑いながら僕に殴りかかってきた。それでも僕は、避けようとする動作はなかった。そして大男の拳が僕に当たった瞬間、大男の装備していた魔力武装は全て消し去った。そう、僕が砕いたのだ。
「「はっ……?」」
皆信じられないものを見たかのように、僕を見てくる。後ろの腰が砕けた少女もまた然り。
「その程度……?」
「ちょ……な、何が……」
慌てふためく大男、僕が沈めた奴らの中でも眼が覚めた奴が居たらしい、そいつらも唖然としていた。
「じゃあ……おとなしく寝てて」
僕がにっこり微笑み、大男の懐に一瞬で潜り込み首筋に手を置いた。刹那、大男は意識を失ったかのように倒れた。説明すると、人は魔力を回復する方法は2つしか無い。眠るか、他人から分け与えてもらうかだ。
僕は後者の方法を使い、大男の魔力を全回復させてやると同時に溢れさせた。その溢れた分を睡眠薬に変換し、大男の全身に巡らせただけだ。僕は水神結界を解き、少女に一言だけ言った。
「大丈夫?こいつらの目が覚める前に早く帰ったほうが良いよ」
僕はコートを翻し去った。少女はぽかんとしつつも立ち上がった。僕は校門を出て、魔力転移でお城の前まで帰った。伯父様に報告し、僕は自室に戻った。
「いやぁ、楽しかったわね」
喜々として笑っている雅、僕は疲れていた。
「にしても、あの少女から何か懐かしいような魔力を感じたのは気のせいなのかな……?」
ずっと疑問に思っていた。雅はきっと偶然だよと言うけれど、そんな感じじゃないと思う。僕は悩みを吹っ切るために、道着に着替えた。
「どこいくの?」
「中庭、剣術の修行は一日怠っただけで感覚を忘れかねないからね」
僕は道着のまま中庭に出た。芝生が生い茂り、適度に木が立っておりベンチなどがある。僕は中庭の端っこの方で木刀を素振りした。僕の剣術の鍛錬のメニューは至ってシンプルだ。素振りを1500回した後に雅と木刀で稽古。雅は剣術がすごく上手く、雅のレベルに付いてこられるまで何千回負けたことやら……こうして夕方まで稽古をしていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あ……あなた、なぜここに!」
今日の昼出会った白銀髪の少女が、僕に指さしながら中庭の出入り口で固まっている。僕は修行の手を止め、少女に歩み寄った。少女も僕に歩み寄った。
「君は……昼過ぎに学校で絡まれてびびってた子だ、なんでここに?」
「それはこっちのセリフよ!それにあれはビビってないわよ!」
「いや、完全にビビッてた」
「そうね、ビビッてたわ」
僕と雅が同時に頷くと、少女は悔しそうにしながら僕に言い放ってきた。
「まぁ、あの時のことは礼を言っておきますけど、それとこれは別問題!なぜここにいるか説明して!」
「いや、ただ雅と鍛錬するためにここにいるのだけど……?」
僕は不思議そうに首を傾げた。
「大体、ここのお城の人達は僕が居る事はすでに知っているはずだ。それを知らないってことは……どちら様?」
「なっ……?!嘘をつきなさい、そんなことあるわけ……」
言いかけた瞬間、一人メイドが通りかけた。メイドは笑いながら
「あら、冬風様。ずっとここで鍛錬されてたんですか?」
と聞いてきた。僕は頷いた。すると、メイドは
「あらら、お嬢様もお帰りになってたのですね。それでは、お茶の支度をしてまいります」
と頭を軽く下げ、どこかに言ってしまった。
(え……今あのメイドさん、この少女のことお嬢様って……まさか)
「ねぇ、まさか君……夢依…さん?」
恐る恐る聞いてみた。すると少女は胸を張っていった。
「そうよ、ユスティア第一皇女の渚 夢依よ!」
僕は一瞬、時間が凍り付くような錯覚に襲われた。
(ま、まじか……)
「えっと……僕は今年から若霧魔法学園に入学する月詠 冬風だ。4月まで伯父様のご厚意でこの城の一部屋をお借りしている」
自己紹介を済ますと、ますます信じられないという顔で見てきた。
「伯父様……?あなたの伯父様って誰よ!どうせろくな人じゃ……」
「この国の国王様をしている君のお祖父様にあたる人かな」
「え……」
「いや、だからね……」
夢依さんは思考回路が停止し、固まっている。しばらくした後戻り、何かを思い出したように僕に指差して言った。
「まさか、あなたがお祖父様の言っていた頼りがいのある同年齢の子?!」
(頼りがいはあるかどうかはともかく……)
「まぁ、そういうことになる」
そういうと、夢依さんは唖然とした。
「ま、まぁ学校にいる間だから……何卒よろしく頼むよ」
僕は頭を下げ、夢依さんに挨拶した。暫く返事が帰ってこないから少し上げてみると、夢依さんは顔を赤くしながらモジモジしていた。
「あの……?」
訪ねてみると、すごく慌てた様子だった。
「な、ななな……なんでもないわよ!」
そう言ってそっぽ向いてしまった。僕、何か悪いこと言った?首を傾げていると、先ほどのメイドがやってきた。
「冬風様、夢依様。ご主人様が及びです、皇玉の間へお越しください」
とだけ言ってメイドは姿を消した。僕と夢依さんはお互い無口で皇玉の間に向かった。僕は途中で着替えたため、少し遅れてしまったが。
「よく来てくれた、冬風君。こちらが儂の孫娘、夢依じゃ。よしなに頼むよ」
「いえ、こちらこそ」
伯父様と僕はお互いに頭を下げた。その状況についていけてない夢依はおどおどしてた。
「お祖父様、冬風がなぜここに来たのか教えて下さい」
「冬風君はな、事情あって前居た村に入れなくなったのじゃ。それで彼の兄である秋水から、冬風を頼むと連絡が来て頼まれてな。」
「だったらここじゃなくても……冬風の両親は何をして……」
「……!」
夢依が僕の両親の話に触れようとした瞬間、伯父様は大声で怒鳴った。
「夢依!!」
その声にビビったのか、少し泣きそうな眼になっていた。
「……冬風君の母親は3つの時に亡くなり、父親はその後すぐに行方不明になってしまったのじゃよ」
「えっ……」
夢依は驚きの表情で僕の方を見た。僕は……黙り込んで俯くことしか出来なかった。
「つまり、冬風君は3つの時から秋水と二人きりで生きてたのだ。その事を忘れるな、そしてその話はもうするな」
夢依は落ち込んだような表情で、僕に謝ってきた。
「その、ごめんなさい……」
僕は表情を戻し、普通を装って微笑んだ。
「気にしなくていいよ、そのうち言うつもりだったんだ……ただその時期が早まっただけだよ」
「でも……」
「本当に気にしないで……伯父様もお気になさらずに、僕は大丈夫ですから」
少し弱々しく微笑んでから頭を下げた。
「すまぬな……逆に気を使わせてしまって、ここに呼んだのは二人の顔合わせのためじゃ、他に冬風君に聞きたいことはあるかな?」
「特には……」
「それじゃ、解散するとするか」
伯父様は椅子から立ち上がると、自室に戻られた。僕もそのまま振り返り自室に戻ろうとしてた……その時だった。
「ふ、冬風……」
「ん……?」
振り返ると、すぐ近くにまだ落ち込んだ表情の夢依が居た。
「どうしたの?」
聞いてみた。
「あの……本当にさっきはごめん、私……冬風の事情を知らないであんな無神経な……」
(その事か……)
僕はため息をつきながら優しく微笑んだ。
「さっきも言ったとおり、気にしてないよ。まだ僕が物心付く前だから、あまり顔も覚えてないしね」
(……嘘だ、本当は今でも母様の顔は覚えているし、物心もついていた。僕は……母様の事が大好きだったんだ、だけど突然別れを強いられて……)
思い出すだけで泣きたくなるけど、そんなのこんなところで許されるわけもない。
「とにかく、僕は卒業まで夢依さんを守り切ってみせる。だから気なんて使わなくったっていい、困ったことがあったら頼ってね」
そう言ってこんどこそ自室に戻ろうとしてた、するとまた夢依に服の裾を掴まれた。
「……今度は何?」
振り返ると、今度は普通の顔だった。
「もし……もし差し障りがないなら、冬風の事……もっと教えて?」
(……来た、まさかこんなに早く来るとは思わなかった……)
「……分かった、なるべくなら早いほうがいいもんね……。でもごめん、気の向いた時に話すよ」
「分かった……」
夢依は冬風の服の裾から手を離した。僕はそのまま歩き出し、皇玉の間を後にした。そして自室に戻った。冬風は切ないのやら悲しいのやら……そんな苦しい感情と闘いながら必死に涙をこらえ、クリスタルのネックレスを握りしめた。
「はぁ、まさかこんなに早いとはね……」
「まぁ……気になることはとことん聞きたい子なんでしょうね」
僕がベッドに座り俯いていると、隣に雅が座った。
「雅……僕は……」
言いかけようとすると、雅は無言で僕を抱いた。
「あの時言ったでしょう?辛い時は私を頼ってもいいって」
「ごめん……本当のところ、僕は少しだけ辛いんだ。今でも母様や父様のことははっきり覚えているからこそ、顔を思い出すだけでも苦しいんだよ……そして、忍を守りきれなかったことも……辛いんだ……」
僕はいつしか泣いていた。もう泣かないと決めたはずなのに泣いていた。声を最大限まで殺して泣きじゃくっていた。あの暖かかった時間はもう帰ってこない、優しくて心を惹かれた母様の笑顔も……憧れていた、逞しかった父様も……もう居ないのだから。
戻れるなら、あの暖かかった時間に帰りたいと何千回も願った。でも、それが叶うことはもう無い。我ながら女々しいとは思っている、だけども僕は……まだ当分は親離れする事は出来なさそうだ。それでも……そういう時間を作ろうと雅と約束した。もし僕が結婚したとして、子供を授かったとして……もうこんな思いを、ましてや自分の子供にこんな思いをさせたくないと強く思った。
暫く雅の胸で泣きじゃくり、やがて少しずつ治まってきた。そして、ドアに乾いたノックの音が転がった。
「はい……?」
返事をすると、メイドらしき人の声が聞こえた。
「冬風様、お食事の用意が出来ました」
「分かりました。お伺いしますので、先に行っててください」
「かしこまりました」
足音が遠ざかっていく。僕は涙を拭い、雅の胸から離れた。
「ありがと、雅……さぁ、飯食いに行こう」
僕は微笑みながら、雅に手を差し伸べた。
「えぇ」
雅は少し笑い、僕の手をとった。こうして2人食堂の方へ向かった。入ると夢依と伯父様が座っていた。
「もう……気分は晴れたか?」
すべてを見透かしていたかのように聞いてくる伯父様。流石だ…と感心しながら席についた。
「大丈夫です、時間を置いたら落ち着いたので」
「そうか……本当に契約したのが雅でよかったな」
「はい……」
「ふふん」
雅は得意気なしてた。僕はそれがおかしくて笑った。伯父様も笑っていたけど、夢依は笑わなかった。やはりあの事を気にしているのだろうか……。そんな事を思いながら横目で夢依を見ていると、視線が合い案の定だった。
「やっぱり……冬風は強いね、色々考えてみたけれど……今も何事もなかったようにこうして話してられるもの、強いよ……」
夢依は少し声が震えていた。手の力が強まり、肩も震えていた。そんな夢依に僕は、気にしてないように思わせようとしたが……逆効果だった。
「僕は強くなんか無いよ。心の切り替えは早いけど、結構後まで引きずっちゃうんだからね」
「そうなの……?」
「うん、僕は昔から泣いてばっかりだったんだ。両親が居なくなった後もずっと部屋にこもって泣き続けてたし、幼なじみがベッドの上から動けなくなった後も泣き続けた。でも雅と出会って……楽しいことがあって、ようやく楽になってきたんだ。そして僕は僕の夢を叶える為に……雅と契約したんだ」
「……」
唖然とした夢依。伯父様は黙って聞いてる。
「正直言うとね、伯父様に夢の事言う時怖かったんだ。馬鹿げてるだとか、子供の戯れ言だとか言われそうで……でも、伯父様はちゃんと聞いてくれた、笑って応援してくれた。だから……僕は胸を張ってこの夢を叶える為に頑張るんだ」
僕はいつの間にか微笑んでいた。目元に涙を溜めながら。
「夢……というのは…?」
「……僕の夢はー」
「………」
僕は自分の夢を伯父様に語ったままに、そのまま夢依にも話した。夢依は少し黙って聞き、そして口を開いた。
「……とても、素敵な夢だと思う。叶うと良いわね」
その時の夢依の表情は、心の底から微笑んでくれていた気がする……優しい笑顔で。
「叶えてみせるさ……」
僕は涙を拭い去り、微笑んだ。夢依も微笑んでくれていた。伯父様も笑ってくれていた。雅は僕の隣でクスクス笑っていた。あぁ……そうだ、今みたいな……こんな温かい時間にしてみせる。
こうして夕食を済ませ、僕は風呂に入り終わり自室で髪を乾かしていた。するとドアにノック音が聞こえた。僕はドライヤーを止め、返事をした。
「夢依だけど、入っていい……?」
まさかの来客。僕は一瞬戸惑ったが
「うん、どうぞ」
と言った。その後にドアが開いて夢依が入ってきた。どうやら夢依も風呂あがりのようだ。
「どうしたの?こんな時間に」
「その……冬風の事知りたいってあの時言った……え?」
言いかけた瞬間、夢依は言葉を失ってた。
「……どうしたの?」
気になったので聞いてみた。
「いや……その、冬風……だよね?」
「そうだけど……?」
訳が分からず疑問を疑問で返してしまった。
「いや……あまりにも綺麗だったから、部屋を間違えたのかと……」
「あぁ……僕の顔立ちは母様譲りって言われるよ、髪の長さは何と言うか……。いつもは縛っているから気づかなかった?」
「全く……」
僕はすでに髪を乾かし終え、櫛でとかしてた。
「それで、要件は?」
「えっと……冬風があの時言ってた幼馴染みの子が、ベッドの上から動けなくなったという事が頭に引っかかって、聞きに来たの」
「……そうか」
僕は俯いた。だけどあの時ほど悲しみは襲っては来なかった。今なら……話せるかも、僕は腹を括り夢依と向き合った。
「分かった、少し長い話になるけど……ご静聴願うよ」
「うん……」
こうして僕は夢依に全てを話した。忍の事や事件のことを。そして、ルシファーや雅の事と詳細を。夢依は途中から唖然としていたが、最後まで聞いていてくれた。こうして、僕は全てのことを夢依に話し終えたつもりだ。
「……っというわけなんだ、理解してくれたかな?」
「……」
夢依は無言で頷いた。無言で……涙を目の淵に溜めていた。
「な……なんで夢依が泣くのさ?」
「分からないわよそんなの。でも……そう、私と同い年なのにそこまで辛い目に会っているのに、そこまで平然と笑っていられる。冬風はやっぱり強いわよ、私だったらとっくに心が折れて立ち直れないわよ。」
(そんなこと無い、あれだけ泣いていたんだ……僕は泣き虫で何も出来ない、弱い存在だ。)
そんな感じなことを言おうとしたけれど、うまく言葉にできず黙りこんだ。
「でもね……いくら強くてもやっぱり疲れちゃうでしょ?だから……出来ることは少ないと思うけど、私に相談してね」
「……ふふっ」
僕は少し笑ってしまった。
「な、何よ……人が心配してるのに」
夢依は少しムスッとしたように、頬を少し膨らませた。
「いや、雅と全く同じ事言ってるな~っと思ってね。でもありがとう、まさか今日会ったばかりの人にそんなこと言われるとは思わなかったけどね」
僕は笑った。可笑しいからではなく、嬉しくて。
「僕も……君を守るために尽力を尽くすよ。その為にはどんな事も惜しまない、全身全霊で頑張らせてもらうよ」
微笑みながら親指を立てた。
「うん……お願いね」
夢依も微笑んでいた。僕は夢依に過去を知ってもらえて、少し肩の荷が降りた気がした。でも、流石に不老不死の事だけは言えなかった。もし言ってしまえば、夢依に要らぬ心配をかけさせてしまうからだ。
「でも……無茶だけはしないでね?」
「うん、大丈夫だよ」
こうして、僕はここに来た初日で夢依と仲良くなった。最初は僕にツンケンしてたけど、そんなこともなくなり蟠りも無くなっていた。その日から1ヶ月半が立ち、ある日の昼下がりのことだった。僕は少しづつここの生活に慣れ、街をもっと見て回ろうと思っていた。
「伯父様、今日は街を散策してみたいと思うので行ってきます」
「あぁ、気をつけてな」
僕は笑顔で皇玉の間を後にした。
「ふむ……ようやく少しだけ心を開いてくれたようじゃのう、少し時間がかかり過ぎた気もするが、これで……ちょいと試してみるかの」
伯父様は何か考え事をしてたのだろうか、少し呆けていた。僕が皇玉の間を出ると、夢依が居た。
「どこに行くの?」
「ちょっと街に行こうかなって思って」
「じゃあ、私が案内してあげる」
まさかの提案が来た。
(まぁ……いいか)
僕は了承した。……この後待ち受ける悲劇を知らずに。
………………。
「じゃあ行こうか」
「うん」
僕は夢依と手を繋ぎ街へ出た。町の人々はいつもどおり活気よく、皆僕達を見ていた。スレ違いに挨拶してくるご婦人もいれば、気にしない人も居た。
「そう言えばこの街にきてから思ってたことがあったんだ。こんなに街が大きいところにはあまり自然が……というか、静かな場所が無さそうなイメージがあったんだ」
僕がずっと思っていた疑問を聞いてみた。すると、夢依は自信満々に答えてきた。
「だったらいい場所があるわ。街の外れにある森の奥に、古い民家があるの。彼処は数百年以上使われてなくて、結構静かよ?」
「へぇ……」
僕は興味を誘われた。
「じゃあ、昼ご飯食べたらそこに行ってみるよ」
「もちろん、私もね?」
当たり前のようについてくる気だ。まぁ夢依の案内がなければ僕はそこにたどり着くことすら困難だろうし、僕は夢依にお願いした。夢依は快く了承してくれた。こうして僕らは昼食を城の近くの店で取り、魔力転移で森の方へ向かった。町外れの森の入口へ着くと、高校生らしき人影があった。数はおそらく10人程度だ。僕らは邪魔だと思いながら素通りしようとしたら、案の定絡まれた。
「おいおい、なんでガキがここにいるんだよ?」
「ここは俺達の縄張りだぜ、踏み込むんだったら……そこの女置いてけ」
ヒャヒャヒャと不快な声で笑うこいつら、正直僕は関わりたくなかったから早めにすまそうとした。
「悪いけどこの子は渡せない。僕の大切な人なんでね、それにあんたらのテリトリーを荒らすつもりはないさ。ただここを通してくれるだけでいい」
「だ~か~ら、ここ通りたきゃ女置いてけっつーのが聞こえねーのかぁ?糞ガキ」
随分ガラが悪い。しかも大した魔力持ってないし……。
「はぁ……言葉が通じない人に何を言っても無駄だな、こりゃ」
僕がため息混じりに呟いた。夢依はもう帰ろうっと催促してるけど、僕は正直こいつらに腹を立てていた。
「ちっ……生意気なガキめ、ブチ殺すぞ!」
「やっちまえー!」
こうして、ガラの悪い奴らと僕は喧嘩になった。皆魔力武装を持っていたのだけれど、当然のように砕いては殴り砕いては殴り……次々となぎ倒していった。夢依は草むらに隠れさせた。のだったが、不良の一人が夢依を捕まえた。
「おいガキ!こいつを返して欲しかったら大人しく動くんじゃねぇぞ!!」
お約束のセリフを吐き、夢依を拘束している。首にはサバイバルナイフが当てられている。必死に逃げ出そうとするが、中学生の……ましてや女子の力じゃ、到底敵いっこなかった。
「ちっ……」
僕は舌打ちをし、どうしようか考えた。僕があいつに攻撃すれば、夢依が危ない。かといってこのまま連れ去られるのを黙ってみているわけには行かなかった。僕はその不良の方に、少しずつ歩み寄った。
「なっ……?!お前、こいつが見えないのか!こ、こっち来んじゃねぇ!」
言葉は聞こえない。聞きたくもない。夢依に危害が及ぶ前に、こいつを始末すれば良いのだから……そう考えていると、背後から近づいてくる気配に気づけず……僕は後頭部を殴られて倒れた。
「はぁ……はぁ、どうだこいつめ…!」
どうやら、金属バッドで殴られたみたいだ。頭からは血が出て、すごく頭が痛い。僕は立ち上がろうと藻掻くが、それをさせまいと数人がかりで僕を殴ってきた。木刀や金属バッド、終いにはナイフで背中を刺してくる始末。
「良し、ずらかるぜ!」
「おう!……ところで、この娘どうするよ?」
「しゃーねーな、森の奥の屋敷でヤッちまうか!」
「そうするか、アヒャヒャヒャ!」
下劣な言葉が聞こえて、僕は腸が煮えくり返りそうだった。でも体が動かない、両手足の骨は砕けて肋骨も肺に刺さってる。頭蓋骨にヒビが入り、全身血まみれで服もぼろぼろだ。どうしようかと痛みと格闘しながら悩んでいると、僕の隣に雅が来てくれた。
「こりゃぁ……派手にやられたわね、大丈夫?」
僕は声が出なかった。でもこの状態をどうにかして欲しいと雅に頼んだ。すると……。
「仕方がない、骨とかはすべて治るけど傷は……治癒に時間かかっちゃうけど、それでいい?」
いいわけない。夢依が酷い目に合わされてしまうのに……こんなところで寝てる場合じゃない!!
「頼……む、動けるように……してくれ…!」
僕は頼んだ。雅はやれやれと頭を掻き、僕の骨を全て修復してくれた。
「とにかく動けるようにはしたわ。でも応急処置に過ぎない……だから、終わったら安静にしなさい?」
雅に礼を言い、森のなかへ走っていった。奴らが言ってた”森の奥の屋敷”は、そう遠くないはず。とは言え、ここの地形には疎い。ならば……。
「……水波響膜、範囲は……この森全て」
水波響膜とは、辺を水面だとイメージして仮想空間を作り出す。そして自分を中心に、荒波を立てる。すると物がある場所は波を弾く。小さいものは音も小さいが、小屋ともなるとかなり大きな音が帰ってくるはず。
僕は森の中を走りつつ、音を探った。傷口は広がり、服にどんどん赤いシミが増えていく。全身がすごく痛むが、そんなことは気にしてられなかった。僕が夢依を水神結界の中に入れておけば……そんな後悔はボコられてる時に幾度もした、ならば僕は夢依を取り戻すために同じ失敗を繰り返さないだけ。前の失敗は、次に役立てればいい。
そうこうしてる内に、近くで大きな音の反応があった。そこに向かってみると、屋敷の中で話し声が聞こえた。耳を澄ませてみると。
「こりゃぁ、上物じゃねぇか」
「くそっ、あんたらなんかに……!」
必死に抵抗しているみたいだけど、数が数だ……。
(仕方ない、様子を見つつ夢依を結界に入れて守る。それが最優先だ!)
心の中で決め正面口にこっそりと忍び寄った。嬉しいことに扉は開いており、その隙間から覗いた。夢依は大きな柱に縄で括りつけられ、その間を十数人で囲っている。
(よし、皆夢依から離れてる……今だ!)
「……水神結界「透水」、範囲は夢依を中心に……奴らに触れない程度でっと」
ひっそりつぶやくと、言葉通りに薄い膜が夢依を包んだ。不良どもは誰一人結界の中に入ってはおらず、不良共は驚愕の表情を浮かべた。
「何だこりゃ!薄い膜が突然……まぁいい、ぶち壊せ!」
不良どもが一斉に壊しにかかるが、傷一つ着く様子はなかった。
「この感覚は……冬風!」
夢依が喜々として喜び、不良どもは悔しがった。
「畜生!!何なんだこれは……っ!」
息を切らしてへばる不良共、僕は頃合いだと思いドアを蹴破った。
「「今度は何だ!!」」
全員がこっちを見る。そこには……全身血まみれで、微笑んでいる冬風が立っていた。
「ごめんね、こんな怖い目に合わせちゃって……こいつらをさっさとぶちのめして帰ろう」
「……うん」
僕は微笑んで、夢依は泣いた。不良共は
「舐めるな!死に損ないが!」
と喚きながら襲いかかってきたが、僕は冷静に一人一人の武器を持っている方の腕の骨を潰していく。
「ぎっ……やぁぁぁぁ!!!」
あっという間に全員の骨を潰し終わり、後ろからは痛みで悶絶する汚い声が木霊した。
「野郎……っ!」
こっそりと刃物を手にした不良共、僕はそれを見逃さなかった。
「……遅い!」
僕はもう片方の腕を消し飛ばした……全員分。すると煩かった声は鳴り止み、皆気絶した。僕は水神結界を解き、夢依の縄を切った。夢依は泣きじゃくりながら僕にしがみついた。
「冬風……っ、冬風!」
余程怖い目にあったのだろう、こんなに震えて泣く夢依は初めて見た……当然なんだけども。
「もう大丈夫だ、帰ろう」
微笑んで夢依に言った。夢依は泣きながら頷いた。僕は泣きじゃくる夢依を抱え、森の入口まで魔力転移で移動した。暫く夢依は泣き続けたが、僕はそんな夢依の頭を優しく撫でることしか出来なかった。
「馬鹿……馬鹿ぁ!本当に死んじゃったかと……思ったのよ!」
「心配させてごめん、でもこの通り…生きてる」
「うん……」
やがて泣き止む夢依、僕は泣き止んだのを確認すると下ろした。
「さて、泣き止んだことだし……城へ戻ろう」
「うん……」
(……僕は力を得たとはいえ、それを全て使いこなしている訳では無い。もっと……使いこなせるようにしないと)
そう心に誓って、僕らは手を繋ぎながら城へ帰った。戻ると城の皆は大慌てだった。伯父様は驚きながら夢依と僕の無事を確認した。僕が事情を話し、夢依は無傷だと確認すると、ほっとしながら落ち着いた。
「申し訳ございません、伯父様。僕があんな所に行こうって言ったせいで……夢依に怖い目に……合わせてしまって……」
「いや、君たちが無事ならそれで……って、冬風君!!」
僕は意識を失った。全身の傷が開き、血を流しながら。多分血を失いすぎたのだろう……気絶する前に、あの出来事を話しておいて正解だった。
目が覚めると、僕はベッドの上だった。隣には心配そうに見つめる夢依と、伯父様の姿があった。
「おぉぉ……眼が覚めたか、冬風君!」
「冬風……っ」
嬉しそうな伯父様と、夢依が僕の顔を覗き込んできた。僕はどのくらい気を失っていたのかと聞いてみた。
「ざっと1日じゃ」
つまり、丸一日寝てたわけか……。
「ご心配おかけして、申し訳ありません……なんと詫びたら…」
「詫びなど良い、無事で居てくれればそれで良いのじゃ」
落ち込む僕の頭を、伯父様は優しく撫でてくれた。僕は包帯ぐるぐる巻きの体を起こし、微笑んだ。
「ありがとうございます、おかげさまでもう良くなりました」
立ち上がろうとベッドの端から出ようとした瞬間、夢依が泣きながら抱きしめてきた。
「ぐふぅ……」
勢いが良かったためか、腹部がすごく痛んだ。その為少し顔を顰めたが夢依は僕の膝にボロボロと涙を零していた。
「ごめんね……私が、私が弱いせいで……こんなに痛い目にあわせちゃって……」
涙を零しながら、必死に謝ってきた。僕は夢依の頭をそっと撫でた。
「大丈夫、夢依のせいじゃないよ。夢依は最後まで諦めずに抵抗してたじゃないか、あそこまで出来れば弱くないよ。それを言うんだったら、僕が弱いせいであんな怖い思いをさせちゃって……ごめん」
「冬風のせいじゃない、私のせいよ……」
これは……無限に続きそうなので、ここで言葉を切った。かわりに夢依が泣き止むまで頭を撫でていた。
「それで、そのガラの悪い奴らはどうしたんじゃ?」
伯父様が聞いてきた。
「そいつらなら、片方の腕の骨を潰した後にもう片方の腕を消し飛ばしてきました。切断と同時に血管同士で接続させたため、多量出血で死ぬことは無いと思います」
僕は平然と答えた事に伯父様は少し驚いてから
「そうか……」
と笑った。
「冬風君、君の実力は分かった。是非、これからもよろしく頼みたい」
改まって頭を下げてくる伯父様。僕は戸惑いながらも承諾した。そして安心した顔で微笑んだ後に、皇玉の間へ戻っていった。仕事があるみたいで、無い時間を縫い合わせて僕の様子を見に来てくれていたみたいだ。伯父様は……本当に昔から優しい御方だ。その頃には夢依は泣き止んでいて、僕のベッドの端の方に座っていた。
「……かなり心配かけちゃったみたいだね、ごめん」
僕は謝ることしか出来なかった。誰にも心配をかけたくないという思いとは裏腹に、僕の軽率な判断のせいで迷惑ばかりかかってゆく。でも……あそこで夢依に何かあったら僕はもう、生きている価値すら無くなる。守ると言っておきながら守り切れない自分なんて……僕は少し落ち込んでいた。それでも今回の件のお詫びにと、夢依に何かしてあげようかなと思った。
「……今回、多大な迷惑をかけたお詫びに夢依の言う事を何でも聞いてあげるよ、何がいいかな?」
「えっ……いいの?」
なんでだろう、さっきまで泣き顔だったのに……あっという間に泣き止んじゃったよ。なんというか……感情のコントロールが上手いのね、夢依は……。心の中で感心していると、夢依はまだ唸っていた。余程決めあぐねているようだ……とんだ無茶ぶりが来なきゃいいけどな。そんな期待を夢依はあっさり裏切ってくれた。
「じゃあね……女の子の格好してみて欲しいな?」
「………?!」
僕は驚きのあまり、声にならない声を上げてしまった。まさか男の僕にいきなり女装をしろだなんて……。
「あのさ、それは無理があるんじゃ?それに女性用の衣服も持ってないし、僕には似合わないと言うか……」
僕が色々言ってると、後ろから雅が拘束してきた。
「えーい、男の子に二言は無い!なんでもするって言ったんだから女装でも何でもしなさい!」
「大体、僕に女装は……」
「大丈夫、私と夢依が可愛くしてあげるから!」
……そう言い切った雅の顔は、恐ろしく感じるほど清々しい笑顔だった。夢依なんてもう……メイク道具まで持って来ちゃってるし、僕に逃げ場なんて無かったんだ。
「はぁ……分かったよ。ただし、女装はこれっきりだからね!」
僕はそう言うと、縛ってある髪を解いた。その後に夢依が用意した女性用の服を着用した。セーターに少し短めのスカート、下はパンストだった。別室で着替え終わり、夢依と雅の前に姿を見せた。正直言うと、2人にドン引きか爆笑されると思っていた。しかし現実の反応は予想と少し違った。
「何……これ」
「嘘……シャレにならないほど違和感ない、女の子って言われたら迷いなく信じちゃいそうなほどに……可愛い」
(二人共、僕はまだ化粧すらしてないのに……)
まさかと思いつつ鏡を見てみた。そこには今まで見た事ない……自分で言うのもアレだが、可憐な少女が写っていた。
「あれ……?鏡って自分の姿を映すものだよね?僕じゃない誰かが映ってるんだけど……誰?」
僕は僕自信の姿に驚きを隠せず、自分だということを否定していた。
自分で評価してみると……母様から譲り受けた顔立ちとこの髪の長さ、目の大きさや唇の色合いなど……化粧無しのままでも女性として認識するには十分だった。夢依に借りたセーターは体のラインを強調するタイプで、パッドを入れているせいか胸が少し苦しかっが、一見スラっとしている美少女に見えた。
これが僕の率直な感想だ、勿論口には出さないけど。でも……いくら似合ってても僕はそろそろ高校に上がるわけだし、もうやらないと心に決めた時だった。
「……今度色んな服を揃えなきゃ」
夢依の言葉が初めて恐ろしく感じた、すると雅が更に怖いことを言い始めた。
「ゴスロリや和服……更にはメイド服なんてのも良いんじゃない?」
「後は……ナース服とか制服とか後は……」
雅の言葉につられて夢依も語りだした。
(なんでだろう、そんなものを着せられた日には、僕は恥ずかしさのあまり爆発四散して消え失せるんじゃないかな)
割と本気で思った。
「と、とにかく……もう着替えていい?」
少し遊びでなりきる為に声のトーンを上げて話してみた。元の声が高いから、少し上げれば少しは違和感も和らぐと思うのだけれど。
そう思った矢先……。
「駄目!今日一日だけでいいから……その格好で居て?」
「ふぇ……!?」
縋るような眼で見てきた。
(やめてくれ、そんな目で見られたら……着替えようにも着替えることが出来ないじゃないか!)
しかし何を言っても聞きそうにないので諦めることにした。
「分かったよ……はぁ」
僕は頭を掻いた。そうして僕は、今日一日女装を強いられることになった。自分のせいだとわ分かっていても、何故か悲しくなってくる。
(男の自分が可愛いなんて言われるのは、心境的にちょっと……来るものがあるけど、夢依が喜んでくれてるなら……まぁいいか。)
これで一段落しようと仕掛けた瞬間、夢依の口からとんでもない言葉が炸裂した。
「ねぇ、ちょっとお祖父様にも見せたくなっちゃった……一緒に来て」
「え……えぇぇぇぇぇぇぇ!!」
僕は返事の有無も聞かずに、手を引っ張り皇玉の間に連れて行く夢依に少し呆れた。僕の絶叫は久遠の彼方に消え去った。夢依に引っ張られてる最中、多くのメイドの視線が痛かった。
「お祖父様、夢依です」
「うむ」
皇玉の間へ着いて、夢依が扉を開ける。中には王座に座っている伯父様と、執事の雄斗さんが立っていた。僕はその前に夢依と立たされた。
「何用じゃ?それとその子は……?」
「さぁて、この子は誰でしょう?」
夢依はふふふっという含みのある笑いをした。伯父様は首を傾げていた。
「はて?」
「むむ……難しいですね」
雄斗さんも流石に唸っていた。
「正解は……冬風でした、私と雅が女装させてみたの」
てへぺろという顔であっさり答えをばらしちゃったよ。僕は腹を括った。しかし、
「「な……何!」」
伯父様と雄斗さんの反応が被り声が重なった。僕の中では非難の眼が来るんだろうなと、正直怯えていた。
「どう、感想は?」
自信満々に胸を張る夢依。すると、伯父様は厳格な顔つきで雄斗さんに何やら指示を出していた。僕は聞き耳をたてていると……
「雄斗、今すぐに他の女性服の手配を……。メイド服も忘れるな」
「畏まりました」
雄斗さんは頷くと、ものすごい速さで皇玉の間から消えてった。そして何故か伯父様と雅達の好みが一致しているという悲しい事実……僕は唖然としつつ伯父様に感想を聞いてみた。
「あの……やっぱりおかしいですか?」
「とんでもない!むしろそっちの方がよく映えるぞ」
なんと親指立ててグットサインを出した。予想と違う答えに、僕は転けそうになってしまった。
「え……えぇぇ~……」
今までにこんな困惑したことはない。生まれて初めての感じにすごく戸惑った。女性の眼ならまだ納得がいく、しかし男性の眼で……そんな目で見られると、怖いというか……。
「この儂が許可する、冬風は今日一日その格好で居るように!……頼む、居てくれ~」
わぁ、なんて威厳の欠片もない台詞……こういうやり取りをしている最中、雄斗さんが戻ってきた。……大量の女性服を抱えて。
「ゆ、雄斗さん……脇に抱えてる布はもしかして……」
「勿論あなたに着せるための服ですよ?冬風君……いえ、お嬢様」
「お願いですから呼び方まで変えないでください」
ため息混じりに言ったせいか、僕の言葉なんて聞こえていないようだ。あっという間に試着室(仮)が作られ、僕は大量の女性服とともに突っ込まれた。
「あ、あの……何を着れば」
「「「まずはメイド服をお願いします」」」
まるで打ち合わせでもしたかのように息ぴったりな返答、僕は仕方なく着替えた。
~数分後~
「着替え終わりましたけど……」
顔を赤くしてもじもじしながら出ると、伯父様と雄斗さんは鼻血の海に沈んだ。夢依はめっちゃカメラで激写してきた。
「こ……これは…」
「凄い破壊力……ですね」
地面に伏しながら鼻血を止める2人。僕は顔を真赤にしながら呆然としてた。その瞬間、見計らっていたかのように扉の向こうから城全員の使用人さん達が押し寄せてくる。
「な……今度は何なんですか!」
あたふたしていると、雄斗さんが口を開いた。
「服を借りる際に事情を話したら……皆が見たいと仰るのでつい……」
「ついじゃないですよ、どうするんですかこの状況!」
僕は恐る恐る後ろに振り返った。すると……
「あぁ、まさか冬風様のこのようなお姿が拝見できるなんて……幼少の頃から見守っておりましたが、ご立派に……」
「う、美しい……すごく似合ってる」
皆の絶賛の声が心にとても痛い。
(……母様、僕はどうしたら良いのでしょうか。とても前途多難です……。)
帰ってくるはずのない問を、心の中で呟いてた。
「それはもう、暫くその格好で居てもらう他無かろう?」
「その方が宜しいかと……」
「私もそれに賛成」
そして僕無しで話は勝手に進められ、反論することすら出来なかった。こうして僕は4月の入学式まで、女性の格好をさせられるのでした。その日僕は文房具を新しいのを買おうと思い出かけようとしてたのに……。
「あのう、外に行く時だけ女装解いてもー」
「駄目じゃ」
「容認できません」
「嫌よ」
(……)
僕の言葉は途中で遮られてしまった。予想通りの返答に少し苦笑いしてしまった。
「分かりました、それではあまり目立たない服装に着替えます」
僕は試着室に戻り、雄斗さんが持ってきた女性服の山を探った。あるのは……(ナース服)と(女性用の水着)と(純白のワンピース)と(ゴスロリ)と(巫女服)と(セーター)……まともなのが少ししかない?!
諦めてセーターとスカートを着用し、上からコートを羽織った。もちろんパンストも忘れずにね。
「じゃあ、僕はこの服装で少々買い物に行ってきます」
「あ、私も行く~」
「気をつけて行くのじゃぞ?」
「ナンパにはくれぐれもお気をつけを」
野次馬の使用人たちの中を、夢依と手を繋いで通って行く。そして城の外へ出ると……通行人が必ずと言っていいほど僕らを見てくる。流石に外では”僕”だと悪目立ちしかし無さそうだし、”私”に変える必要がありそうだな。通行人の視線を気にしながらも、僕は目的の文房具屋に着いた。
中に入ると色んな文房具があり目移りしてしまう。夢依は少々はしゃぎ気味で、僕に色んな物を進めてきた。
「ねぇねぇ、これとか可愛くていいと思うの。あれとか……これとかも!」
「わ、分かったからそんなに騒がないでくれ……恥ずかしいから」
「……分かったわよ」
とりあえずノートと中学の時に使っていたシャープペンシルと同じやつ。それと、消しゴムを持ちながらカウンターへ向かった。すると店員のおじちゃんは…
「おうお嬢ちゃん達、仲がいいみたいだけど姉妹かな?がっはっは」
「え、えぇ……まぁ」
豪快に笑う店員と戸惑う僕。緊張しすぎて冷や汗が出そうだった。
「可愛らしいお嬢ちゃん達には、特別にオマケしてやらぁ」
そういうと袋の中に、可愛らしい文房具も入れてくれた。ありがた迷惑なのだけど……せっかくだから店員のご厚意に甘えておく事にした。
「ありがとうございます、それで代金はお幾らですか?」
「70ポッチだぜ」(1ポッチ=10円)
僕は財布の中から100ポッチを取り出し、渡した。30ポッチをお釣りとして受け取り財布の中へ、店員に礼をしてから僕と夢依は外に出た。
「さて、帰ろうか?」
早く帰りたい僕は城の方向へ足を進めた、しかし夢依は僕のコートの裾を引っ張った。
「せっかくだからもうちょっと何処かに行こうよ……ね?」
(……無邪気な笑顔だなー。)
悪意の全く無い笑みに苦笑しつつも頷いた。
「う、うん…」
少し溜息をつきながら僕は夢依が行きたい所を聞いてみた。
「そうねぇ、行きたい場所なら……あっ」
何かを思い出したように歩き出す。そして夢依の先導で着いたのが……ぬいぐるみショップだった。窓越しに店内を見て見ると、女性客しか居なかった……正直帰りたいと思った瞬間でもあった。しかしそれを許してくれるわけもなく、やや強引気味に夢依と入店した。中は甘い香りのアロマが焚いてあり、客はみんなぬいぐるみに意識が行っている。
「それで……何が買いたいの?」
「それは今決めるわ」
これは……少し長くなりそうだと思った。
「これいいなぁ……あっ、これも可愛い」
色んな種類のぬいぐるみがあり、目移りしている夢依。僕もいろいろ見て回ると、あるぬいぐるみが僕の目に止まった。
「………」
試しに抱いてみた。するとふかふかというかもふもふというか……とても気持ちよくて、欲しくなってしまった。
「へぇ……猫ちゃんのぬいぐるみかぁ、可愛い趣味してるじゃないの」
僕が夢中になっていると、夢依が隣でニヤニヤしていた。僕は慌てて平静を装った。まぁ、僕が猫好きなのは別に隠すつもりはないんだけども……なんとなく恥ずかしい。
「ちょ……ちょっと買ってくるね」
僕は逃げるようにレジの方に向かった。お金を払い、袋に入れてもらってから夢依の元へ戻った。
「夢依は何買うか決めた?」
「う~ん……ちょっとまってね」
中々決めかねているみたいだ。僕は外の様子を見ようと窓に眼をやると、背後からひそひそ話が聞こえた。
「ねぇ……あの子たち可愛くない?」
「特に外を眺めている子……レベルが高すぎるわ」
(……うん、聞かなかったことにしよう。)
心の中で僕は男ですと謝りながら、景色を背景にぼ~っとしていた。
「お待たせ~」
「ひゃっ?!」
不意に背後から声をかけられて、悲鳴みたいな声が出てしまった。幸いなのが、音量をすごく抑えていたため周りには聞かれてなかったことだ。
「どうしたの?」
「いや……ぼ~っとしてたからさ、いきなり声かけられてびっくりしちゃっただけだよ」
夢依に微笑みながら出口へ向かった。外に出ると店内との温度差ですごく寒く感じた……特に足元が。そりゃあスカートにパンストとブーツって……冷えるに決まってる。そう思うと、よく女性はこんな寒い中でも平気だなーと思う。
「さ、寒いわねー……近くのカフェにでも行きましょう」
「そ、そうね……」
周りの人たちも居るため芝居を続ける。カフェに到着し、夢依はキャラメル・マキアートを。僕はカフェラテを注文した。店内には暖房が効いており、冷えた体が少しずつ温まってきた。注文した飲み物が運ばれ、それを適温まで冷ましながら飲んだ。
カフェラテの暖かさが、体内に取り込まれてじんわりと来る。ほぅっと一息つくと、夢依は次行く場所を決めようとしていた。
「あ、あのね……私寒いからなるべく早めに…」
「次はケーキ屋さんに行きましょ、甘いモノが欲しくなっちゃって……でも流石に外だと寒いし、家で食べたいからお持ち帰りで」
あははと言いながらも僕の案は聞き入れない。まぁ、その後に帰れるのであればお共するけれども。
「分かった、じゃあそこを最後にしましょう」
「うん」
コーヒーを飲みつつ、他愛もないおしゃべりを交わしていた。気が付くとそろそろ日が暮れようとしていた。
「それじゃあ、そろそろ行きましょうか」
「そうね」
僕らはお金を払い、外へ出た。そして夢依が言っていたケーキ屋を目指す途中、この前学校で夢依と揉めていた大男と出会ってしまった。
「げっ……」
「む……?」
僕は嫌な顔をし、別ルートへ夢依を引っ張っていこうとした矢先。
「待てお前ら……貴様は確かこの前の皇女の……夢依だったな、あの時は変な奴が居たが今日は居ないようだな。てっきり貴様の連れかと思ったが」
(あの……目の前に居るんですけど)
そんな内心のツッコミを無視して話は進んでいく。
「え、えぇ……それで、貴方は私達を呼び止めて何の用かしら。この前の続きでもする気かしら?」
「いや、流石にこの場で揉め事すると憚られる。それに今日は違う連れがいるなと思ってな」
「わ……私のことでしょうか?」
引きつった作り笑顔で聞いてみた。すると、大男は頷いた。
「貴様のそのコート……あの男が着ていたものと似てるが、知り合いなのか?」
「い、いえ……偶々似たようなものを着ているだけだと思いますよ」
「そうか……知らぬなら仕方ない」
そう言うと、大男は溜息みたいなものを発した。
「それにしても、貴様らはここで何をしてるんだ?」
なんでそんなこと聞いてくるんだろうと思いつつも、僕はさっきまでカフェでお茶をしてて、その帰りだと言った。
「そうか、最近ココら辺に変質者が出るらしいからな、気をつけて帰れよ」
「は、はい……」
「ふん、貴方に心配される義理はないわ」
「相変わらずいけ好かない態度だ。貴様もこの女のように態度を良くしたらどうだ」
ごめんね、僕は男だし演技なんだ。本当だったらものすごく無視したいんだけどね。
「そ、それじゃ失礼しま……」
僕達が帰ろうとした刹那、大男に名を聞かれた。
「貴様、名は何という……?」
「へっ?」
「貴様の名だ。」
「私……?」
ここで本名を応えるわけには行かないな。どうするかと悩んでいると、母様の顔が脳裏に浮かび、とっさに
「春音……宮野 春音です」
「春音……か、良い名だ。俺は大道淳だ」
「よ、よろしく……」
大道は名乗った後、帰っていった。
「ほら、早くここから立ち去ろう」
「うん……」
僕らも帰路につくことにした。やがて城に着くと、皆が出迎えてくれた。僕は……
「え、今日だけと言わずに入学式までそのままでいろ?」
「そうじゃよ、ソッチの方も人気じゃからな。城の皆の士気が上がって良いと思うのじゃが」
なんと、入学式の日まで女性の姿で居ろと言われた。
「流石に寝間着は持参してきた奴でも……」
「あ、すまぬ。もうすでにここにあるぞ」
伯父様の手を見てみると、フリル付きの可愛らしいピンクのパジャマがあった。ゲンナリしつつ、僕は部屋に戻った。すると雅が笑いを堪えながら愉快そうに話してきた。
「お……おかえっ……プククッ……」
笑いを堪えている姿は、すごくプルプル震えていた。もう突っ込む気にも慣れず、布団に寝転んだ。
(今日はなんて日だ……)
と落ち込んでいると、雅が僕の髪を撫でた。
「んっ……」
結んでいないため、あまり髪の毛の抵抗が少なく気持ちよく感じた。落ち着くような
、懐かしいような……。
「まぁ、女の子の格好でも冬風は冬風よ。私の大事なパートナーには変わりないわよ」
「ありがとな」
「いえいえ、どういたしまして」
僕はベッドから起き上がり、雅の方に向いた。僕が微笑むと、雅も微笑んだ。
「……入学式まであと少しか、早いな」
「そうね、人間の感覚だと早く感じるわね」
(それはつまり、神の感覚では遅く感じられるということか?種族事に時の感じ方は異なるのかな……)
そんな疑問を言おうとしたが、流石にやめておいた。
「そう……だね」
雅に髪を撫でられながらごろごろしていると、突如ドアからノック音が転がってきた。
「冬風君、少々いいかな」
ノックの正体は伯父様だった。僕は即座に起き上がり、ドアを開けて部屋の中へ迎え入れた。
「如何なさったのですか?」
「もうそろそろ冬風君と夢依も入学式じゃろ?」
「そうですね」
「それでだ、新入生のリストを見ていたのじゃが君と同じ村……エーテル出身の子の母君がフィリアスの魔法学園に来てたそうなのじゃ、幸い入学はまだしないらしいがの」
「……っ!」
僕は血の気が引き、冷や汗が出た。呼吸が苦しくなり、息が整えられず僕は胸に手を押し付けるように添えた。
「なっ……どう……して……」
「気持ちは分かる、じゃが……なにかおかしいのだ」
そう、エーテルにも若霧魔法学園はあるはずだ。それなのに……まるで、僕を追ってきたかのようにフィリアスの方に来るとは。
「そう……ですね、なんとなくですが……嫌な予感がします」
僕が一番恐れているのは……僕が手をかけた人たちの中の遺族、又は関係者じゃないかということだ。もしそいつが公に僕の過去を話したとしたら……
「一応探っては見る、じゃが学校で接触しないとも限らんのでな」
「……肝に銘じておきます」
「一番簡単なのは、名前を変更することなのじゃが……」
「それは多分無理でしょう、何せこの名前で登録しちゃってますし」
「そうなのだ、それが……」
僕と伯父様は考えた。どうにかしてこの状況を打開できないかと。でも、いい案は生まれず、僕は焦りを感じた。
「あ、あの……その人の名前分かります?」
とりあえず名前を聞いた。もしその人が関係者だとしたら、僕は聞き覚えのあるはずだから。
「すまぬ、それは極秘機密事項なので話せぬのだ」
「そう……ですか」
僕はがっくりと肩を落とした。伯父様は
(こちらも全力を尽くしてサポートするからな、安心せい)
とだけ言い残し、戻っていった。
「はぁ……」
胸が締め付けられるようで、すごく息苦しい。思い出したくないことを無理やり思い出させられ、これから毎日同じ場所に居なくてはならない。決して逃げることの出来ない呪縛……。
「忍……今頃まだベッドの上で寝ているのかな、それとももう……」
最悪の結果だけが僕の頭をよぎり、僕を苦しめた。しばらくすると呼吸は少し楽になり、心もだいぶ静けさを取り戻してきた。
「……大丈夫?」
「なんとかね」
危うく泣くところだった。泣き虫なのは変わってないのが少し悲しいところでもある。僕は改めて腹をくくる事にした。でもヤケクソにはならない、皆に過去がばらされても、僕は夢依を守りぬく。ただそれだけだ……それに、伯父様は”母君が見に来てた”と行っただけで、”入学する”とは言っていない。だから接触することは……無いと思う。
「それにしても……腑に落ちない」
「どうして?」
「だって、入学するのであれば当の本人も来なければならないはず、なのに母君だけ来たということは……」
「恐らく、入る確率は低いと……?」
「うん」
そう考えると、少し気持ち的に楽になった。僕はその後夕食を済まし、風呂に入り自室に戻った。いつもどおり髪を乾かし、櫛でとかす。そして寝ようとしたが、心がもやもやして眠れなかった。時刻を見ると、夜の11時を示していた。僕は眠くなるまで
中庭に出ることにした。中庭に出ると、涼しい風が柔らかく吹き草木の匂いがする。月は満月で、すごく綺麗だ。
「そうか、今日は満月だったのか……」
「綺麗ね……」
雅と一緒に中庭のベンチに腰を下ろした。皆が寝静まってるからであろうか、雑音が全く聞こえない静寂な夜。すると雅が服の裾から盃と酒を取り出した。
「冬風、ちょっとだけ付き合ってよ」
盃を手渡され、その中に酒が注がれた。盃の中に月が映しだされ、水紋と共にゆらゆらと揺れている。
「それじゃ……」
「乾杯」
盃と盃をコツンとくっつけた。雅はクイッと飲み干したが、僕は少しずつ飲んだ。やはり酒というのは飲むと喉が熱くなる。少し程度なら僕も飲める様になったようだ。
「これからどんな学校生活が始まるんだろうね……」
僕は雅に問いかけた。
「それは冬風次第よ、夢依以外にも仲良くするもよしだし」
「う、う~ん……」
僕は男友達を作ったことはあまりなく、人と接するのは苦手なのだ。特に学校ともなると人目が多く気配も多い、落ち着ける場所など限られているのだ。
「大道……だっけか、あいつは結構良い奴だったよ。あの時僕達を助けてくれたしね」
「ふ~ん、やっぱり人は見かけによらないって事だね」
ニヤニヤしながら僕を見てくる。
「何笑ってんだよ、全く」
ため息混じりに月を見上げる。綺麗な満月と、それを取り囲むような小さい星々。幻想的で、僕は見入ってしまった。
「そう言えば冬風は夜空を眺めるのも好きだったわね」
「うん、こんな広大な宇宙で綺麗に輝いてる。力強く、儚げに輝いてる姿は……幻想的だよ」
中庭に出てからどのくらいの時間が経ったのだろう、僕の中のモヤモヤはすっかり消え失せ無くなっていた。
「さ~てっと、スッキリしたことだし部屋に戻ろうか」
「そうね」
僕は両腕を思いっきり伸ばし、中庭への出入り口に足を向けた。するとそこには夢依が立っていた。
「……何してたの?」
どうやら僕達が中庭に居るのが気になり、様子を見に来たのであろう。
「ちょっと夜風に当たってただけだよ」
「そっか……そう言えばそうよね、今日はいろんな事があったんだし」
少し元気が無い感じだった。
「どうしたの、どこか具合でも?」
訪ねてみると
「ううん、ただ……冬風の事が心配になったの。学校でも上手くやっていけるかどうか」
「大丈夫だよ。それに僕は夢依を守ると約束したでしょ?だから僕は逃げない。これ以上逃げてもその先は……何も無いからね」
苦笑いしながら肩を竦めた。夢依は少し不安そうな顔をした後微笑んだ。
「そう、ならお言葉に甘えて……お願いね、冬風」
「お任せを……夢依」
僕も微笑んだ。こうして少し話した後、僕達は解散して各部屋に戻った。
「うぅ……少し長居しすぎたかな?」
長く外に居たせいか、凍えていた。僕は素早く布団に入り、暖を取りつつ眼を閉じた。
父様の消息はまだ不明、秋水兄様の容体も分からない。忍の容体も……そんな不安と闘いながらも、大丈夫なことを祈りながら眠りについた。
澄み切った夜空に浮かぶ白い満月と無数の星々。星の数だけ出会いと別れがあると聞いたことがあるけれど、僕は未だに分からないままだ。だって、出会いは運命で別れも運命なのだから。現実は残酷で容赦なくて酷いけど、それも運命なのだと言うのなら……僕は逃げずにそれと向き合わなければならない。真実から目を背けるのはもう終わり、今度からは……ちゃんといろんな事に向き合って行こう。そして、胸を張って生きていけるようになりたい。
人間の強さは力だけじゃない、精神面的な意味も含んで初めて強いと言える。今のこんな僕じゃ、父様に嘲笑わ れるだけだ。もっと強くなり、今度こそ大切な人を守り切れる自分になりたい。あの時月を見て願ったのはそれだ。
~星々に願いを込めて、祈りを託す~
主人公最強の作品を作りたい!と思って生まれたのが、この作品です。
流石に無双させるのもあれなので、後々に強い敵やらボコボコにされるシーンなども含めて行こうかなと思っています。語彙力が足らないせいで、かなり変な感じに仕上がってると思います。(ここおかしいだろ!)とかそういう部分がございましたら、出来るだけ辛くないコメントでご指摘をいただけたら嬉しいです!
辛口コメントはメンタル的に耐えられる気がしないので、お控え下さい。
次回の投稿は……3月15日か16日を予定しております