思い出 (アデル視点)
裸の男が一人、二人、三人、四人……五人。
いや、訂正する。ほぼ裸同然の男が、五人いる。私の目の前に。
「くそ~っ、つめてぇ!」
「おい、ジェイ、それは反則だろうがっ!」
「セキこそ、立ち上がるのなしだぜっ」
「静かにしろっ! 気が散る!」
「あぁ!……俺なんでこんなことしてんだ!」
誰を見てもどこを見てもいい体つきをした大人五人。
ジェイ、セキ、シンにブルーノ。初めはこの四人で始まった極寒裸対決。たまたま通りかかったティガンがこの四人に引き込まれて合計五人となった。
下着以外を取り、裸同然になって雪の上に座り続け、最後まで残った人が一週間皆から食事を奢られるというだけの賭けらしいが……
「たかが食事を奢るぐらいでこんな辛い目に合わなくても……」
審判をしろと朝からたたき起こされた私。
これは『たかが食事』の闘いではないのだと力説された。
「男の意地ってもんだ。アデルには分からないだろうが」
「おいっ、アデルを侮辱するのは止めろ!」
「食事ってどうせ俺ん家なんだぜ。俺が勝ってこいつらに奢られても嬉しくないっつーのに」
「誰がサマラヤで一番忍耐強いかを決める重要な闘いなんだ」
「……一番って言ってもこの五人だけだぞ。他の奴は嫌だって逃げて参加しないんだから」
女子団員の中でも人気の五人。その彼らが体を晒して悶えているのに……なぜだろう。萌えない。
馬鹿馬鹿すぎて溜息も出ない。
「つ、つめてー!」
「だ、誰だよ、こんなのやろうって言ったのは! くそぅ、さみぃ!」
「ジェイだろう!?」
「あー、シン! お前が言い出したんじゃねぇか!」
「違う! 赤さんが村での時のこと持ち出して来たから! あの時は俺が勝ったのに」
「真、お前、まだ言うか~! あの時は俺が勝ったんだろうが!」
「お前ら、兄弟喧嘩するなら俺らを巻き込まないでくれよ!」
「ブルーノ、ならお前止めてもいいんだぜ? そしたらお前が俺らに奢るんだからな!」
「はっ? 四人分? ふ、ふざけんなっ! 親父に殺されるぜ!」
「体……感覚ない…………」
「うぉ!? や、やべぇ! ティガンが死にそうだー!」
終わりはすぐにやって来た。
真っ青な顔をしたティガンが前のめりになって倒れ――――私は用意していたお湯と大判布を彼に被せた。
すぐさま野次馬の一人が医者を呼んできて即刻停止。そして……
「お前ら、仲間を殺す気か! 全員一週間団の雪かきの任を命ずる! 今度こんなことやりやがったら除名するぞっ!」
ゼダンの雷が落ち、この馬鹿げた闘いに幕が落とされた。
「なんで私まで…………」
「あれは、アデルがもっと早くに気づけばティガンが倒れることにならなかったんだぞ」
「な、なんで私のせい!?」
「まぁ、審判で呼んでたんだし、当然だな」
「も、本を正せばシンとセキが――――」
「まぁまぁ……アデルはちょっと休んでろよ。俺が代わりにやるからさ」
「へーへー。お熱いことで。けっ、ブルーノ、シン~、今夜パールの店に行こうぜ~」
「行かん! 夜の雪かきさぼるつもりかっ!」
「俺、あっちの方やってくる……」
「ティガン待てよ~」
こうしてサマラヤの冬は過ぎていく。
馬鹿過ぎてどうでもいいような出来事も……思い出の欠片となっていく。
「あ。結局だれが勝ったんだっけ?」
「ティガン?」
「いや、一番最初に倒れたんだし、ティガンじゃないだろ」
「じゃ、誰だよ」
「………………」
「くそ~、やり損かぁ! 俺、今月金欠だったのに!」
「俺もだぁ!」
子犬のような目が私一人に注がれる。
「……はぁ……今晩だけなら私が奢るから……」
「「うぉぉ! アデルさま〜! 」」
サマラヤ、ありがとう。愉快な思い出をありがとう。
私はいい仲間に恵まれた。…………ような気がする。