アリアの日記 (アリア視点・第五章 第五話)
今日、お城では収穫のお祝いが行われた。
こういった何か特別な事が起きる時、私は先日の事を思い出すわ。
バザーン国のアンバー王女様がイメルダ入りされた日、私の主のマヤ様がお屋敷を抜け出されたこと。それからの数日は皆にとってとても辛い日々だったわ……
マヤ様がイメルダに来られてからというもの簡単に予想できないことが次々に起こるのよね。
そう……マヤ様は今まで見てきた姫君とはまるで違う……なんというのかしら。
とても愛らしい方ではいらっしゃるけど、驚くほど無知。でも分からないことや知らないことは恥ずかしがらずにそうと口にされ、熱心に学ぼうとされる。だからそんなマヤ様にこっちもついつい色々と教えて差し上げたくなってしまうのよね。冷ややかな所があるあのジェニーンでさえ、初めは嫌な顔をしてたけど、最近では彼女の方から色々とマヤ様に教えてあげてるもの。彼女、案外世話焼きなのよね~。
それはともかく……
ちょうど私が昼食を取っていた時のことよ。
バタバタと階段を降りる音がして、ジェニーンの「マミ様!」という声が聞こえた時、私は
ああ! また何かが起きたんだわっ! と嫌な予感がしたの。急いで食べかけていたスープを喉に流し込んで門を出てみたら……なんてこと。傷ついた子どもの鹿がいたの。
「マミ様、そんなことでしたらバークリーが」
「うん。でも……私がやる」
バークリーさんから弓を渡されたマヤ様は一縷の迷いもなく素早く弓を引かれた。
ダンっと大きな音がして可哀想な鹿はなんと即死だった。さすがだとあのバークリーさんが心から褒めていらっしゃたわ。
それから数秒もしない内に、アンバー様が来られたのにはびっくり!
遠目でしか見たことのないアンバー様はとてもお美しい方。
短い御髪はバザーン国で軍人だった頃の名残だと聞いたことがある。でも短くても輝く金茶色の御髪はすでにお城で侍女たちの憧れの的になっていると耳に挟んだわ。
すらりと背が高く、それでいて出て欲しい所は出てる体はそれだけで女からも男からも目の保養よ。私はどちらかというとマヤ様のような体形の方が好きだけど。小さい胸を隠して恥ずかしがりながら湯浴みされるマヤ様は真っ赤になられて可愛いもの!
あ、えっと……何を書いてたんだっけ? ああ、そうそう。それで、アンバー様がこっちに駈け寄られた時にはすごく緊張したわ。
マヤ様の存在はごく限られた人にしか知られてないから、陛下の許可なく外部に漏れるのは絶対ダメ。しかもよりによってアンバー様に見つかるなんて私たち誰も予想してなかったんだもの!
この時のレネー様のお顔ときたら……いつもより何百倍も怖かったわ。
「その子の歳はいくつか? 挨拶を教えなければならないほど年少にはみえないが?」
「すみません。産まれた時から耳が不自由で、そのため、喋りも不自由なのです」
「なんと! それは残念なことよ。とても愛らしい顔をしておるのに。しかし……それを補うよう女神は彼女に弓の才能を与えたようだな。見事だ。
これは子どもだと知らずに私が射たものだった。可哀想なことをした。最後をと思ってここまで追って来たのだよ」
「連れて行かれますか?」
「いや。もし私が子どもの血なんて捧げれば女神はイメルダに来たばかりの私に一生幸をお与えにはならないだろう。もし良ければそなた達で夕食にでもしてやればこの子の死は無駄ではないのだがね」
「仰せのままにいたしますわ、アンバー王女陛下」
私だったらパニックになっちゃうけど、さすがはレネー様。機転を利かせてあの場を乗り切られたわ。
そうそう。今、マヤ様は部屋に閉じこもっておられるんだけど……大丈夫かしら。まぁ、こんなことは今日に限ったことじゃないし、レネー様は陛下にお任せしましょうと言われていたけど……んー……
あ……ジェニーンが呼んでる。私、何かまたヘマしたのかな……。行かなきゃ、彼女に殺されちゃう!
明日は今日より良い日になりますように!