アデルと猫 (シン視点)
「おっ……おい、シン、見てみろよ」
ジェイが指差す方向にはアデルがいた。
――眠ってる。
今の時間帯なら邪魔が入らず訓練できるかと思い、剣の相手に嫌がるジェイを引っ張って訓練場まで来た俺達。
先に扉を開けたジェイが俺に振り返った。
――なんでこんな所で……
訓練場のど真ん中に彼女は四肢と背を丸めて寝息を立てていた。
ひとしきりの自主練の後、いかにも力尽きました、というように訓練着を着たままで。側には愛用の剣が転がっている。
その彼女の眠る横で、猫のスターがアデルの身体にぴったりと自分の身体をくっつけ丸まっていた。
「同じ……格好」
「ありゃ、どっちも猫だな」
確かに――――丸まるスターの横にいるアデルは体の大きな猫だった。
寒い中よくこんな所で寝られるなと思ったが、身体をくっつけていると案外温かいのかもしれない。猫の体温は人間より高いし。
「ナーォ」
俺達に気づいたスターが小さく鳴き声を上げた。
姿勢はそのままで。目だけをこちらに向けて。
その猫目が……妖しく光っていた。
「あれは『起こすな』って言ってるぜ、スターのやつ」
スターは雄猫だ。
なのに、女子寮を好んで住みついている。女には可愛い鳴き声を上げて擦り寄るくせに、男には時に威嚇の声を上げることがある。
それでも外で会うと俺にはたまに寄って来てくれるから、嫌われてないと思ってたけど……
「ナーォ……」
もう一度鳴いたスターは頭を上げてアデルの蜂蜜色の髪を嗅ぎ、また丸くなった。
――どうやら……スターはアデルの騎士気取りらしい……
「あんな顔して寝てたらやっぱりあいつも女に見えるよなぁ」
「あ、ああ……」
これで寝顔を見るのは……二回目だ。
柔らかそうだと思っていた髪の毛は触ってみると予想以上に柔らかだったのを手が覚えている。
その髪が羽のように床に広がっていた。
「んっ……」
アデルの身体がびくりと震える。目を覚ますかと思ったが、身体をより丸めただけで起きる気配はない。
「あー……シン、俺、やば」
「……は?」
「あんな無防備な姿見てたら……最近飢えてる俺の身体がちょっと反応してきだした」
「お、おい!」
「アデルなんかでこれじゃあ、俺そうとう溜まってるかも。こりゃパールの店に行かないとな」
天を仰いだジェイは「やばやば」と言って方向転換し、外へと出て行く。
――た、確かに……無防備で、あどけなくて……普通にも『女』に見えるし……な。
身体の芯がもそもそと騒ぎ出したのを感じて、我に返る。
――全く俺も何を考えてる! や、ヤバすぎるだろ!
「今日は止めとこーぜ、シン」
「あ、ああ」
一も二もなく慌てて返事をして俺は上着を脱いだ。抜き足差し足で近寄って、眠るアデルにその上着を掛けてやった。
なるべく彼女の寝顔を見ないようにして、一目散にその場を後にしたのは言うまでもない。