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埋立地  作者: 夏実歓
3/6

人殺し達2

ゴロンと転がりだしたのは少しガラの悪そうな若い女だったが、その女はもはや息をしていなかった。

男は手早く服を脱がせると下着だけになった女の死体に向かって、震えているケンジを引きずっていった。そして、荒れ狂う海に向かって女の服をまとめて投げ入れる。

そのとき、突如大きな波が襲いかかり、男の姿は消えた。

「ア、アニキ〜!」

ケンジが驚いて、堤防に駆け寄ると、男は、堤防の裏の雨水排出口の鉄格子に掴まっていた。

「ち、ちくしょう!た、助けてくれ、くそったれ!車にロープが、うわっぷ」

ケンジは慌てて、車に引き返すと車内から赤い登山用ロープを引っ張り出し、震える手で、先を捜す。夏だというのに手はガタガタと震え、強い雨が視界をふさぐ。

「早くしろ!もってかれちまうよ」

アニキは叫んだが、ケンジの耳にはかすかに届く程度だ。嵐の海は到底人の耐えられる様なものではなく、一刻を争う。手は痺れ、息をするのも苦しい。激しい力に揉まれて自分の身に何が迫っているのかも気がついていなかった。

何度かの波を受けた後、ケンジがようやく顔を出した。

「ア、アニキ、これを!」

ケンジはロープを投げるがうまくいかない。ただでさえ、ロープをそのまま投げてもうまく飛ばない上に、まるで暴竜のように翻る雨風がそうさせてくれないのだ。何度投げても手前で落ちてしまったり、後ろに吹き飛ばされてしまう。かといって、錘をつけたのではアニキに当たったときが心配だった。急がなければ!アニキはさっきからもう叫ぶのをやめている。

「そうだ!」

ケンジは閃いて、ロープの先端を輪に結びそれを投げつけた。二回三回と投げる。四回目についにアニキに届く。

「早く掴まれよ〜!」

ケンジが叫んだ。ロープが海中に没しようとした瞬間、アニキの左腕がロープを捉え引き寄せた。アニキは喘ぎながらロープの輪に腕を絡めた。

 ケンジは濡れたロープが手からすべるのを恐れて体に結わきつけると渾身の力を込めて引き付ける。グンと重さが係りビィーンとロープが緊張する。

 しかし、それでも着実にロープを引き上げていく。もうアニキの体は上半身が海面から出ている。

ケンジは気付いていなかった。そのアニキの体に取り付いた怪しい影に・・・

ふいに、小さな波が憐れな犠牲者の体を嘗めると強烈な引き込みがケンジを襲った。アニキは悲鳴を上げたがその声は期中深く吸い込まれた。もの凄い力にケンジが対抗して引き直すと、がくんと言うう衝撃と共に後ろに倒れこんだ。デングリ返ったその顔に、何か重い物が飛んできた。

「ぎゃ〜!」

ケンジの絶叫が嵐を裂いて響いた。それは肘から後ろの無くなったアニキだったのだ!

ケンジは真っ青になり、口から泡を吐き、這い蹲りながら車に辿り着くと腰に巻いたロープも開け放したドアもそのままにバッタリと倒れた。


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