其の壱 人殺し達
其の壱
それは嵐の夜の事だった。轟々と風が轟き波頭は空にちぎれ飛ぶ。其の中で奴はやってきた。
打ち寄せる波に流され、テトラポットに叩きつけられたそれは複雑に組み合わされたコンクリートの林の中に身を潜めたのだった。
「おい、どうするんだよ!これ・・・」
波しぶきのかかる海岸沿いの道にバンで乗りつけた二人の男は殺気立っていた。
「聞いてンのか・・・!どうすんだっていってんだよ!」
チンピラのような若い男が癇癪を起こしているそのすぐ後ろ、車の後部にはうっすらと水分を含んだ寝袋が転がっている。
「うるせーぞ、ケンジ!テメーが調子に乗ってちょっかい掛けたのが始まりじゃねーか!面倒掛けやがって、その上グダグダ言いやがって!」
運転席にいた少し年かさの男は唸る様に言うとケンジと呼ばれた若い男の胸倉をつかみ頭を相手の額に押し当てながらいった。
「今からあれバラして捨てるぞ」
ケンジはガタガタと歯を鳴らして何度も頷いた。
「道具はケツに積んである。細切れにして海に撒け!解ってんだろうな、もたつくんじゃねぇぞ!俺も手伝ってやる!!」
ドアに叩きつけるようにしてケンジから手を離すとケンジに車から降りるように促した。
そして、ケンジが車から完全に降りたのを見計らい男も車から降り、車の後部扉を開けて、ケンジに口の閉じた寝袋を引っ張り出させた。
「ひい!」
ずるずると引っ張り出された寝袋はどさっと地面に落ち、少し開いたその口からは人の頭が除いていた。
年かさの男は車に積んであったツールボックスから鋸とニッパーそして、ナイフと金鎚を取り出して言った。
「いちいち、ビビってたって拉致は明かねぇぞ。寝袋開けろ。三十分経ったらどんな状態でもいいから海に放り込むんだ」
なかなか、動かないケンジに業を煮やして男はケンジを押しのけると一気に寝袋のジッパーをおろした。