・変化・
「はああ…」
満月は花の香る湯に浸かり、大きなため息を吐いた。
「(流石に、言い過ぎだよ…私!)」
今日、放課後。私は先生とお話しました。
「先生は、どうして教師になろうと?」
「俺は中学生時代の担任に憧れて、気が付いたらここまで来てた。今思うとほんとにあっという間。…どうしてそんな事聞くの?」
「そうなんですか。私、佐蔵先生を見てて、毎日思ってたんです。この人、教師になれて嬉しいのかなって。」
「…どういう事?」
「宿題は確認するべきだし、遅刻しないのは当たり前だと思うんです。山田先生みたいになれとは思いませんが、もう少し教師らしさが必要だと感じます。」
「はあ、教師らしさ…。宮野さんはしっかりしてるんだね、こんな子が生徒の中にいるとは思わなかったよ。確かに、俺は最近浮かれていたかもしれない。」
「…私、言い過ぎてしまったかも知れません、ごめんなさい。」
「いやいや、寧ろ宮野さんに感謝だよ。」
「…これだけなので。さよなら。」
「うん、さようなら。」
思い返すと本当に恥ずかしい。自分の発言一つ一つが馬鹿馬鹿しく思えてくる。あと何時間で再び顔を合わせなければならないのか…。胸が痛む。私は湯の中に溶けこんだ。
「おはようみんな。今日は主要5科目の授業が全部かな?頑張れよー。」
「「(あれ、先生なんかハキハキしてる。)」」
私はひたすらピカピカのどうってことない自分の机を、冷や汗を垂らしながらじっと見つめている。佐蔵先生が変わった喜びと、あまりにも変わりすぎた分の焦り、それら両方が自分が元であるという恐ろしさと、ひたむきに戦っているのである。先生には目もくれず。
「学習委員、1時間目までに俺の教卓にみんなの宿題積んどいてね。」
「え!宿題見んの、佐蔵先生?」
「うん、それで当たり前だしね。」
頭がグルグルして痛い。でも、同時に何処かで達成感も感じていた。私は今までのために溜まった、こなした宿題の数々を学習委員にどっさり提出した後、再び自分の世界へと潜り込む。
「宮野さん、具合でも悪いの?」
「!!…いえ!ハハ…」
驚いた。先生は意外にも平然と話しかけてきた。驚きすぎて返事があやふやになってしまった。不安になり、そっと顔を上げる。
「…ああ。顔色、そんなに悪くないね。」
「え、あ…はい…。」
きっと今、私の頬は真っ赤だと思われる。顔が熱い。真夏の太陽を見上げているような気分になった。
「あ、ヤバい1時間目始まる。宮野さん無理しすぎないでねー。」
「…。」
私はこの後、授業内容が一つも頭に入ってきませんでした