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【日本三大奇祭レポート】 ヤマザキ春のパンまつり

作者: 納豆週三回

「芳醇を奪取したっ!」

「うおお!これで18点!」

「総代!隣の地区で超芳醇を獲得したとの情報が!」

「なに!?芳醇は2点、対して超芳醇は2.5点...!

 よし、ダブルソフトで応酬だ!」

「だ、ダブルソフト...!!総代、ダブルソフトは一気に3点取れますが

パンがぶ厚く危険です!正直もうパンで胃がパンパンです...」

「アホか!ウチの地区は白いお皿をまだ20枚しか獲得出来ていないんだぞ...

無理しても食べるんだ。食パンは『まるごとソーセージ』で流し込め!」


黒石寺蘇民祭、御柱祭と並んで日本の三大奇祭と呼ばれる

ヤマザキ春のパンまつりが現在開催され、

各祭礼地区では白い皿の獲得枚数で優劣をつけるべく、

しのぎを削っているのは周知の通りである。


しかしこの春のパンまつりがどのような伝承に基づくものなのかは

意外と知られてはいない。


そこで私が以前、民俗学者であった時にとある村で聞いてきた

今に伝わるヤマザキ春のパンまつりの由来について披露したいと思う。


平安時代、小麦は五穀の一つとして重要視されていた。

しかし収穫前の小麦の青草を貴族や有力豪族が農民から買い上げて

馬の飼料にすることが横行していた。


「おりゃあ!ワシの可愛い馬ちゃんに小麦をよこせ!オラ!」

「そ、蘇我さまっ!この小麦はこれまで丹念に育ててきて

もう少しで収穫の時を迎え...」

「あんだ?!お前ら百姓がこの蘇我氏に抗えると思っているのか?

ほう...その後ろに居るのは娘さんか...かわいいじゃねえか。

あ、別に小麦じゃなくてもいいんだよ?ワシは生娘の方が好みだからな

ぶひひひ..」

「こ、小麦を持って行って下さい...」

「父ちゃん!『小麦王に俺はなる!』ってあんなに情熱を

注いでいたのに...」

「しっ!」

「ほうかほうか、素直になればそれでよい。おい、全部刈り取れ!」

「あ、あの...和同開珎は...?」

「は?誰が買うと言った?」

「え、ええ?!」

「ワシは蘇我氏だぞ。そーが。豪族の中の豪族だ。

こんな馬の飼料ごときで和同開珎をくれてやるわけないだろ。

飼料に使ってもらえるだけでもありがたいと思え」

「いや、そんな...」

「ほう、じゃあ娘さんをもらっていこうかな。

結構な上物だ。それだったら和同開珎の価値があるなあ」

「と、父ちゃん!」

「蘇我様、お止めください!」


その時だった。

激しい雨が降り出し、一瞬の間をおいて刈り取られた

小麦から神様が現れた。


「我は小麦の神様、愚瑠天グルテン!」


愚瑠天は蘇我氏にくっつき自らをこねるように地面や木に体当たりして

粘り気を増し、ついには蘇我氏を粘々の身体の中に取り込んでしまった。


「わ、わかった!娘はいらん!和同開珎もたくさん払うから!助けて!」

愚瑠天に取り込まれた蘇我氏は愚瑠天の身体の奥から悲痛な声をあげた。


すると雨がやみ愚瑠天がしぼんで蘇我氏が這い出てきた。


「ちくしょーほらよ!和同開珎だ!おぼえてろよ!」


「愚瑠天さま!」「愚瑠天さま!」

こうして愚瑠天は小麦の神様として祀られることになった。


しかし愚瑠天は粘着質な神様であった為、

その年の小麦の生産がうまくいかないと

朝から晩までサービス残業をさせてまでも

ぐちぐちぐちぐち言い続け、徐々に農民たちは辟易してきていた。


時を経て安土桃山時代。


愚瑠天は既に小麦の神様というよりも粘着質な厄介神となっており、

小麦生産に支障をきたすほどの存在になっていた。


そんなある日のことだった。

ポルトガル宣教師の首のアコーディオンな部分にくっついていた酵母が

小麦農家の前で落ち、八百万の神の国の土に触れたことから

神様に変化へんげをした。


「愚瑠天様、もう、勘弁して下さいよ~」

「いや、まだだ。まだ言い足りない」

「愚瑠天様、今年小麦の生産が悪かったのは物凄い台風が来て...」

「いいや、それは言い訳だ。お前はわかってない」


「ちょっと愚瑠天とやら」

「ああ?!なんだ...え...?」


愚瑠天が振り返った先には酵母の神様が戸を開けて佇んでいた。


「愚瑠天、本当は皆に構ってほしいんでしょう」

「な、なにをお!」

「素直になりなさい。神様と崇められ同じ仲間として入れてもらえず

 寂しかったんでしょ。つらかったわね」


「...う...か、かあちゃん!!」

「さあ、こっちにおいで。この白いボウルに私と一緒に入るのよ」

「うん、わかった。かあちゃん」

「百姓や、申し訳ないけど食塩、砂糖、スキムミルクを30度くらいの

お湯に溶かして上から私たちにかけておくれ...

あとは勝手に私達自身でこねるわ…」


バタン、グタン、ボタン!


「はあ、はあ...もういいわ、さあ百姓や、蓋をしておくれ」


一時間後...


「おおお!愚瑠天様と酵母様が一緒になって2.5倍に膨らんでいる!」

「おおお!神の、神の仕業じゃああ!」

「祭り、祭りじゃあ火をたけ!火をたけ~!!!」

「うおおおお!」

「燃~えろよ燃えろ~よ ほのおよ燃えろ~!

火のひのこを巻きあ~げ 天までこがせ~!」



「夏、終わっちゃうね」

「...うん」

「なんか...寂しいなあ。また来年も一緒に夏を過ごせるかな...」

「...うん...ていうか、僕は寂しくないな...だって秋も冬も春も、

そして来年の夏もずっとずっと君と一緒だから」

「田吾作さん...!」

「〆子さん!ちゅばちゅばちゅっちゅ...子宝...僕の子宝を...!」

「田吾作さん...こんなところで...あ!」

「だ、だって抑えられ...うわ!愚瑠天様と酵母様が激しい火の余熱で

茶色くなってしまっただ!」

「うっわー田吾作やばいべ。監視しろ言われていたのに。

わたしら愛撫に夢中になっちゃって村八分もんだべ」

「うわ、やべー...もう証拠隠滅で食っちまおうぜこれ」

「え?神様を?うわ、超ドン引き...超冷める~」

「そういうなって一緒に食っちまおうぜ」


パクパクムシャムシャ...


「お、美味しい...こ、これは...!みんな!

愚瑠天様と酵母様が天の恵みを届けてくださったぞ!」

「おお...!う、うまい!」


「改めて、まつり、まつりじゃあ~!」

「燃~えろよ燃えろ~よ ほのおよ燃えろ~!」


こうして愚瑠天と酵母はパンの神様として崇められ、

二人の神様が入った白いボウルは神器となって今に伝承されている。



ヤマザキ春のパンまつり。

今年も白いお皿を集めて、二人の神様のもとで

いつでも好きな時にパンを食することが

出来ることの幸せをかみしめてみませんか

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― 新着の感想 ―
[良い点] 民明書房感半端ない(笑)。
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