小さな討論会8
直:
先ずは霊の種類から行こうか。
亡霊・幽霊・浮遊霊に地縛霊・守護霊・背後霊。良く聞くのはこんな感じか。
それから、霊は善悪に分けられてる。
良い方は守護霊と背後霊位で他は大体畏怖の対象だな。
咲:
そうね。
直:
ところで、例えば地縛霊とか浮遊霊とか、広く世間に認知されたのはいつか知ってる?
徹:
知らないなぁ。仏教用語じゃないと思うし。
鉄:
知らん。
咲:
知らな〜い。
直:
俺も正しくは知らないけど、1970年代に連載されてた、「○のだじろう」さんの漫画らしいぞ。
徹:
マジで?
直:
あぁ。あの人は心霊番組にも良く出てたし、霊能者とかの知り合いも多いだろうから、言葉自体は彼の造語では無いだろうけど、要するに昔からメジャーだった訳じゃないって事だろ?
咲:
そうなるよね。
漫画だったんだ…
直:
そうなんだって。
そうすると、今現在の幽霊話とか説明とかって、実は非常に新しいと思うんだよ。
咲:
それが事実なら、せいぜい30年〜40年位って事?
徹:
そうなるな。
直:
俺が見た本も、時代は一致するから流行を受けて出たモンかもね。
でも、その流布には本だけじゃなく、当然メディアが深く係わってる。だろ?
徹:
確かに…
直:
となると、それこそ売り言葉に買い言葉みたいに次々新説が出てきたんじゃないかって、俺には思えるんだよね。
鉄:
まぁ、ありえるね。
徹:
そうだな、情報の伝達速度が今と昔じゃ比較にならない。マスコミが一瞬でも騒げば、あっと言う間に世に広まるからな。
直:
そう。
でも、逆におかしいと思う人の反論もあっと言う間に伝わる。
徹:
だな。
直:
すると、更に修正したり矛盾点を是正する為の新説が飛び出す。
更にそれに反論する人が現れて…
徹:
また訂正理論が登場する、か。
咲:
それ、イタチゴッコって言うんだっけ。
直:
その通り。
鉄:
でも、そんなの世論が受け入れんのか?
そんなやり取り見てりゃ興ざめだろうに。
直:
そうなんだけどね。
でも鉄、お前も何となく信じるスタンスでテレビ見てんだろ?そう言ってたじゃん。
鉄:
あぁ…そう言えば。
直:
まぁ話を戻すけど、名詞として地縛霊とか浮遊霊とかが世間に知れ渡る前を考えたい。
霊に、言われている様な人に姿を見せたり、憑依したりって言う不思議現象色々を起こす能力が備わってるって説に対しては、当然反論や矛盾点の指摘が出てくる。
最初にも言ったけど、例えば未解決の殺人事件について、
「犯人に憑依して自首する,自殺させる」とか、「霊能力のある第三者に訴えて、犯人を警察に伝える」なんて事が出来るはずだと考える人が必ず現れる。
しかし、それじゃ困る人たちが居た。
咲:
霊能者?
直:
それは定かじゃないけど、まぁそれに近い人達かな。
徹:
宗教家もか…
直:
そうは思いたくないだろうけど、居たろうね。
徹:
まぁな。
商売だし…
直:
おぉ、徹とは思えない発言。
徹:
仕方ないさ、宗教だって信者が居るから成り立ってるのは事実だし。
直:
まぁね。そんで、そんな人達にとっては、地縛霊だ浮遊霊だ霊道だなんて言葉は救世主になった。つまり霊が存在していてくれないと困る人達は、ある意味『新型』の霊のあり方に一斉に飛びついた事だろうと思う。
そしてまた苦しい新説が続々登場した。
ま、地縛霊なんて俺には苦し紛れにしか思えないけどね。
鉄:
フラフラされちゃ迷惑ってか?
直:
そうだろ。自由に動けるなら、殺人犯はみんな獄中で発狂するよ、いや死ぬな。
鉄:
言われれば確かに。もし誰かに俺が殺されたら絶対復讐するしな。
直:
だろ?
だから動けない条件が必要だったんだよ。
でもね、よく考えると更におかしい事もある。
咲:
何?
直:
人には守護霊がついてんだろ?じゃあ、そいつらは何してんだよ。加害側の守護霊は見て見ぬ振りで、被害側の守護霊は泣き寝入りか?なら要らねーだろ、そんな奴。
咲:
でも、守護霊が完全に導いてる訳じゃないって聞いたよ?ある程度の影響力はあるらしいけど、基本はその人次第だって。
直:
知ってる。俺も聞いた事あるよ。でも、正にそれが苦し紛れの辻褄合わせだと思わない?
咲:
あ…
そうかぁ。
直:
俺はそう思うよ。だって何でもありじゃん。てか、おかしいだろ?守護霊一つ取ってもさ。他の霊から攻撃されたり、憑依までされてほったらかしか?
殺人に拘るけど、俺が被害者の守護霊なら、復讐しないまでも霊能者とやらに訴えて出るぞ。
鉄:
だよな…
直:
今は無理やり順序だてて組み立てたけど、実際には違うだろうね。多分、今で言うセミナーとか勉強会とか座談会とか、そんな小さな世界で頭の良い嘘吐きがレスポンス良く吐いた嘘が広まったってのが実態だろうと思う。ま、そんなもんだろ。
徹:
なるほどな…
だけど、例えば現象に対してそれを説明するための理論付けをするのは、必ずしも間違った方法じゃないよな?
直:
まぁそうだけど?
徹:
いやな、次々新説が登場して議論されるってのは、ある意味で科学に通じるところがあるかと思ってね…
直:
お前、本気で言ってんの?
徹:
う〜ん、俺も研究やってるけど、科学だって先ず現象ありきで理論は後付け、だろ?
直:
それは認めるよ、俺も技術屋だから言ってる事は分かる。
けど、霊の場合とは致命的な違いが『現象』の部分にあるだろうが。
徹:
まぁ、そうだよな…
咲:
ねぇ、分かんないんだけど?
徹:
あぁ、要するに再現性の問題だよ。
咲:
再現性…
徹:
そう。霊の話は目撃談も体験談も沢山ある。それを説明するための理論もあるにはあるけど、肝心の現象、つまり幽霊がいつでも確実に現れてはくれない。だから現象そのものが証明出来ない以上、それを解説する理論に意味がないって事だよ。
鉄:
でもよぉ、いつでも誰でも体験できる訳じゃないって理論なんだから、良いんじゃねぇか?
直:
そうだけど、それが辻褄合わせじゃなかったら、世の中に辻褄合わせって言葉が要らなくなるよ。
鉄:
そう…なのか?
直:
そうだと思うよ。
例えばだけど、昔は死の病ってのが沢山あったろ?それを理解するために人々は祟りとか、魔物の仕業とか、そんな事で納得してたんだ。これが要するに辻褄合わせみたいなもんだろ?
しかし病気には再現性がある。だから幽霊のそれとは次元が違うし、科学、この場合は医学だけど、それが進歩して病気の原因も突き止めたし対策も練り上げた。
科学は現象さえはっきりしていれば研究できる。心霊現象だって、たった一人の霊でも、たった一人の霊能者でも良い、確実に再現性のある者が居れば、証明も出来るし研究も出来るんだよ。ま、居ないけどね。
徹:
だな。前言は撤回する。科学とは程遠いな。
直:
まぁ、こんなところじゃないの?
もう言う必要もないけど、鉄の言った通り、ぜ〜んぶ人間の作った戯言だよ。
それが俺の結論です。
ところで咲、名古屋のホテルでみた『ソレ』は、確かに幽霊だったのか?
咲:
そう言われるとね、なんか自信がなくなってくるから不思議だよね…
直:
状況とか話してみる?
咲:
聞いてくれるの!
鉄:
何で嬉しそうなんだか…
咲:
だって聞いてくれないんだもん。
んとね、私の部屋は5階だったの、長い廊下の端の方だと思って。で、私が外出から戻って部屋に入ろうとしたら、廊下の向こうからコートをだらしなく着た男の人がフラフラした足取りで、しかも何かブツブツ良いながら近づいて来たの。廊下も薄暗いし、表情とか良く見えないんだけど、とにかく気持ち悪い感じだった。
鉄:
酔っ払いじゃねぇの?
咲:
私も一瞬そう思った。
でも、左手でなんか女の人のショールみたいなの引きずってて、それも不気味で。
徹:
そんで?
咲:
もう、私怖くて怖くてパニくっちゃって…
部屋に入りたいのに、鍵が上手く入らなくて。ガチャガチャやってたら鍵落としちゃって、あ〜もうヤバイと思いながら、鍵を拾って相手の姿を確認したの。
鉄:
そしたら?
咲:
消えてた。
鉄:
お〜鳥肌…
直:
ん?
咲:
おかしい?
直:
咲はどう思うの?
咲:
今思うと、でしょ?
直:
そうですよ。
咲:
あはははは…
徹:
その人、エレベーターに乗ったんじゃ…
咲:
そんな気がして来た。
徹もあのホテル泊まったんでしょ?
徹:
あぁ。あのホテルの廊下はエレベーターホールを中心に左右対称の作りだよな。
直:
ふ〜ん。つまりその酔っ払い風の男は、自室から出てエレベーターに向かっていた。それを幽霊か変質者と考えて恐怖を覚えた咲が一人で慌てて、しかもタイミングよくその男がエレベーターホールに曲がった事で視界から消えたって事か?
咲:
分かんないけど、今思うとその可能性も否定できないなぁ…なんて。あははは。
直:
良いじゃないの。
結局は自分が納得したらそれでOKだから。
咲:
私、霊感なんか無いのかも…
鉄:
また極端なやっちゃなぁ。
咲:
だって、さっきまでは幽霊だって確信があったの。他の可能性なんて考えもしなかったし…
でも改めて直に聞かれたら急に自信なくなっちゃった。今まで感じてたのも、ホントは違うのかなぁ…なんて。
直:
ま、確かに誰かに言われて自信を失う様じゃ、体験そのものを実は信じてないのかもね。或いは記憶に曖昧な所があるとか。体験談とか目撃談って、全てとは言わないけど似た様なモンも多いんじゃないのかね。
徹:
そうかもな。俺が寺で感じた気配も確信がある訳じゃなし…
やっぱ無いのかなぁ〜霊なんて。
直:
やっぱ〜?




