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小さな討論会5

徹:

だけど…

直:

何?

徹:

人類繁栄の陰で、絶滅していった生物も居る。例えばだけど、魂の数、つまり総量が一定なら良いんじゃないか?

直:

ま、そういう考えになるだろな。だけど地球生命も最初は極少数だった筈だから、考え方は一緒だよ。それに宇宙全体でも同じ。天文学的な数の魂がビックバン以前からあったなんて無理な考えだ。だからって魂が生物と一緒に生まれたりするとしたら、輪廻は必要なくなるし。

だから魂なんか無いと考えりゃ何の矛盾もない。俺はそう思うね。

徹:

そうか…

咲:

じゃあ…、霊についての話って全部嘘なの?私は感じるんだけどなぁ……

直:

咲は、幽霊見た事あるの?

咲:

霊感あるって言ったけど、見たのは一回だけ。

直:

いつ?

咲:

会社に入ってから、研修で名古屋に行ったんだけど、その時泊まったホテルで。

徹:

あぁ、あの名物研修な。

咲:

そうそう。

直:

ふ〜ん。一回だけか。

咲:

うん。どんなだったか聞かないの?

直:

うん。俺ほら、聞いても説明できないから中身はどうでもいいの。

そう言えば、一回だけ見たって人多いよな…。てか「何回か見た事ある」って人も含めたら、体験者の大半になるんじゃねーか?

咲:

中身はいいんだ…

鉄:

そうだな、確かに多いかも。合コンとかしてても、大体の女の子は「あるある〜アタシも一回だけ〜』って。そういう子多いぞ。

徹:

サンプルが合コンの女の子かよ。

まったく羨ましい…

咲:

ト・オ・ル君?

徹:

はい、じょ冗談です。

でも冗談抜きで多いんじゃない、一回〜数回までの目撃経験者って。

直:

だろ?そうだよな。

でもおかしいと思わない?

咲:

何で?

直:

てかさ、咲はその経験が幽霊だって確信出来てる?

咲:

勿論そう思ってるよ。

直:

そうか…。

なら、咲の経験には触れない事にして進めよう。いいか?

咲:

中身はいいのね、ホントに…

鉄:

あきらめろ、咲…

徹:

いいから進めてくれ。

直:

そうします。

幽霊って、この世に怨みやら未練やら…で誕生する事になってたよな?

徹:

そうだ。

直:

で、目撃談にはスッゴイ古い時代の幽霊も居るだろ。落ち武者なんて良い方で、十二単着てました、なんてのもあるよな?

徹:

うん、あるな。

直:

咲の見た幽霊って、何時代の人?

咲:

えっ、えっと、多分現代人だと思う。

直:

ふ〜ん、現代の人ね。ま、基本的には現代の人が多いんだな。

咲:

やっぱり中身は良いんだ…

鉄:

だから…

直:

ところで、生きてる人間に対してどの位の割合で幽霊が居ると見積もれば良い?

徹:

また計算か…。って、どう考えりゃ良いんだよ…

直:

分からん…。

でも、現代人の幽霊目撃が多いとは認めても、かなり古い霊も目撃されてる訳だから、相当な量の幽霊がフラフラしてるだろ。

咲:

フラフラって…

直:

ここは数字で示せないけど、でもかなりの数の幽霊が居ると思って良いだろ?

徹:

それは確かにそうだ。

直:

だとしたらだよ、何で一回だけ見たことがある人がそんなに居るんだ?

徹:

は?

直:

徹、幽霊見たことは?

徹:

何となく『あれは幽霊だったのかな』と思える経験は寺で何回かある。

でも、姿を見たと言えるのかは自分でも疑問。下向いて漫画とか読んでると、視界の端の廊下を人影が横切った気がした事が何回かあって。勿論、人が通るはずの無い場所とタイミングでね。だから、俺の体験が「気のせい」でなければ幽霊と考えるのが自然かな、ってレベルの話だけど。

直:

寺での話か。中身は結構リアルだな。

咲:

私の話は聞かないのに…

鉄:

もう言うな、咲…。

直:

鉄は見たことある?

鉄:

いいや、俺は一回もねぇ。

直:

俺も無い。

さて、一回でも見たことがある人、何回か見たことがある人、霊能者級に見える人、そして俺や鉄みたいに全く見た事が無い人。この差は何?

徹:

霊感。

直:

だよな?

でも、一回でも見た事がある人って、霊感があるんだよな?

徹:

だから少しあるって事だろ。

直:

そう。でもたとえ少しでも霊感がある。

鉄:

だから?

直:

少しでも霊感のある人が、一生の内で目撃体験が一回だけか?

徹:

だからレベルの差って事だろうよ。

直:

そう、レベルの差。必ずそう結論付けられる。でもホントにそうか?

徹:

何が言いたい?

直:

一年は365日、十年で3650日、二十年で7300日だ。三十年なら一万日を越える。僅かでも何でも霊感のある人が、そんだけチャンスがあって一回か?二回か?

徹:

そう言われると少ない気はするけど、レベル差は数値化出来ないんだから確率は計算できないって。そもそもこの考え方には無理が有るよ。

直:

何で?

徹:

霊には色々なタイプが居るんだ。お前の言う「フラフラ」している霊も居るけど、思い入れのある場所に縛られている地縛霊も多い。地縛霊にはその場所に行かないと遭遇できないから、チャンスは日数とは関係ない。それに「フラフラ」している浮遊霊だって、霊道の周辺とか行動の範囲は絞られてくるから、そう簡単には会わないって。それに霊感のレベル差が重なるんだから、滅多にお目に掛かれないのは仕方ないだろう。

直:

良くぞ言ってくれました!

徹:

はぁ?

直:

今のお前の答えはまったく模範解答だ。

でも、その模範解答って、全部人間が作った後付のこじつけ理論だと思えないか?

徹:

話、すり替えんな。幽霊との遭遇確率の話だろうが。

直:

すり替えた訳じゃないさ。咲の「幽霊の話は全部嘘か」の質問に答え様としてるんだよ。

徹:

お前、罠張りやがった?

直:

人聞きの悪い事言うなって。でもお前のお陰で話しやすくなったけどね。

徹:

ひでぇ奴…

直:

まぁまぁ。

一気に俺の考え方の結論に進みたいんだけど良いですか?

鉄:

あぁ、どうぞ。

咲:

私の話、結局聞かずに結論なの?

直:

悪いね。咲の話聞いても良いけど、その上で否定論展開したら、咲を否定してるみたいになるだろ?俺がやり辛いから避けただけだよ。

でも、咲にはもう一度記憶と戦ってもらいたい。その名古屋で見た「モノ」は、幽霊以外有り得ないのか、「幽霊ではない」という前提に立ったら、他の結論は出てこないかどうかをね。

咲:

うん…。

直の結論聞きながら考える。

徹:

結論てのは、否定の根拠か?

直:

そいつは無理だよ。

否定に根拠は無いし、証明も無理だって言ったろ?

だから、俺が考えるところの、ストーリーだよ。これまでの話のマトメみたいなもん。

徹:

ふ〜ん。

じゃ、とり合えず聞いとくか。

直:

そうしてくれ。

勿論、その上で反論宜しく。

徹:

了解した。





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