小さな討論会2
トイレとキッチンに向かった二人が戻り、小さな討論会は再スタートした…
鉄:
今…、トイレでふと思ったんだけど…。
なんか、結論聞いちゃった気がするんだよね…。直の話じゃ、全部人間の作り話って事で、以上終了じゃねぇか?
咲:
私もそう感じたけど、でも…だから霊を否定する根拠にはならないんじゃない?
徹:
ん…。神も霊も人間が作った。伝承は否定されず、人の本能が今もそれを受け入れている。こんな感じか…
話の筋は正しいと思えるけど、『だから霊は居ません』じゃ、確かに弱いよな。
鉄:
でも全部、人間の所為にしちまえば、それ以上はないぜ…
咲:
それって、直の言う神様と同じだね。
直:
あ〜そういう見方もあるな。
でも、そんだけ人間の脳は傲慢だって事だろ。
咲:
じゃぁ…あのぉ、霊が居るとしたら、何が問題なの?
直:
問題?
咲:
あはは。実はね、直の話は良く理解できてる積りなんだけど、神様とか本能とか、遠回りというか話が大き過ぎて、なんかピンと来ないのよ。だからもう少し身近と言うか、スケールの小さい話にしてもらえないかなぁ〜なんて思って。あはは。
鉄:
私は馬鹿だから分かり易い話にしてって事?
咲:
馬鹿は余分!そういう鉄だって難しい話は苦手でしょ?
直:
いやぁ…、極めて易しい話をしてた積りなんだけど…
徹:
直、分かるけど、ちょっと意味が違うみたい。
直:
意味?
徹:
だって、テレビの話位しか、霊とか幽霊って言葉すら殆ど使って無いじゃん?
直:
あぁそう言えば…
徹:
だから、もう少し具体的に霊の話をしませんか?って事だよ。
直:
なるほどね…
鉄:
そう言えばそうだな。咲、茶化してゴメン。
咲:
え?べ、別に良いよ。気持ち悪いから謝らないでよ。
徹:
じゃぁ、そういう訳で直、霊の話を中心に続けようや。
直:
いいけど…、じゃ何の話から行く?
…無言の数十秒…
直:
またかよ…
無いならまた、俺が回りくどい事言い始めるぞ?
…無言の数十秒…
直:
だめだな。
じゃぁ、今度は質問ではなくクイズです。
鉄:
クイズ?
直:
そうです。
それでは問題です。
三大オカルト、幽霊・UFO・超能力。
俺は基本的に全て否定ですが、「もしも」存在するとしたら、可能性が最も高いと、「俺」が思っているのはどれでしょう?
徹:
UFO
咲:
UFO
鉄
UFO
直:
なんでやねん…。
鉄:
だってお前、昔から宇宙人は絶対に居るって豪語してたろ。
直:
そうだけど、あんまり偏るから…
徹:
で、正解は?
直:
超能力です。
咲:
え〜〜〜?一番無さそう…
直:
では二番目は何でしょうか?
徹:
UFO
咲:
UFO
鉄:
UFO
直:
またか…
でも残念ながら正解です。
徹:
はぁ。直にとっちゃ、霊は超能力以下ってか…。で、何でだ?
直:
あぁ、超能力・UFO・幽霊。全部無いと思ってるし、全部人間が作ったもんだと思ってる。
で、これらが世に広まり、市民権を得るにも全部人間が係わってる。
この「全部人間」がポイントなんだけど、まぁ広めたのはマスコミとしても、当事者として係わってるのはそれぞれ、超能力は超能力者・UFOは目撃者・幽霊は霊能者、だろ?
徹:
まぁ…そうだな。
直:
この中で、『自分がそのものだ』と主張してるのは超能力者だけだ。UFOの目撃者は宇宙人じゃないし、霊能者も幽霊じゃない。
徹:
うん…、だから?
直:
超能力だけは、再現性がある筈だし、科学的調査も、本人の協力があれば何時でも出来る筈だ。でも他は『本人』じゃないから無理だ。だから『もしも』本物が居るとしたら、最も証明し易いのは超能力だと思う。違うか?
鉄:
そう…だな。
徹:
確かにそうだ。でも、直が何を言いたいのかが分からねぇ…
直:
俺もだ。
徹:
はぁ?
直:
冗談だよ。こんなクイズ出す必要はなかったんだけど、みんな無言だったから遊んでみた。でも折角だからまとめると…
超能力は本人が主張している場合が殆どだ。だからそいつを調べればいい訳で、逃げ隠れする様なら偽者と判断すりゃ良いから、真否の議論に意味は無い。
UFOは雨が降るのを待つのと同じ。俺は宇宙人は絶対居ると思ってるけど、そいつらが乗り物で地球に来てるとは思わない。もしも来ていたり、これから来る事があるのなら、UFOには実体があるんだから、そのうち見つかる筈。だから議論しても仕方ないし、するならオカルト扱いでなく、科学として恒星間飛行が可能かどうかを論じるべきだ。
で最後が幽霊だけど、コイツに実は困ってる…
徹:
それだけ一気に行って、幽霊でストップか。
で何に困ってるって?
直:
それを言い出す為に、これだけ遠回りしちまった。
困ってるのは実体が分からねぇ事だ。
徹:
実体?実態じゃなくて?
直:
実体の方。勿論実態も分からねぇけど、先ずは実体の方。
さっきも言ったけど、今現在、霊の存在を主張している中心は霊能者だ。ところが、悪い事に霊能者にも流行り廃りがある。おまけに霊能者毎に言ってる事が微妙に違う。いや良く聞くと結構違う。だから、結局どの話が本筋なのかも分からない。という訳で霊の実体が掴めないんだよね…俺には。
鉄:
確かにバラバラな事言ってる気もするなぁ…
直:
更に年々、言う内容まで変わってきてる。
鉄:
そうか?
直:
ホントだよ。例えばだ、昔は確かに『背後霊』って言葉があったろ?
鉄:
あった…。ってか今でもあるだろ?
直:
でも大半の霊能者の口からは出て来ないよ。
徹:
確かに聞かない気がするな。
直:
だろ。
昔見たんだけど、俺の従兄弟が持ってた古い本には、確かにこう書いてあった。
『人には守護霊と背後霊がついている。守護霊は一人に一人だが、背後霊は多い人の場合は10人以上にもなる。守護霊はその人の人生を導く為にあり、背後霊は言わば応援団の様なものである。背後霊の中に野球選手が居たら、その人は野球が上手になったりする。つまり、守護霊は人生を導き、背後霊は才能や個性に影響する』って、まぁこんな感じで。ガキだった俺は、へ〜、なんて思ったのを覚えてるけど、今じゃ『背後霊』なんて言葉は絶滅危惧種入りしてる。
咲:
そう言えば聞かないね。聞いてもお笑いのネタだったり…。
鉄:
てか、背後霊がそういう存在だったって始めて聞いたよ。
直:
ガキの頃、既に古い本だったから、30年かそれ以上前かも知れないけど、その程度の年月で霊の在り方なんて変わるのか?
徹:
それじゃ、困るよな…
直:
だろ?
だから霊がどんな物かって、その実体は把握出来ないと思うよ、俺は。
徹:
じゃぁ…
直:
俺としては、霊の話をするなら、霊の在り方を定義して欲しい訳。と言うより、定義しないと議論が成立しないじゃん。
徹:
そういう事か…。でも…どうしよ。
直:
さっき言った通り、霊能者の弁はコロコロ変わるから、どいつの言う事聞いたら良いのか、本当はどう考えるべきかも分からない。これじゃ指針が無くてやっぱり議論なんか無理だ。
だから、『今ここだけ』で良いから、霊とは何かを定義して欲しい訳よ。
徹:
なるほど。ローカルルールって事か。
直:
そ。
いやぁホントに遠回りしちまった、ははは。
徹:
それなら、俺達三人は一応肯定派な訳だから、霊の在り方についてお前の質問に答えるよ。それを一応の実体として決めるって事でどうだ?
直:
それをこの討論会に於ける霊の実体で且つ、実態とするって事で良いんだな?
徹:
そういう事にしよう。確かに基準になる物は必要だし。
直:
でも徹、お前の仏教知識は要らないからね。ここでは宗教的な思想は必要ないから、一般論としての霊の『像』を頼む。
徹:
分かった。みんなもそれで良いな?
鉄:
おぅ。でも俺、よく分かんねぇぞ?
咲:
私も…。
徹:
良いんだよ。結局誰かから聞いた知識しかないんだから、その中で自分で正しいと思うことを言えばいい。意見が割れたらその時は相談って事で。
咲:
うん…。
直:
OK、じゃぁ聞くぞ。
先ずは人と魂の関係を教えてくれ。
徹:
魂は人に宿っている…の他に言い方無いな。
直:
一人に一つか?
徹:
そりゃそうだ。
直:
二重人格の場合は?
鉄:
そりゃ、話が別だろ。
直:
分かってる、冗談だよ。
で、その人が死んだら魂はどうなる?
咲:
体を抜け出して、天国に行く。
直:
天国って?
徹:
分からない。でも所謂、霊界だな。
直:
霊界って何処にあるの?なんて質問はしないけど、その霊界ってのは、俗に言う『あの世』と同じ意味で良いのか?
徹:
あぁ、それでいい。
直:
あの世に行った魂は、そこで何してんだ?
咲:
ボ〜っと?な訳ないね。
鉄:
修行…生れ変わる為に。
徹:
俺が聞いてるのはこうだ。
魂は霊界に上がると、来世に向けて歩き出す。精神修行したり、まぁ色々と。実はここがいきなりハッキリしないんだけど。で、ある程度ステージの進んだ霊は、現世に生れ出る赤ん坊の守護霊になる。その赤ん坊が死ぬまで付き添い、その子が死ぬと再び霊界に戻る。その後、ここもハッキリしないんだけど、自分自身が生まれ変わってこの世に再び生れてくる。ただ、あの世の時間軸はこの世と進み方が違うから、数百年を過ごしても決して長くはないらしい。
大体こんな感じだ。
直:
ま、俺が聞いてるのもそんな感じだよ。あの世はただ歩いているだけとか、現世と同じ生活してるとか、そんなのも聞いた事あるけどね。
で、二人も徹の説明で文句ないのか?
咲:
ないよ。要するに死んだらあの世へ、で、そのうち生まれ変わって再びこの世へって事でしょ。
鉄:
俺も文句なし。途中がハッキリしないのはみんな同じだろ。
直:
うん。途中はそんなに重要じゃないし。でも今の話で質問を少し。
守護霊ってのは一人に一人で良いのか?掛け持ちとか無し?守護霊の居ない人も無し?
徹:
一人に一人。掛け持ち無し。守護霊の居ない人も無しだ。実は違う話も聞いた事あるけど、俺は今言った通りで良いと思う。
直:
二人も異論はない見たいね。じゃぁ次。
生まれ変わるまでの期間は数百年で良いのか?
咲:
すぐ生まれ変わる事もあるって聞いた。
徹:
俺もだ。さっきの説明は一般論で、例外もある。誰かの守護霊なんかやらずに生まれ変わる事があるんだそうだ。だから、数日から数百年の間に生まれ変わる…かな。自分でも言ってて無理がある気はしてるけど…
直:
うん。それじゃ次に進もう。
それなら、幽霊ってのはどんなもんだ?魂とはどう違う?
鉄:
死んだ後、あの世に行かず、この世に留まった魂が幽霊だろ?
徹:
だな。この世に強い未練を持った魂は、素直にあの世に行こうとしない。その結果、霊界に行けなくなってしまって、この世を彷徨っているのが幽霊だ。
直:
所謂、成仏出来ない霊って事ね。
徹:
成仏は仏教用語だよ。敢えて使わないの、大変なんだぞ。
直:
そりゃ済まん。でも一般的になってる言葉は使って良いって。俺が言ってるのは宗教思想とか、そのまんま経典使われても困るって話だから。
徹:
あぁ、分かってはいるんだけどね。
直:
うん。話戻すけど、未練ってのは強い怨みとかも入る訳ね。
徹:
勿論。それに、あまりに突然死ぬと、自分が死んだ事が理解出来ない事もあるらしいから、そんなのも幽霊が誕生する一因かもしれない。
直:
なるほど。ま、大体俺の聞いている通りだよ。
そういう意味で、認識は意外と一致してるかもね。
もう一点、これって俺的には非常に重要なんだけど、生まれ変わり、つまり輪廻転生は、さっきも話に出てたな。これって、人間から人間だけなのか?前世が犬とか、来世がネコとかあるの?
咲:
ないんじゃない?
鉄:
でも大真面目に『あなたの前世は犬でした』って言ってた霊能者、テレビで見たぞ。
徹:
俺も色々聞いてるけどハッキリしないな。犬とかネコとか、ある気もするけど…。
直:
ほう…。割れたな。
直はそう言って再びタバコに火を点ける。




