前編。
全3回の予定です。私の趣味全開です。
「はあ……。」
私は教室の窓から見える青々と繁った木を見ながらため息をつく。もう9月も半ば。季節的には秋であろうが相変わらず夏の名残を残したままの気温が私を襲っていた。
しかし、私のため息の原因はこれだけではない。いや、正確に言うのなら暑さなど大した理由ではない。
「蓮香ちゃんー。はーすーかーちゃーーーん!ねえねえ蓮香ちゃんってばー!!」
「うん、時雨ちょっとうるさい。」
「えっ…。」
後ろで繰り広げられている会話が暑苦しくて仕方がない。
私、岡野有希は今年で16歳の高校二年生になる。去年女子校に進学し、その前も異性とお付き合いなどしたことがない私は現在ももちろんフリー、ついでに言うならばえっちいこともしたことがないピュアガールである。
自分でピュアガールだなんて痛々しいのは重々承知しているので突っ込まないで頂きたい。
良くも悪くも大した特徴の無い私は大した事件も無く無事高校を卒業すると思っていたのだがその考えはどうやら甘かったらしい。
なぜなら…
「うわ…ちょ…時雨やめろ、変なところ触るなっ…!!」
「蓮香ちゃんって案外胸あるよねー。うーん、Cはあるかな…?」
そう言って時雨は蓮香の胸を揉んでいる。
時雨が楽しそうな笑顔をしている。これがスポーツなどで見せる笑顔ならどれだけいいことだろうか。
「時雨やめろ…っ!てか有希も見てないで助けてくれ!」
「あ…うん…。」
「なんだよその微妙な返事…」
「だってさ…」
「有希はどうして蓮香ちゃんとそんなに仲よさげにお話してるのかな?蓮香ちゃんは私のものなんだよ?ねえねえ。あ、そっか。最近蓮香ちゃんが構ってくれないのは有希とお話してるからか。そっか。へえ…そうなんだ。」
真顔でそんなことを言いながら時雨はカッターを取り出す。そして満面の笑みでカッターの刃を出そうとしたところで蓮香にカッターを取り上げられた。
「あっ、蓮香ちゃん何してるのーっ!」
「カッターなんて危ないもの学校で出すな。」
「えーっ!なんでー!」
「危ないだろうが。」
「あっ、蓮香ちゃんは私のこと心配してくれてるのか!大丈夫だよ先生に見つかったり怪我したりなんてしない…」
「はいはい。」
そう言いながら蓮香は時雨の頭をなでる。こうして今日も私は時雨に殺されずに済んだようだ。めでたしめでたし。
水野蓮香と立花時雨は高校1年のころにできた友人である。
単純に席が近かったという理由で蓮香に声をかけた結果、中学時代からの友人であり恋人だという時雨に半年間命を狙われ続けた。
毎日のようにカッターを突きつけられ時には電話番号を教えていないのに無言電話をかけられ続け、ノイローゼにでもなるのではないかというところでどうやら蓮香と時雨の間に危害を加えるわけではないという事に気がついてもらえたらしい。
今では3人でよく話をしたり遊んだりという友人…のはず。
「蓮香ちゃん蓮香ちゃん!帰り本屋さん行こうよ!今日、蓮香ちゃんの好きな作家さんの小説発売日だよ!!」
「あー…でもあそこの本屋売ってるかな?」
「予約済みだよ?店舗行けば渡してもらえるって!!」
「お、まじか。ありがとな。」
「蓮香ちゃんのためならこの位お安いご用だよー!!」
2人はまたデレデレしていた。普段あまり表情の変化がない蓮香が笑顔で時雨の頭をなでていた。小説を買えるのが相当嬉しいのだろう。
それに対する時雨も嬉しそうに「もっと撫でてー!」などと言っている。デレデレ。凄まじくデレデレ。
「あ、ねえねえ!有希も一緒に本屋さん行こうよ!」
「え?私も!?」
「うん!あのね、本屋さんの隣においしいケーキ屋さんがあるんだけどそこの割引券持ってるの!だから一緒に行こうよ!!」
「え…いいの?」
「時雨が良いって言ってるんだから有希も一緒に行こう?」
「…うん!」
まさか時雨が蓮香のいるときに私を誘ってくるとは思わなかった。よく遊ぶと言っても3人そろってと言うことはなかなか無いのだ。単純な驚きと喜びでにやにやしてしまう。
前までは蓮香に近寄っただけでカッターを向けられていたのに今では一緒に遊ぶことまでするようになった。少しは仲良くなれたのかな、なんて期待をしてみる。
「あ、でも有希は蓮香ちゃんの隣歩いちゃ駄目だからね?蓮香ちゃんの隣は私のものだもーん!」
満面の笑み。やはり時雨は時雨だった。
♦♦♦次の日♦♦♦
朝のHRが終わり各々授業準備を始める中、蓮香が私に声をかけてきた。珍しく時雨の姿がない。
「有希、今日の放課後少し時間あるか?」
「…?あるけど…。」
「じゃあ放課後に体育館裏まで来てくれないか?少し話したいことがあるんだ。」
まさか時雨と蓮香の間に邪魔だからという理由で殺されたりでもするのだろうか…。背筋に嫌な汗が滲むのがわかる。
「いい…けど…」
「あ、くれぐれも時雨には見つからないようにな!わかってるだろうけど!」
「あ…うん。」
「時雨は私が撒いておくから!じゃあ放課後に!」
そう言って何事も無かったように、しかし相当焦って蓮香は自分の席に戻った。それとほぼ同時に時雨が蓮香に話しかける。聞こえてくる会話から察するに、時雨は先生に呼び出されていたらしい。まあ毎日のように学校でカッターを生徒に向けていれば呼び出されもするだろう。
あともう少し蓮香が私との会話を止めるのが遅かったら、また私は時雨に「なんでそんなに蓮香ちゃんと仲良くお話して…」などと言われてカッターを突きつけられていたであろう。
蓮香には感謝である。
しかし話とは何だろうか。そんなことを考えながら私は授業準備へととりかかった。
◆◆◆放課後◆◆◆
放課後、私は蓮香に呼び出された通り体育館裏へ向かった。もしかしたら消されるのでは?などという物騒な想像もしていたが、普通に何かお願い事でもあるのかも知れない、と自分に言い聞かせ足を進める。
体育倉庫の角を曲がると既に蓮香は指定の場所に座って待っていた。どうやら時雨は撒けたらしい。
「おっ、来たか!」
蓮香はすっと立ち上がりこちらに向かってくる。蓮香の長くて美しい黒髪が夕陽に照らされて鮮やかに光る。その髪は学年の女子からも羨ましがられる程だ。私は思わず息を呑む。
「うん、それで…話って?」
「ああ…えっと…。」
蓮香は肩を震わせながら俯いている。そして勢いよく顔を上げると
「しっ…時雨の誕生日会をしてやりたいんだっ!!」
と言った。顔が真っ赤である。耳まで真っ赤だ。今なら蓮香の顔面でお湯が沸かせるのではないだろうか。
しかし蓮香の目は真面目だった。相変わらず耳まで真っ赤だが。冗談言ってる場合では無さそうだ。
「え…いいんじゃない?」
「そっ…そうかな!?私なんかがいきなり祝ったりして気持ち悪がられたりしないだろうか…。」
「時雨のことだから喜ぶと思うよ?」
「そう…かな?」
「うん!絶対喜ぶって!私も協力するからさ!」
「本当か!?ありがとう!!」
嬉しそうな笑顔の蓮香を見て、思わずこちらも笑ってしまう。普段はクールで表情もあまり変わらない蓮香だがこうみえて他人を思いやれるような良い子なのだ。実際、友人全員の誕生日覚えていて祝っていたり、年賀状クラス全員に送ったり(しかも全て手書き)している。むしろこうやって時雨の誕生日会をしたいと提案する方が驚きだ。元からする予定があるのだと思いこんでいた。
そして先程から疑問だったことを聞いてみる。
「それで…時雨の誕生日っていつ?」
空気が凍りつく。さっきまで真っ赤だった蓮香の顔から血の気が引いていくのが目に見える。
聞いてはいけないことだったのだろうか?いやしかし誕生日がわからないことには祝えないし、蓮香が時雨の誕生日を知らなとも思えない。
そんなこと考えていると、蓮香は慌てたように話し始める。
「あっ…いや…その…今日はもう遅いし、また後で連絡するから!じゃあな!!」
そう言って走り去ってしまった。現在午後5時30分。遅くはない。
まあ何か都合があるのだろう。そう思って私も帰宅することにした。
百合ヤンデレ書いてて楽しいです。
時雨のヤンデレは今後パワーアップする予定です、ヤンデレかわいいもん。