風の声 "異変2"
目の前、1メートルほど先に張られた結界は、見たところ森をぐるっと囲っているらしかった。侵入者の検知と防壁の複合のようだ。
「シンプルですが、技術力は高い。中等ぐらいのものですね。とても良いものだ」
すると、カイムはおもむろに前進する。
「カイムさん!?」
「大丈夫、こう見えてもヴェルムですから」
杖で触れると、バチバチと音を立てながら見えない膜が切り開かれた。
「あまり長くやるのもよくないので、早めに入ってください」
言われてエマエルとアンジェラは素早く中に入った。途端、膝が落ちる。
「何……!?」
重力魔法? いや、周りには影響はない。侵入者だけに? そんな高等魔法を罠に!?
「落ち着いて」
ハッとして後ろを見ると、平然とした顔でカイムとエマエルが立っていた。
「どうして……!?」
カイムが杖をアンジェラにかざすと、ふっと楽になった。
「気付け魔法……そうか、ここは精霊の領域なんですね!」
「どうやらそのようです。エマエルさんが平気なのが証拠ですね」
「私が?」
エマエルが不思議そうな顔をする。
「精霊が定めた領域に無許可で立ち入ると、精霊の気に当てられて身体が動かなくなるんですよ。ちょっとした威嚇ですね。エマエルさんにはどうやら精霊の加護があるらしいので大丈夫みたいですが、アンジェラのように油断して入るとああなるんですよ」
「お恥ずかしいところを……」と謝るアンジェラをなだめながら、一行は奥へと歩く。
「! 止まって」
カイムが小声で制止し、しゃがみながら先を見る。
「驚きましたね。いや、行く手間が省けたか」
そこには、巨大な石碑が安置されており、周りは木々が遠慮するかのように綺麗に開けていた。その石碑を囲う数人の村人は、あの村長と役員たちだった。