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二人のロマの物語

作者: 蒼汰

 何一つ持たずに彼女は立っていた。彼女にとって大切なものはその日生きる為に必要な一切れのパンだけで、彼女は道端に咲いた小さな花の美しさだけを知っていた。


 彼女の名前はジョゼといい、貧しい花売りの少女だった。




 これは『ジョゼの話』。




 ジョゼは大きな街の暗い裏通りにある、小さな貧しい家の娘だった。父は酒飲みで、よく酒を飲んでは家族に暴力を振るい、母はその悲しみを子供にぶつけることで何とか生きていた。


 ジョゼはまだ幼い弟たちを庇いながら、毎日朝早くから野原まで花を摘みに行き、小さな花束をこしらえてはそれを街で売って僅かな小銭を稼いだ。母は夜毎街角に立って男を誘っては体を売って、父は母が体を売ったその金で女を買った。


 ジョゼはそんな両親を見てももう何も思うことがなく、何かを期待することもやめてしまった。悲しいとも思わず、疎ましいとも思わない。


 ジョゼにとって家族と呼べるのは、父親の違う年の離れた弟たちだけだった。ジョゼは自分の分のパンを弟たちに分け与え、どうしようもなく飢えを感じた時は水を飲んでそれを凌いだ。


 ジョゼは三人いるその弟たちの中でも、特に末の弟に愛情をかけていた。ジョゼの髪は艶のない縮れた赤毛で、くすんだ肌には茶色くソバカスが浮いた平凡な容姿だった。しかしその末の弟は、ジョゼが欲しかった金色の髪や、誰より愛らしい唇や、マシュマロ色の綺麗な肌を持っていたのだ。


 貧しくて自分用の小さな人形も持つことが出来なかったジョゼは、末の弟を自分の分身のように大切にした。毎朝仕事に行く前に弟の艶やかな金髪を歯の折れた櫛で丁寧に梳いてやり、肉屋から小さな脂身の欠片をもらっては、寒い日でもひび割れないようにとその唇に油を塗ってやった。


 しかし生まれた時から病弱だった弟は、歳を経る度にベッドから起き上がることも出来なくなっていった。ジョゼは弟に薬を買ってやることも医者に連れて行ってやることも出来ず、満足に食べさせてやることすらも出来なかった。


 結局、弟はジョゼが十三になる前の年に、やせ細った身体で眠るように死んでいった。しかし、ジョゼにその悲しみに浸る時間が与えられることはなかった。悲しみに浸るその間にも腹は減り、その飢えを満たす為にはまた朝から晩まで働かねばならなかったのだ。悲しみに浸れば浸るだけ、明日生きることが難しくなるのだ。


 ジョゼはそれからも、いつも通り花を摘んできてはそれを街で売った。末の弟のことを忘れ、残った二人の弟と自分の為に働いた。


 その時のジョゼにとって大切なものは、もうその日生きる為の一切れのパンだけで、この先も金貨や銀貨の価値を知ることなどなく、それを知る必要もないのだと知っていた。


 ただ道端に咲いた、売り物にもならない小さな花が、どんなに強く美しいかだけを知っていた。その花の美しさは、ジョゼの寂しさの象徴だった。


 その年の終わり、ジョゼは身勝手な両親によって決められた、自分の母と同じ暗い道を辿るその運命を受け入れねばならなかった。




* * * * * *




 何一つ知らずに彼は歩いていた。彼にとって確かなものなど何一つなく、彼は街で拾った一枚の銀貨の価値だけを信じていた。


 彼の名前はウルリカといい、家を持たない放浪の民の少年だった。




 これは『ウルリカの話』。




 ウルリカは小さな辻馬車の中で生まれ、放浪の民が何世帯か寄り集まったキャラバンの中で育った。母親はどこかの街で見知らぬ男に子種を植えられ、ウルリカを産むとすぐに死んでしまった。だからウルリカは母親の顔も父親の顔も知らない。


 彼らは彼らの純血を守るため、放浪の民以外の者の血が同族に入ることを決して認めない。しかし母親も知らぬ内に子供は腹の中で育ってしまい、それが分かった時には既に手遅れだった。


一族の長の娘だったウルリカの母は、例外的にキャラバンから追い出されることもなく、そこで誰とも知らぬ男の子を産むことを許されたのだ。


 彼らはウルリカを一族の他の子と同じように育てたが、ウルリカに穢れた血が混じっているという事実を消すことは出来なかった。ウルリカは黒髪黒目を持った彼らの中に在って、一人だけ金色の髪と青い目を持っていたのだ。


 自分たち放浪の民のことを、古い言葉で『人間』という意味を持った『ロマ』と呼ぶ彼らは、放浪の民ではない者たちのことを、『家を持つ者』という意味を持った『ガージャ』と呼ぶ。ガージャを毛嫌いするロマたちの中で、ウルリカの存在は際立って異質だった。


 ウルリカの周りの大人たちはウルリカのことを仲間だといい、けれど決してウルリカのことをロマとは認めない。よそ者の血を受けたウルリカは彼らの仲間であって人間ロマではなく、けれど街に住む者たちからは、奴は卑しい『ジプシー』だと指を差された。


 旅を寝床とするロマたちにとって確かなものなど何一つなかったが、ウルリカにとって自分の存在ほど不確かなものはこの世のどこにもないのだった。


 ガージャと呼ばれる街の人々は、自分たちとは違う彼らジプシーたちの存在を決して受け入れない。ジプシーと蔑まれるロマたちは、自分たちとは異なる彼らよそ者ガージャを決して認めない。


 ウルリカはそのどちらにも入れず、ましてジプシーでもなく、それ故に自分がただのちっぽけな人間であるかどうかの確証さえ持てないのだった。


 ウルリカは街の片隅で拾った一枚の銀貨だけを、誰にも言わず大切に持っていた。それが他の誰かに見つかれば、それはたちまちウルリカの物ではなくなってしまう。


 その一枚の銀貨は、ロマでもなくガージャでもなく、人間であるかどうかも分からないウルリカが、決して裏切られることがないと唯一信じられるものだった。


その銀貨は、ウルリカの悲しみの塊だった。しかしその悲しみの塊だけが、ウルリカにほんの少しの安らぎを与えてくれた。


 その一枚の銀貨の価値だけを信じて、ウルリカは他の何かを信じることを止めてしまった。旅の途中に感じる風の中に、自分の中に確かに流れているであろう母の血の存在を探すことを止め、水に映る金色の髪に父親の影を見出すことを止めた。


そしてただ彼らと共に旅をした。




* * * * * *




 彼女は彼と出会い、彼は彼女と出会った。彼女は彼の悲しみを知り、彼は彼女の寂しさを知った。


 彼は彼女に一枚の銀貨を与え、彼女は彼に小さな花の美しさを教えた。




 これは『ジョゼとウルリカの話』。




 ウルリカたちのキャラバンがジョゼの住む街にやって来た時、ウルリカは十五、ジョゼは十四歳だった。


 ジョゼは父親が作った借金を返すために娼館に身を寄せていて、じきにやってくる初めての客を待ちながら雑用をこなす日々を送っていた。力のないジョゼが弟たちを守るためには、両親が自分自身を売り物にすることを拒むことなど出来なかったのだ。


 ジョゼは忙しく働きながら、ジプシーたちが街に入ったことを娼館の娼婦たちのお喋りを聞いて知った。それを知って、ジョゼの心は浮き立った。


 ジプシーたちを泥棒と蔑む街の人はどこにでもいたが、ジョゼは彼らのことが決して嫌いではない。彼らはいつも彼ら独特の踊りと音楽を街に持ち込んで、街はその間少しだけ賑やかになる。それは遊ぶ暇もなく働かなければならなかったジョゼにとって、数少ない楽しみの一つだった。


 ジョゼは忙しい仕事の暇を縫って、彼らが出し物をする広場まで足を運んだ。そこには既に何人もの見物客がいて、思い思いに彼らを観察していた。


 ジプシーたちは音楽を奏で、唄を歌い、ステップを踏んでジョゼたちを楽しませ、その報酬にいくらかの金を観客から集めていた。


 熊使いが熊に玉乗りの芸をさせているのを見ていた時、ジョゼは彼らの中に、彼らとは違う、一人だけ金色の髪を持った少年を見つけた。彼は辻馬車のそばで、街の人々の喧騒に怯える馬を宥めながら、一人だけ何の芸にも参加せずただ遠くを見つめている。


 仲間のジプシーの細々とした手伝いを淡々とこなしながら、彼は辻馬車のそばから離れようとせず、どうやら辻馬車が誰かに盗まれぬように見張り番をさせられているようであった。


 ジョゼは彼のその金色の髪に、ふと忘れたはずの弟の影を思い出した。


 一度弟の影が彼に重なってしまうと、ジョゼの目はもう彼以外追おうとはせず、ジョゼは時間の許す限り、ただひたすらに彼だけを見ていた。


 娼館に帰り、日付が変わった後ようやくベッドに横になれた時も、閉じた目の裏には昼間見た彼の姿だけが鮮明に甦った。


 その日からジョゼは彼の姿をよく追いかけるようになった。時間の許す限り広場に行って彼の姿を探し、娼婦たちの使いで市場に出かける度にそこから見える広場の様子に目を凝らした。


 彼はいつでもどこも見ておらず、遠くに向けられたその目は虚ろだった。その虚ろな目が眠るように死んでいった弟の、最後に見せたその目の色に似ているのを見る度に、ジョゼはどうしようもなく不安になるのだった。


 何故彼の目はいつも何も見ていないのか。まるで自分の周りのものを、一切何も信じていないような。彼の周りには、彼の信じられるものが何もないのだろうか。もしそうならば、彼はどんなに大きな悲しみを抱えているのだろう。


 客を取る日を待ちながら、その客を喜ばす為の知識を学ばねばならないジョゼは、もう昔のように花束を売る暇などなく、それを作る必要もなかった。けれどジョゼは死んだ弟を思いながら、たった一つ、小さな花束を作って弟の墓にそれを供えた。


 しかしそれは、同時にあのジプシーの少年の為の花束でもあった。


 彼の瞳に、少しでも光が宿ればいい。そんな願いを、ジョゼはその小さな花束に込めたのだ。


 幼くして死んでいった愛しい弟の分まで、美しい光の中を彼に生きていて欲しかった。人ではなく物のように簡単に両親に売られ、光の中を歩くことが出来なくなってしまった自分の分まで、明るい風の中を歩いていて欲しかった。




 それからしばらくして、ジョゼは初めて客を取ることになった。




 初めて客を取った夜、ジョゼは泣くことも出来ず、眠ることも出来ぬまま朝を迎えた。


 両親にも、他の誰からも物のように扱われてきたジョゼは、そうしてその夜、これから先自分が人間扱いされることなどないのだと知ったのだ。


 他の娼婦たちが仕事を終えて眠りについた明け方になって、ジョゼは逃げるように娼館から抜け出した。そこから逃げ出せばまだ幼い弟たちは餓えて死ぬのだと知っていて、それでもなお、その時だけはどうしてもそこから逃げ出したいという思いを抑えることが出来なかった。


 ただのちっぽけな人間にもなりきれないジョゼは、何かに怯える動物のように、まだ暗い朝靄の中に眠る街をひたすらに走り、着いた場所はいつもの街の広場だった。




 そこに、あのジプシーの少年がたった一人で立っていた。




 ジョゼは驚いて立ち止まり、そして目の前の少年の顔を見た。初めて間近に見る少年の顔は、美しかった。


 少年は突然現れたジョゼに驚いているようだったが、いつも遠くを見ていた虚ろな瞳はただまっすぐにジョゼだけを映していた。






 ウルリカは、朝靄の中から突然に現れたその少女を知っていた。


 いつも辻馬車の番をしながら、熊使いの熊に餌をやりながら、遠目で自分を見ている一人の少女がいることに、ウルリカは気づいていた。


 少女はひどく平凡な顔をしていて、色の悪い肌にはソバカスが浮いていた。けれどその瞳はひどく澄んでいて、ウルリカは何故かその平凡な少女のことを美しいと思った。


 彼女はいつも忙しそうに街の中を走っていて、赤毛で縮れたその髪には、一度も櫛で梳いたような跡などなかった。けれど彼女は忙しくしながらも、ウルリカが気がついた時にはいつも遠巻きに自分を見つめていた。


 少女の小さな目はいつも悲しげにウルリカを映し、ウルリカはいつしかその瞳に彼女の寂しさを感じるようになった。


 ウルリカは久々の喧騒に気の昂ぶった馬たちを宥め、他の仲間が芸で使う小物の補修をし、腹を空かせた飼い熊に餌をやりながら、次第にただその少女のことだけを考えるようになっていた。


 何故彼女はあんなにも悲しい目で自分を見るのか。何故彼女の瞳に彼女の寂しさを感じてしまうのか。どうして自分は彼女のことがこんなにも気にかかるのか。


 ウルリカは彼女の寂しさを取り除くにはどうすれば良いか分からなかったけれど、それを考える時間は有り余るほど持っていた。


 純血のロマではないウルリカには彼らの芸を受け継ぐ資格などなく、ただ彼らが踊り歌い芸を披露するのを傍観することしか許されない。それはただただ退屈で、どうしようもなく彼らとの違いを見せつけられるだけの時間だった。


 彼らが芸を披露している間、ウルリカは遠くを見ては、これ以上それに気づかされないよう、気を紛らわせていた。


 生き残りたければ働かなければならないロマたちの中にあって、けれどウルリカにはそれすらも許されない。いつも忙しく街を駆けずり回っている彼女は、一日中ただ遠くを見つめ空しく時を過ごすだけのウルリカより、よほど人間らしかった。家を持たないガージャというより、ロマという言葉の方が似合っていた。


 そんな彼女が感じている寂しさは、一体どこから来るのだろうか。彼女には自分にはない何かが確かにあるはずなのに。


 どれだけ考えても、その答えは出なかった。けれどウルリカは、彼女には自分とは違う確かな道を歩いていて欲しかった。自分が信じなくなった、暖かいあの大地の上の優しさを知って欲しかった。


 ウルリカは皆が寝静まった夜、月明かりの指す辻馬車の中で一人考えていた。けれど考えれば考えるだけ分からなくなって、ウルリカは窓から差し込む仄かな月明かりに、ポケットから取り出した銀貨をかざし見ていた。そうすることで何か答えが見つかると思っていた訳ではない。けれどそうする以外、他にどうすれば良いのか分からなかったのだ。


 しかしウルリカは、大切に持った一枚の銀貨に映る自分の影を見つけた時、その答えを見つけ出したような気がした。それをどうしても確かめたくて、朝早く、誰もいない広場まで、そこにある小さな水場を目指してウルリカはやってきたのだ。


 小さな噴水を覗きこみ、そこに映る自分の瞳の色を見て、ウルリカは何故自分がそれ程までに彼女のことを思うのかを知った。


 ウルリカが覗き込んだその水面には、彼女の寂しさを湛えたその瞳の色と、同じ色の自分の瞳が映っていたのだ。




 ウルリカは靄の中から突然現れた少女に驚いたが、その瞳の色を見て確信した。彼女と自分は同じなのだと。


 ジョゼは始めて彼の瞳を間近に見て、その奥にある悲しみと同じものが自分の中にもあるのだと気づいてしまった。そしてジョゼも知ったのだ。彼と自分は同じなのだと。




 ジョゼはウルリカをただ見つめ、ウルリカはただジョゼを見つめた。


 それは、音のない時間だった。




 ジョゼとウルリカを隔てるものなど何もない。生きてきた時間も、生きてきた世界も、育った場所も、そこにいる人々も、ただ見つめあうだけのジョゼとウルリカには何の関係もない世界で時を紡いでいるのだ。




 見つめ合ったまま、一瞬で永遠な時間が過ぎていった。




 その時間が過ぎた後、そこに立っていたのはジョゼでもウルリカでもなく、一人の少女と一人の少年だけだった。


 少女は金色の髪を持った少年に言った。




 ――私、あなたのことを知っているわ。




 少年はくすんだ肌の平凡な少女に言った。




 ――俺は、あんたのことを知っている。




 少女も少年も何も話さなかったけれど、お互い相手が何を考えて、自分の何を知っているのか、もう分かっていた。


 少女は一つだけ、彼に聞いてみたいことがあった。




 ――あなたの大切なものは何?




 少女にとってそれは、愛しい弟とその日生きる為に必要な一切れのパンだけだった。


 少年はポケットの中から何かを取り出すと、少女の手をとってそれを手のひらに握らせた。それは、少年が何より大切に思っていた、一枚の銀貨だった。


 少年は一つだけ、彼女に教えて欲しいことがあった。




 ――あんたが信じているものは何だ?




 少年にとってそれは、一枚の銀貨が与えてくれる、ささやかな安らぎだけだった。


 少女は少し辺りを見回すと、道端に咲いた売り物にもならない小さな花を摘み取って、少年の手にそっと握らせた。それは少女が何より美しいと信じていたものだった。




 少女は自分の手の中にある銀貨の温もりを握り締めながら、ようやく自分も人間なのだと感じることが出来た。彼がくれたその銀貨の温もりと優しさが、自分のことを人間だと認めてくれた気がしたのだ。


 少年は自分の手の中で咲く小さな花の美しさを感じながら、自分が人間ロマなのだということを信じることが出来た。彼女のように凛として咲くその花の強さと美しさが、自分という存在も道端に咲いた花と同じように、必死に生きる人間ロマなのだと教えてくれた気がしたのだ。




 少女も少年もそれ以上は何も話すことが見つからず、また互いに背を向けて、歩き出した。




* * * * * *




 彼女は彼と別れ、彼は彼女と別れた。彼女は彼の名前を知らず、そうしてもう二度と会うこともないのだと知っていた。


 無くすものなど、彼女にはなかった。彼女は花束の作り方を忘れ、一枚の銀貨を手に入れた。


 一枚の銀貨だけ持って、また彼女は街に立っていた。彼女にとって大切なものは一枚の銀貨が与えてくれる安らぎだけで、彼女は彼に貰ったその銀貨の温もりだけを憶えていた。


 彼女は一人のちっぽけな人間で、貧しい花売りをしていた少女だった。




 彼は彼女と別れ、彼女は彼と別れた。彼は彼女の名前を知らず、そうしてもう二度と会うこともないのだと知っていた。


 失うものなど、彼にはなかった。けれど彼は一枚の銀貨を無くし、小さな花の美しさを知った。


 何一つ持たずに、彼はまた風の中を歩き出した。彼にとって確かなものは道端に咲く小さな花の美しさだけで、彼は彼女に貰った花の匂いだけを憶えていた。


 彼は一人のちっぽけなロマで、家を持たない放浪の民の少年だった。








 これが、『二人のロマの物語』。






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[良い点] 哀しみを抱えた少年と少女の出会いと別れ。ほんの僅かなものだけれど、二人にとってかけがいのない出会い。過酷な世界の中で訪れたささやかな幸せを、上手に描かれていると思いました。 [気になる点]…
2012/06/20 13:18 退会済み
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