プロローグ
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今よりも遥か昔―――人々を見守るだけの存在である神が、眩い魂の持主である人間を友とした。しかし、神は友人として過ごすうちにその魂に惹かれ、やがてその人間を愛するようになった。
その人間は、自らが持つ魔力と魂の輝きをもって四精霊王を従え、魔法を主体とする一つの国を創り、魔法王国の王となった。
神の隠し持った切なる想いは届く事は無く、人間は伴侶を迎え幸せに過ごした。そして、神はその人間の系譜を友人として見守り続ける。
その系譜に新しい生命が誕生する度に、神は精霊王達にその魂の輝きが損なわれる事が無いよう、祝福を与える事を願った。
神の想いが続く限り、幾年月も――――……。
***
今にも命の火が消えそうな王子が、この世に誕生した。
泣く力も無い程に弱り切った赤子。このままでは、数刻ともたないだろう。
彼を産み落とした母親は泣き崩れ、父親である王は「神よ、この小さな命を助けてくれ」と涙ながらに祭壇前で膝を折り、頭を垂れる。
神に頼まれ、祝福を贈る役目を仰せつかった元人間の精霊王は、弱々しい赤子と彼を取り巻く者達の嘆きに同情し、過分すぎるほどの祝福を授けた。
「泣く力も無い赤子よ。お前には燃えたぎる炎の生命力と、熱き炎に鍛えられた刃の如く強靭な身体を贈ろう。―――私が見守る限り、火の加護は降りかかる災いを焼き払い、お前を守り援ける」
時は流れ、過分すぎる火の加護を受けた赤子は、屈強な青年になった。
戦では先陣を切り、強靭な肉体と火の加護で武功を上げ続けた。加護を与えた精霊王は、その成長ぶりを喜ばしく思い見守り続けた。
―――いつしか青年は、叶わない恋心を抱き、野心を持ち始めた。
恋心を抱いた相手は、神の愛をその身に受けた証を持った王太子である兄の婚約者。義姉になる女性である。
青年の思慕は募り、王太子を廃して彼の女を自分の妻にと望んだ。
微小な野心は年月を得るごとに大きくなり、ある時青年は、王である親を弑逆し兄から一位継承権を奪うと、神を祀る神殿へと押し入れた。
身の危険を感じた元王太子の婚約者は、王となった青年から逃げる為に、彼を追いかけて神殿へと身を寄せた。
やがて彼女は、神の御魂を降ろす寄坐となり神殿巫女―――『神の代理』と呼ばれる事となった。
王となった青年は、巫女となり神殿籍に入った彼女を諦め、その姉を正妃に迎えた。
季節が一周する頃、王と王妃の元へ新たな生命が誕生した。
今まで青年を見守り続けた精霊王は、自らの欲望の為に王位を簒奪した彼の愚行に怒り、生まれたばかりの何の罪も無い赤子に呪いを贈った。
「お前の父は粗野で野心を持ちすぎた。お前から魔法と精霊を奪う代わりに、平民の様な人生を送れるように【凡庸な運命】を贈ろう。―――父に贈った火の加護は、お前に受け継がれる事無く、今日を以て消え去るだろう」
”魔法と精霊を操る事が誉れ” のこの国で、その二つを取り上げる発言を聞いた王は怒り狂い、自らと子供に加護を与えた精霊王を呪った。短慮な王は神と精霊王を呪う為に、新たに【魔】を崇拝する神殿を建立した。
そしてその翌年、神を呪った罰とも言える出来事が起きた。
王の弟である筆頭公爵に、王の兄と同じ神に愛された証を持つ子供が生まれたのだ。
「榛の瞳……」
榛色の瞳は、神の瞳と同じ色である。故に神に愛された証と言われている。王が幼い頃に欲してやまなかった物だ。
神からも「お前は王の器非ず」と否定された気がした。神は自分を見捨てないと、心の奥底では信じていただけにその衝撃は凄まじかった。
この事が引き金となり、王の精神は徐々に病んでいった。
「魔法は悪だ、武力こそ正義」自らに言い聞かせるかのように、隣接する国々へと憂さを晴らすかの如く、戦を仕掛け攻め入った。
歳を得るごとに王の瞳は狂気に染まり、手を血で汚すのを喜びとするようになった。
いつしか魔法王国と呼ばれていた国は、武力で独裁政権を握る武力帝国へと名を変えた。
王から初代皇帝へと名を変えた男は、数年ののち更に精霊と神を呪う事となった。
男の兄が居る神殿で、神の色彩である虹を纏い榛色の瞳を持つ女児が生まれたのだ。
空、大地、海、全ての精霊達が赤子に祝福を送りたがり、神殿へ群がった。数多の精霊達のまとう光で神殿は輝き、女児から溢れ出る虹の神気と混じり合い、その女児の神々しさに男は恐怖した。
同時に、女児の両親を知り愕然とした。
―――男の兄とその元婚約者の女だったのだ。
男の犯してきた罪を知らしめるような、男に対する神の怒りの程を現したかのような色彩を纏っている女児。
自分には与えられなかった色を合わせ持つ女児。男は無垢な赤子に嫉妬し短気を起こした。
―――男は女児を殺そうと、さっと剣の柄に手を掛けた。
だが、神からの報復を恐れて柄から手を引いた。爪を噛み憎しみと絶望を秘めた双眸で女児を見据えながら、女児を守ろうとする女を前に、男は考えた……。
男は女児を取り上げ、自分の監視下で隠す事を決めた。
この女児を使い、自分を蔑にした神と精霊に復讐する為に―――。
名案だとばかりに薄気味悪い笑みを浮かべながら、女の腕から女児を取り上げようとした。だが、彼女は泣いて懇願した。
「……せめて、この子の名前を付けさせて! 」
かつて好きだった女の願いに心を動かされた男は、首を縦に振りその願いを許した。
そして、母となった女から重い運命を背負った女児へ、最初で最後の贈り物となる名を贈られた。
『虹を纏う者―――アイリス』と。
後書きにまで目を通していただき、誠にありとうございます!
でき上がったプロローグの重々しさにビックリ! Σ(@@;)
次回から、明るめの話になります。生温かい目で見守っていただけると嬉しいです(´∀`)




