鏡の迷路
ヴァレリアン王国は、かつて豊かだった。
野に花が咲き乱れ、川は命の光をたたえ、城の塔は雲の間から光の槍のように立ち昇っていた。
だが──
すべては、王アルデン四世が病に倒れた日を境に、変わってしまった。
太陽に焼けたはずの肌は、大理石のように白くなり、
王国中の医師、薬師、神殿の癒し手たちが
月の茶、竜の涙、黎明の祈りなど、あらゆる手段を尽くしたが、
奇跡は起こらなかった。
王は幾夜も意識を失い、呼吸は次第に細く弱くなっていった。
ある日──
王の老友であり、宮廷魔術師でもあるアルサーが、重い面持ちで王の枕元に現れた。
その声は年月にかすれながらも、王の寝室にしっかりと響いた。
「陛下……最後の望みがございます。」
「申せ……」
王はかすれた声で応える。
「“鏡の迷宮”と呼ばれる場所がございます。
その奥には、どんな病をも癒す“水”が湧き出ているのです。
ですが、そこから正気で戻った者はおりません。
迷宮は人の心を映す──己と向き合い、耐えられる者などほとんどいないのです。」
王は目を閉じ、静かに息をついた。
「……ならば、我が子らに決めさせよう。
この命に、それほどの価値があるかどうか。」
***
翌日──
王城の鐘が鳴り響いた。
玉座の間には、四人の王子と王女が集められた。
長男レオナード。
白銀の鎧と紅のマントを纏い、その目にはすでに王たる自覚が宿っていた。
次男マリウス。
金髪と傲慢な笑みを浮かべ、腰には小さな手鏡を吊るしていた。
彼にとって世界とは、己の写る鏡にすぎなかった。
第三子、王女エリラ。
絹と宝石で身を飾り、働いたことも、謙遜を知ることもない者。
そして末子、カエル。
灰色の麻服をまとい、物静かに立つ。
宮廷の者たちは彼を「無能」と見なしていた。
だが王は、弱りながらも強い意志で言った。
「我が子らよ──
魂と肉体を癒す水は、鏡の迷宮にある。
その水を持ち帰った者には、私の祝福と、王国の名誉が与えられる。」
上の三人は目配せをし、笑みを交わした。
その果実は熟れ落ち、手を伸ばせば届くのだと信じて。
だがカエルは、ただ深く頭を下げただけだった。
彼が望んでいたのは玉座ではなかった。
──父の笑顔、それだけだった。
***
翌朝、四人は旅立った。
レオナードは鉄の甲冑をまとった黒馬に乗り、
マリウスは金の羽飾りを付けた白馬に跨り、
エリラは銀の牝馬に、従者たちを従えていた。
一方カエルは、
小さな袋と木の笛だけを持って、ゆっくりと歩いて現れた。
レオナードは鼻で笑った。
「その手ぶらで、山を越えるつもりか?」
マリウスも嘲笑する。
「物乞いの方がまだマシだな。迷宮に物乞いか、兄弟よ?」
エリラは彼を一瞥し、目を逸らす。
「王の器でもない者に、言葉をかける価値もないわ。」
その夜──
水晶の森での野営中。
三人はひそかに語り合い、カエルの馬を崖に突き落とし、
食料も隠してしまった。
「これで奴が先に行く心配はない」
レオナードは冷たく言い、三人は笑った。
その時、運命はすでに──彼らを見放していた。
夜が明け、
カエルは馬の亡骸と、消えた荷物を前に立ち尽くした。
だが涙は流さず、静かに祈りを捧げた。
そこへ一人の老召使が現れる。
痩せこけた灰色のロバを引きながら。
「若様……この老いたロバは畑仕事もできませんが、心は立派です。
どうか、お供させてやってください。」
カエルはその毛並みを撫で、微笑んだ。
「彼女が望むなら──一緒に行こう。」
ロバは首を垂れた。
まるで、その言葉に応えるように。
こうして──
王位を欲さぬ王子と、名もないロバは、
王国で最も危険な旅へと歩み始めた。
(※この後、物語のすべてを日本語訳でお届けできます。ご希望でしたら続きも翻訳します)
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