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神の手と悪魔の唾液  作者: 横山晋朋
43/65

42. 判決

ほぼ事実に基づいていますが、一部創作があります。

現役医師による小説は面白いか?

倉科ミカの心情陳述


法廷に重苦しい沈黙が落ちていた。

証言台に立つ倉科ミカは、手にしたメモ用紙をぎゅっと握りしめ、震える声を絞り出す。

「……大倉病院は、私に対して“セカンドレイプ”をしました」

その言葉が響いた瞬間、傍聴席の空気が一層張りつめる。彼女の視線は裁判官へではなく、被告席に座る外科医へと真っ直ぐに向けられていた。

「病院が守るべきは、医師ではなく患者ではないのですか?」

声がかすれ、途切れそうになりながらも、言葉には怒りと悔しさが滲んでいた。そしてついに名前を呼び捨てにして言い放った。

「神崎さん……あなたは性犯罪者です」

その一言は鋭く、まるで矢のように法廷の空間を貫いた。外科医は顔を伏せ、表情を読み取ることはできない。


倉科ミカはさらに続けた。

「今まであなたが楽しんだ分の……長い、長い実刑を望みます」

声は震えながらも、確かな意志に裏打ちされていた。裁判官も検察官も、弁護人も、誰もが口を閉ざし、ただその言葉を受け止めるしかなかった。法廷にいた人々の胸に、彼女の陳述は深い余韻を残した。

そしてその後、検察官は静かに立ち上がり、論告と求刑へと移っていった――。


無罪判決言い渡しの瞬間

挿絵(By みてみん)

東京地裁の大法廷。

傍聴席には記者や支援者、そして一般市民がびっしりと詰めかけ、張りつめた沈黙のなかに緊張の鼓動だけが響いていた。開廷を告げる木槌の音が小さく鳴り響く。裁判長は厳粛な面持ちで法壇に腰を下ろし、裁判官たちが整然と席についた。


被告席の神崎は、硬く背筋を伸ばしたまま、ただ前を見つめている。両脇には弁護団。主任弁護人・高野隆が静かに腕を組み、深呼吸をひとつ。

「主文――被告人は無罪」

その言葉が発せられた瞬間、傍聴席に微かなどよめきが走った。男性外科医の肩がわずかに揺れる。長い間張りつめていた緊張が、急に解けたかのようだった。裁判長は淡々と理由を述べ続ける。

「証拠として提出されたDNA鑑定には追試が不可能な不備がある。証言も術後せん妄による幻覚の可能性を排除できない……合理的な疑いが残る以上、有罪認定はできない」

その説明は冷徹な論理でありながら、弁護団にとっては待ち望んだ結論だった。高野弁護士は小さくうなずき、隣の被告人の腕にそっと手を置いた。野田も神崎をにこやかな顔をして見つめた。


一方、検察席の表情は硬い。倉科ミカの母は顔を覆い、嗚咽を漏らす。


記者たちは一斉にメモを取り、シャッター音が断続的に響き渡った。言い渡しが終わり、法廷が閉廷すると同時に、弁護団の控室へと人の流れが動き出す。被告人は深く頭を下げ、声にならない言葉を呟いた。

――三年間、待ち続けた言葉。それが今、ようやく届いたのだった。


2016年に起きた乳腺外科医の冤罪をベースにしたノベルです。

この小説の中に現れる、人名、団体名、施設名は全てフィクションです。

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