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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第六章 僕の彼女
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第九十三話 僕らが灯す、最初の光

第一回の勉強会から一週間。

僕と優愛は、放課後の図書室で、毎日のように顔を突き合わせていた。

僕の何気ない一言から生まれた、「二つの会社の部門を協力させる」というアイデア。

それを、具体的な企画書に落とし込むための、二人だけの作戦会議だ。


「……やっぱり、難しいね」

「ああ。高校生の僕らが考えつくことなんて、きっと、おじいちゃんたちは、とっくに考えてるんだろうな」


壁にぶつかるたびに、弱音を吐きそうになる僕。

でも、そのたびに、優愛が「ううん、そんなことないよ! この視点は、きっと新しいはずだから!」と、僕を励ましてくれた。

彼女が隣にいてくれる。

ただそれだけで、僕は、もう少しだけ頑張れる気がした。


そして、週末。

第二回目の勉強会が、光道本邸の書斎で開かれた。

今日のテーマは、「各社の現状の課題について」。


それぞれの会社が抱える問題点を、おじいちゃんたちが正直に語っていく。

その中で、やはり、光道(ライトウェイ)(優誓)と(シャイン)(真実)の雑貨部門が、非常によく似た課題――過剰在庫と、新規顧客の開拓――に悩んでいることが、浮き彫りになった。


「だから言っているだろう、兄さん。もっとターゲット層を若者に絞るべきだと」

「馬鹿を言え、真実。伝統を軽んじて、目先の流行ばかり追っていては、足元を掬われるぞ」


まただ。

この前の川辺で和解したはずなのに。

二人の間にはまだ、何十年もかけて染み付いた、意地とライバル意識が、確かに残っている。

書斎の空気が、少しだけ、ピリつく。


その、重い空気を破ったのは、僕だった。


「……あの!」

気づけば、僕は立ち上がっていた。全員の視線が、僕に集まる。

心臓が、大きく鳴った。

でも、ここで引くわけにはいかない。


「僕たちに、やらせてもらえませんか」


僕は、優愛と二人で作り上げた、一枚の企画書を、テーブルの中央に、そっと置いた。

『光道グループ雑貨部門・共同プロジェクト第一弾』


「……なんだ、これは」

訝しげな顔で企画書を手に取る、優誓おじいちゃん。

僕は、震える声を必死で抑えながら、続けた。


「僕らが考えた、二つの会社の雑貨部門が協力するための、最初の提案です。来たるクリスマス商戦に向けて、オリジナルのギフトセットを共同開発・販売します。仕入れやマーケティングを一本化すれば、コストを削減でき、過剰在庫のリスクも減らせるはずです。そして、何より……」


僕は、一度、隣に座る優愛の顔を見た。

彼女は、僕を信じるように、強く、頷き返してくれた。


「何より、二つの会社が協力すれば、今までどちらか片方しか知らなかったお客さんたちに、もう片方の会社の魅力も知ってもらえる。新しいお客さんを、ゼロから探すより、ずっと確実だと思います」


僕の、拙いながらも、必死のプレゼンテーション。

それを聞き終えた四兄弟は、誰一人、何も言わずに、腕を組んで企画書を睨みつけていた。


(……やっぱり、ダメだったか)


諦めかけた、その時だった。

「……面白い」

ぽつりと、そう呟いたのは、爽快おじいちゃんだった。


「確かに、高校生の考えたことだ。荒削りな部分も多い。だが……」

彼は、僕と優愛の顔を、順番に見て、言った。

「この『二つの会社のファンを、共有する』という視点は、我々にはなかった。……やる価値は、あるかもしれんな」


その言葉を皮切りに、栄誉おじいちゃんも「そうだとも!」と頷く。

優誓おじいちゃんと、真実おじいちゃんは、まだ難しい顔で黙り込んでいる。

でも、その表情は、もうただの意地の張り合いではなく、真剣に、この企画の実現可能性を、社長として検討している顔だった。


「……分かった」

やがて、優誓おじいちゃんが、重い口を開いた。

「面白い! やってみろ、お前たち! 俺たちを、あっと言わせてみろ!」


その言葉に、僕と優愛は、顔を見合わせて、小さく、でも確かに、ガッツポーズをした。

僕らの、未来への、挑戦。

その、本当に、本当に、最初の授業が、今、始まろうとしていた。


帰り道。

「……今日の溢喜、すごく、かっこよかったよ」

優愛が、心の底から嬉しそうな声で、そう言ってくれた。

その、あまりにもストレートな言葉に、僕は、もう、何も言い返せなかった。

ただ、顔が熱くなるのを感じながら、彼女から、さっと、視線を逸らすことしか。


「……ありがと」


か細い、でも確かに聞こえたその一言に、優愛は、今日一番の、最高の笑顔で、こう言った。

「どういたしまして、私の、最高のパートナー」

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