第九話 優誓おじいちゃん発・はとこサミット 壱
優誓おじいちゃんに優愛のことが好きだとバレてから数日後、今度は僕が優誓おじいちゃんの家に行くことになった。
集合場所は、家から少し離れた優誓おじいちゃんの別荘。
はとこを全員集めて話し合う、ということしか聞いていない。
今度は何をやられるのだろうか。
不安で不安でしょうがない。
それよりも、はとこたちが全員女だったら、僕の人権が消える。
頼むから、一人くらい男がいてくれ...。
金曜日の放課後。
週末の空気が少しだけ緩んでいるはずなのに、僕の心は逆に張りつめていた。
学校から真っ直ぐ歩いて駅に行くと、声を掛けられた。
「あ、溢喜~。おつかれ~」
声のする方を見ると、美褒だ。
これから一緒の電車に乗って、別荘の近くまで行く。
「おつかれ美褒」
「はとこ全員集めるとか、頭おかしいよね~」
「確かに。でも、それぐらい行動力のある人だからさ。何もせず、じっとしてたら、逆にこっちが心配になるけど」
そう。優誓おじいちゃんは本当に何でもやる。
そして、性格は…一番終わっている。
電車に乗ると美褒が言った。
「はとこって、何人くらいいるんだろうね~」
「僕らと美褒のいとこも合わせると、五人以上は確定だよね」
「てか、全員女子ってほんと?」
「うん、たぶん。爽快おじいちゃんのところも、栄誉おじいちゃんのところも、女の子ばっかって聞いたし」
「うわぁ…僕、完全に気まずいやつじゃん」
「まあ、溢喜は女子と気軽に話せるし、なんとかなるでしょ~」
「それが逆にやばいんだって…」
そういえば、優誓おじいちゃんは孫がいないのだろうか?
そう疑問に思ったが、行けば分かると一人で納得した。
電車の窓から見える景色は、少しずつ緑が濃くなっていく。
別荘があるのは、山の中の静かな場所らしい。
“話し合い”って言葉が、じわじわと重くのしかかってくる。
駅に着くと、送迎用のリムジンが待っていた。
僕らはリムジンに乗ると早速、飲み物を出された。
美褒は紅茶だが、僕は...コーヒー。
しかもブラック。
おいおい。
なぜ親戚との話し合いの時まで、優愛のことを引きずるのか、僕には到底理解できない。
やはり、優誓おじいちゃんの性格は酷いということが、改めて分かった。
車が山道を進むにつれて、空気が澄んでいく。
そして、別荘に着いた。
そこには、すでに何人かの女子たちが集まり、玄関に吸い込まれていく。
みんな、どこか似ている。
髪の色や目の形、雰囲気が、どこか“光道家”っぽい。
「うわ…ほんとに女子ばっかだ」
「ね~。でも、みんな可愛いね」
「だから、それが逆に怖いんだって…」
女子って、何考えてるか分からない時あるじゃん。
その“分からなさ”が、誤解を生むのが嫌なんだよ。
でも、嫌いってわけじゃない。
むしろ、ちゃんと話したいと思ってる。
...とは、言えなかった。
リムジンから降り、別荘の玄関まで行った。
玄関の扉はとても大きく、まるで城の門のような大きさだった。
僕は、深く息を吸った。
そして、覚悟を決めて玄関をくぐった。




