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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第六章 僕の彼女
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第八十話 勝負の行方

テストが終わってから数日。

結果が返却される月曜日の朝は、涼風祭の朝とはまた違う、独特の緊張感が教室に漂っていた。


「やっべえ、古典、マジで自信ない……」

「私は英語が……」

クラスメイトたちが、そわそわと落ち着かない様子で、問題用紙を見返したり、友達と答え合わせをしたりしている。


「……どうかな」

僕がぽつりと呟くと、隣の席の優愛が、僕の顔を見てくすりと笑った。

「自信ないの?」

「いや、ないわけじゃないけど……。でも、相手は優愛だからな」


僕の言葉に、彼女は少しだけ得意げに、でも嬉しそうにはにかんだ。

「ふふっ。手加減は、してないからね?」

「望むところだ」


言い合いながらも、僕らの間には、心地よい緊張感と、確かな信頼感が流れていた。

もう、結果がどうであれ、この数日間、二人で本気で頑張れたこと自体が、僕にとっては何よりの宝物だった。


やがて、ホームルームのチャイムが鳴り、担任の先生が、採点済みの答案用紙の束を持って教室に入ってきた。

教室の空気が、一気に張り詰める。


「――青空、海波、黒雷、白雲……」

名前を呼ばれ、僕たち四人は教卓へと向かう。

自分の手元に返ってきた、数学の答案用紙。

その右上に書かれた赤い数字を見るのが、怖かった。


「……どうだった?」

席に戻ると、希望が青い顔で聞いてくる。

「いや、まだ見てない」

「俺はもうダメだ……赤点の匂いがプンプンするぜ……」


希望のことは、今はどうでもいい。

僕は、意を決して、隣に座る優愛と顔を見合わせた。

彼女も、同じように、まだ答案を見れずに固まっている。


「……せーので、見るか?」

「……うん」


僕らは、小さく頷き合うと、同時に、答案用紙をひっくり返した。

僕の目に飛び込んできた数字は――95点。


(……え)


嘘だろ。

僕が、95点? 赤点どころか、今までの人生で、数学で取ったことのないような高得点。

手が、小さく震える。

やった。俺、やったんだ。


高鳴る心臓を抑えながら、僕は恐る恐る、優愛の方を見た。

彼女は、自分の答案と、僕の答案を、信じられないというように、何度も見比べている。

その彼女の答案用紙に見えた数字は――92点。


「……僕の、勝ち、か?」

僕が、まだ信じられないという声でそう言うと、優愛は、ゆっくりと顔を上げた。

そして、最初は悔しそうに、少しだけ唇を尖らせていたけれど、次の瞬間、ぱあっと、花が咲くように笑った。


「……すごいじゃん、溢喜! おめでとう!」

それは、負けた悔しさなんて微塵も感じさせない、僕の勝利を、心の底から祝福してくれる、最高の笑顔だった。


「……まあ、な」

僕は、照れくさくて、それだけ返すのが精一杯だった。


昼休み。

「マジかよ! 溢喜が優愛に勝つなんて!」

希望が、自分の赤点を忘れたかのように、大騒ぎしている。

「すごいね、溢喜! ゆーちゃんも、おしかったね」

美褒が、にこにこしながら言った。


「……というわけで」

僕は、少しだけニヤニヤしながら、目の前でサンドイッチを頬張る優愛に言った。

「約束、だよな?」


僕の言葉に、優愛は、もぐもぐと口を動かすのを止めると、少しだけ拗ねたように、でも、決意に満ちた目で、僕を真っ直ぐに見つめ返した。


「……分かってるよ! 任せなさい! 溢喜が、今まで経験したことのないくらい、最高にエスコートしてあげるんだから! 絶対に、楽しませてみせるからね!」


そう言って、ぷいっとそっぽを向いてしまった彼女の、耳まで真っ赤に染まっている横顔。

その、あまりにも可愛すぎる負けず嫌いに、僕はもう、どうしようもないくらいの愛おしさで、胸がいっぱいになった。

僕が勝ったはずなのに、なんだか、完全に負けてしまったような、そんな幸せな気分だった。

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