第八話 はじめての“光”
次の日、学校に行って、すぐに美褒に聞いた。
「ねえ、僕が優愛のこと気になってるって、誰かに話した?」
美褒は、おっとりした声で答えた。
「え~。誰にも話してないけど~」
実は美褒は、僕のはとこの一人だ。
詳しく言うと、爽快おじいちゃんの孫。
「そうか…」
僕がそう言うと、美褒が何かに気づいたような顔をした。
「はは~ん。もしかして、優愛のことが好きだって誰かにバレた?」
「まあ、優誓おじいちゃんが知ってたんだよ。何せ、『優愛とデートをしてこい』って言うもんで。 美褒もそんなこと言ってたから、美褒から聞いたのかなって思っただけ」
「でも、私は知らないな~」
その言い方は、どう見ても本当に知らなそうだった。
じゃあ、どこで優誓おじいちゃんに伝わったんだ?
ますます謎が深まる。
授業中でも、その謎について考えていた。
光道家の中で一番陽キャと言ってもいい人に、その情報が伝われば、瞬く間に噂されてしまう。
秘密にしてほしいって言ったら、交換条件で光道家を継がされるかもしれないし…。
その時、カタンとペンのようなものが落ちる音がした。
その音を聞いて僕は、ハッとなった。
音の方向を見ると…優愛だ。
どうやら、シャーペンを落としたようだ。
よく見ると、それは僕がプレゼントしたシャーペンだった。
ちゃんと使ってくれていたんだ。
…嬉しい…。
何だこの感情は。
謎のことなんて、もうどうでもよくなった。
そうだ。僕は好きだったんだ。優愛のことが。
それを思い出したら、優愛のことで頭の中がいっぱいになっちゃう。
窓の外では、涼しい風が校庭の木々を揺らしていた。
その風が、優愛の髪をふわりと揺らす。
光が差し込んで、彼女の横顔が一瞬、絵みたいに見えた。
長いまつげが影を落として、唇がほんの少しだけ動いた。
何かを考えてるみたいな、静かな表情。
その顔を見てるだけで、胸がぎゅっとなった。
“光道の修行”って、こういうことなのかもしれない。
人の心を照らすって、きっとこういう瞬間のことなんだ。
でも、今の僕にはまだ眩しすぎる。
優愛の横顔を見ながら、そっと目をそらした。
言葉にするには、ちょっとだけ勇気が足りない。
それでも、心の奥で何かが始まった気がした。
小さくて、静かで、でも確かにあたたかい――そんな気持ち。
そして、もう一度だけ彼女の方を見た。
優愛は、落としたシャーペンを拾って、僕に気づいて、ふわっと笑った。
何度も見たことのある笑顔だ。
だが今の僕にとって、その笑顔は、まるで初めて見たみたいに、反則だった。