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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第六章 僕の彼女
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第七十九話 君と競う、テスト勉強

「約束、だよ」


月曜日の帰りに交わした、新しい約束。

その約束を胸に、僕らは中間テスト期間へと突入した。


「――で、この問題の解き方は、まず……」

放課後の図書室。

夕日が差し込む静かな空間で、僕と優愛は、机を並べて勉強していた。

恋人になったことで、この勉強会は、以前とは少しだけ違う、甘くて、くすぐったい空気に満ちていた。


「……聞いてる、溢喜?」

僕がぼーっと彼女の横顔に見とれていると、優愛がノートの端をシャーペンでこつん、と叩いた。

「もう。ちゃんと集中しないと、テスト終わっても、どこにも行けないよ?」

「……はい」


拗ねたように唇を尖らせるその表情すら、今はたまらなく可愛い。

でも、彼女の言う通りだ。テストを乗り越えなければ、次のお楽しみはない。


「……じゃあさ、競争しないか?」

僕がそう提案すると、優愛は「競争?」と不思議そうに首を傾げた。

「ああ。次の数学のテスト、どっちが高い点を取るか。負けた方が、次の『お出かけ』のプランを全部考えて、相手をエスコートする、ってのはどうだ?」


僕にしては、中々いい提案じゃないだろうか。

これなら、僕も本気で勉強に集中できるはずだ。


僕の提案に、優愛は一瞬きょとんとした後、ふふっ、と楽しそうに笑った。

「……いいよ、その勝負。乗った」

そして、彼女は少しだけ体を僕の方に寄せ、僕にしか聞こえないような小さな声で、悪戯っぽく囁いた。

「でも、私が勝ったら……ちゃんと、かっこよくエスコートしてよね?」


その、あまりにも不意打ちで、あまりにも可愛い「おねだり」に、僕の心臓が大きく跳ねた。

「……当たり前だろ」

僕は、顔が熱くなるのを感じながら、そっぽを向いてそう返すのが精一杯だった。


その日から、僕らの間には、二人だけの秘密の目標が生まれた。

朝の登校中も、昼休みも、周りにバレないように、こっそりと単語帳を見せ合って問題を出し合った。

「なあ、この英単語の意味、なんだっけ?」

「もう、昨日もやったでしょ!」

そんなやり取りすら、今は二人だけの特別なゲームみたいで、楽しかった。


家に帰ってからも、夜遅くまでメッセージで励まし合った。

『今日のノルマ、終わったか?』

『あと少し……。優愛は?』

『私も、あとちょっと。負けないからね!』


そして、迎えたテスト最終日。

最後の一科目を終え、解放感に満ちた空気が教室を包む。


「終わったー!」

希望が、大きな伸びをしながら叫ぶ。

「二人とも、なんか今週、妙に勉強熱心だったよな。どうしたんだよ?」

美褒が、不思議そうに僕たちの顔を覗き込む。


僕と優愛は、どちらからともなく顔を見合わせた。

秘密の勝負のことは、まだ二人だけの秘密にしておきたい。


「……まあ、色々とな」

僕がそう言って笑うと、優愛も「うん、色々ね」と、悪戯っぽく笑った。

その息の合った様子に、希望と美褒は「ますます怪しい……」と顔を見合わせている。


帰り道。

「お疲れ、溢喜」

「優愛もお疲れ」


僕らは、解放感に満たされながら、夕暮れの道を並んで歩く。

「……で、どうする? 答え合わせ」

「ううん、やめとく。結果が出てからのお楽しみ、だね」

そう言って笑う優愛の横顔は、やりきった満足感で、キラキラと輝いていた。


どちらが勝っても、僕らの未来には、最高の週末が待っている。

そう思うだけで、僕の心は、どうしようもないくらいの幸福感で満たされていった。

テストが終わったばかりなのに、もう、次の約束の日が待ち遠しくてたまらなかった。

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