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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第六章 僕の彼女
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第七十五話 甘い罰と、嬉しい誤算

「……ばか」


か細い、でも、少しも怒っていない、甘い声。

その声と、潤んだ瞳で僕を見上げる彼女の表情に、僕の理性の糸は、ぷつりと、音を立てて切れた。


僕は、彼女の手を握ったままの左手に、そっと力を込める。

そして、もう片方の右手を、彼女の頬に優しく添えた。


「……っ」

優愛の肩が、びくりと大きく震える。

でも、彼女は目を逸らさなかった。

それどころか、まるでその先を促すように、ゆっくりと、その長いまつげを伏せた。


もう、我慢なんて、できるはずもなかった。

僕らの顔が、ゆっくりと、近づいて――


コンコン。


控えめなノックの音と、ドアの向こうからの「溢喜ー? いるー?」という母さんの声が、甘い空気を破った。


「「……!!」」


僕らは、まるで感電したみたいに、同時に体を離した。

心臓が、今にも口から飛び出しそうだ。

ガチャリ、とドアが開いて、母さんがひょっこりと顔を出す。


「あら、優愛ちゃんも来てたの。こんにちは。ちょうどケーキ買ってきたから、リビングで一緒にどう?」


僕と優愛は、顔を見合わせたまま、カチコチに固まってしまった。

頬に添えていた手も、握りしめていた手も、いつの間にか離れている。

ただ、互いの熱だけが、まだそこに残っているようだった。


「……ご、ごめん! 僕、お茶、淹れてくる!」

僕は、しどろもどろでそう言うと、逃げるように部屋を出て、リビングへと向かった。


結局、その日は、リビングで母さんが買ってきたケーキを三人で食べることになり、僕と優愛の勉強会は、気まずい雰囲気のまま、強制的に終了となった。


帰り際。

玄関まで優愛を見送る。

二人きりになっても、僕らはどちらも、さっきの出来事に触れることができなかった。


「……じゃあ、また、月曜な」

「……うん。またね」


ドアが閉まる、その瞬間。

優愛が、何かを言いかけたように、少しだけ、口を開いた。

でも、結局、何も言わずに、ぺこりとお辞儀をして、隣の家に帰っていった。


部屋に戻り、ベッドに倒れ込む。

天井を見上げながら、僕は自分の行動を思い出して、頭を抱えた。


(……何やってんだよ……!)


完全に、雰囲気に流されて、暴走してしまった。

最低だ。

引かれたかもしれない。

もう、今までみたいに、隣で笑ってくれないかもしれない。

後悔と自己嫌悪の嵐が、僕の胸の中で吹き荒れる。


ピコン。


その時、静まり返った部屋に、スマホの通知音が響いた。

画面に表示されたのは、「優愛」の名前だった。

心臓が、どきり、と跳ねる。

恐る恐る、メッセージを開く。


そこに書かれていたのは、たった一言だけだった。


『……今日の、続きは?』


その、あまりにも不意打ちで、あまりにも大胆な一文に、僕の思考は、完全に停止した。

後悔と自己嫌悪の嵐は、一瞬で吹き飛んだ。

代わりに、僕の心の中には、今まで経験したことのない、最大級の、甘い爆弾が投下された。


「……マジかよ」

僕は、天井に向かって、誰に言うでもなく、そう呟いた。

顔が、熱い。

心臓が、うるさい。

どうしようもなく、彼女に会いたい。


着ていたTシャツとジーンズを脱ぎ捨て、シャワーを浴びる。

冷静になろうとしたはずなのに、火照った体は少しもクールダウンしてくれない。

僕は、ラフなパジャマに着替えると、改めてスマホを握りしめた。

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