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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第五章 名前のない関係
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第六十九話 青い空、海の波

海辺のレストランは、大きな窓から太陽の光が差し込む、明るくて開放的な空間だった。

僕らが案内されたのは、窓際のテーブル席。

ガラスの向こう側には、キラキラと輝く穏やかな海と、そして、あの岩場がはっきりと見えた。


「……本当に、ここだったんだね」

メニューを開きながらも、優愛の視線は、窓の外の景色に釘付けになっている。

「ああ。絶対、ここで昼飯を食べようって、決めてたんだ」


僕らは、それぞれシーフードパスタを注文した。

料理が運ばれてくるまでの間、僕らは言葉少なに、ただ窓の外を眺めていた。

波の音、カモメの鳴き声、そして、遠くで聞こえる船の汽笛。

その全てが、僕の決意を後押ししてくれているようだった。


食事が終わり、店を出ると、太陽は少しだけ西に傾き、海風が心地よく僕らの頬を撫でた。


「……行かないか? あの場所」

僕がそう言って、岩場の方を指差すと、優愛は、全てを分かっているかのように、静かに、でも確かに、こくりと頷いた。


僕らは、砂浜をゆっくりと歩き、あの岩場へと向かう。

足元の砂が、ザッ、ザッ、と鳴る。

隣を歩く優愛の表情は、緊張しているのか、それとも何かを期待しているのか、僕には読み取れなかった。


やがて、僕らは、あの平らな岩の上に、並んで腰を下ろした。

あの日、僕が彼女を支えた場所。

僕らの関係が、ほんの少しだけ、変わった場所。


しばらく、二人で黙って、目の前に広がる水平線を見ていた。

寄せては返す波の音が、僕の心臓の音と、不思議と重なっていく。


「……優愛」

先に口を開いたのは、僕だった。

もう、逃げないと決めたんだ。


「ん?」

「今日、一日……付き合ってくれて、ありがとう」

「ううん。私の方こそ。すっごく、楽しかった。忘れてたことも、たくさん思い出せたし」


「僕もだ」と、僕は頷いた。

「ヒーローになるって約束も、駄菓子屋での競争も、全部、優愛が覚えててくれたから、思い出せた。僕一人じゃ、きっと、忘れたままだった」


僕は、一度、大きく深呼吸をした。

そして、隣に座る彼女の方へと、真っ直ぐに向き直った。


「僕は、今まで、優愛にたくさんのものをもらってばっかりだった。叱ってもらって、助けてもらって、支えてもらって……。でも、これからは、違う」


僕は、彼女の冷たくなった手を、両手でそっと包み込んだ。

驚いて、少しだけ揺れる、大きな瞳。


「これからは、僕が、優愛を支えたい。君が辛い時は、一番に駆けつけて、君が笑う時は、その隣で、誰よりも近くで、一緒に笑っていたい。……委員長と副委員長みたいに、最高のパートナーとして、君の隣にいたいんだ」


もう、言葉は止まらない。

僕が、ずっと伝えたかった、本当の気持ち。


「僕は、もう、ただの幼馴染じゃ、嫌だ。ただ守られて、世話を焼かれるだけの関係じゃ、嫌なんだ。僕にとって優愛は、世界でたった一人の、かけがえのない、大切な人なんだ」


僕は、包み込んだ彼女の手に、少しだけ力を込めた。

そして、今日、この場所で、絶対に伝えようと決めていた、最後の言葉を、紡いだ。


「好きだ、優愛。僕と、付き合ってください」


どこまでも青く澄み渡る空の下、穏やかな海の波が、僕らの足元で白く砕けた。

僕の告白は、ただ、その優しい音に吸い込まれていくようだった。


優愛は、何も言わない。

ただ、その大きな瞳から、ぽろぽろと、涙をこぼしていた。

そして、その涙が頬を伝い終わる前に、彼女は、今まで見た中で、一番美しい笑顔で、こう言った。


「……遅いよ、ばか」


それは、僕が、ずっと聞きたかった、最高の答えだった。

僕は、たまらなくなって、彼女の肩をそっと引き寄せ、抱きしめた。

潮風が、僕らの間を、優しく吹き抜けていった。

僕らの、長くて、でも短かった幼馴染という関係は、今日、この場所で、確かに終わりを告げた。

そして、新しい物語が、ここから始まる。

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