表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第五章 名前のない関係
67/182

第六十七話 僕が計画する、特別な一日

「行きたい場所があるんだ。二人で」


僕がそう告げた日から、日曜日までの数日間は、今まで感じたことのない種類の緊張感と、高揚感に包まれていた。

瀧川先輩は言った。

「特別な一日を、お前が完璧に作り上げるんだ」と。


(完璧な一日って、なんだ……?)


昼休み。

いつものように四人で机をくっつけて弁当を広げながらも、僕の頭はそのことでいっぱいだった。


「なあ、溢喜」

希望が、僕にだけ聞こえるような小声で肘をつついてくる。

「例の件、どうすんだ? なんか、心ここにあらずって感じだぞ」

「……うるさいな。今、考えてるんだよ」

僕がそう返すと、向かい側に座る美褒が、心配そうに僕と優愛の顔を交互に見た。

「二人とも、なんかあったの? ゆーちゃんも、さっきからそわそわしてるよ」


美褒の言葉に、僕はちらりと優愛の横顔を盗み見る。

確かに、彼女もどこか落ち着かない様子で、お弁当の卵焼きをつついている。

(……そうだよな。優愛も、意識、してるよな)


僕が「二人で、行きたい場所がある」なんて、今まで言ったことのない、特別な言い方をしたのだから。

彼女も、今度の日曜日が、ただの「お出かけ」ではないことに、気づいているはずだ。


「……別に、なんでもないよ」

優愛が、僕の気持ちを察したように、そう言って曖昧に笑う。

その笑顔を見て、僕は決意を固めた。

不安にさせているだけじゃダメだ。

僕が、最高の形で、この気持ちに応えなきゃ。


その日の放課後。

僕は、帰り道で優愛に言った。

「あのさ、日曜日のことなんだけど」

「うん」

「朝、少し早めに出られないか? 寄りたい場所があるんだ」

「え? うん、いいけど……どこに?」


「それは、当日までのお楽しみ」

僕がそう言って悪戯っぽく笑うと、優愛は驚いたように目を丸くして、そして、少しだけ頬を赤らめた。

「……分かった。楽しみにしてる」


そして、運命の日曜日がやってきた。

僕が優愛を最初に連れてきたのは、僕らが住む街を見下ろせる、小さな丘の上にある公園だった。


「わ……綺麗」

朝の澄んだ光の中で、僕らの住む街が、ミニチュアみたいに広がっている。

遠くには、きらきらと光る海も見えた。


「子供の頃、よく来たんだ。ここで、街を眺めながら、将来何になりたいかとか、考えてた」

僕がそう言うと、隣に立つ優愛が、くすりと小さく笑った。

「え、何がおかしいんだよ」


「ううん。……覚えてないの、溢喜?」

「え?」

「小さい時、ここで一緒に遊んだじゃない。『大人になったら、僕が優愛のヒーローになってやるからな!』って、溢喜が言ったんだよ」


言われてみれば、そんなことを言ったような、言わなかったような……。

全く記憶にない僕を見て、優愛は「もー」と、少しだけ拗ねたように頬を膨らませた。


「私は、ずっと覚えてたのに。あの時の溢喜、すごくかっこよかったんだから」


その言葉に、僕の心臓が、朝の静かな空気の中で、大きく、そして温かく脈打った。

僕が忘れてしまっていた、遠い昔の約束。

それを、彼女はずっと、大切に覚えていてくれたんだ。


僕らは、ベンチに座って、持ってきた水筒の温かいお茶を飲んだ。


「なんで、今日、ここに?」

優愛が、改めて尋ねる。

「んー……。今日の、始まりの場所は、ここがいいなって、なんとなく思ったんだ。僕らが忘れてるかもしれない、小さな思い出も全部、ちゃんと優愛と一緒に確かめてから、始めたかった」


僕の言葉に、優愛は驚いたように目を丸くして、そして、今日一番の、花が咲くような笑顔を見せてくれた。

「……うん。嬉しい」


僕が立てた、完璧とは言えないかもしれないけど、僕が考え得る、最高のプラン。

それは、お洒落な店を巡るようなものではない。

僕と優愛が、これまで一緒に過ごしてきた時間を、もう一度、二人で確かめるように巡っていく。

そんな一日だった。

そして、その道のりが、あの特別な海へと繋がっていることを、優愛はまだ、知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ