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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第五章 名前のない関係
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第六十六話 告白のための、序章

僕の、どうしようもない悩み。

それを聞いた瀧川先輩と森園先輩は、どちらも真剣な顔で、でも、どこか懐かしむような優しい目で、僕の話に耳を傾けてくれた。


僕が全てを話し終えると、瀧川先輩は「なるほどな」と一度頷き、隣に座る森園先輩と、ふと視線を交わした。

その一瞬のアイコンタクトに、僕には分からない、でも確かな二人の絆のようなものが見えた気がした。


「……気持ちは、すごく分かるよ」

先に口を開いたのは、森園先輩だった。

「大切だからこそ、壊したくない。今のままでも十分幸せだから、一歩踏み出すのが怖い。……そうだよね?」

「……はい」

僕の心を、そのまま言葉にしてくれたような的確な言葉に、僕はこくりと頷くことしかできなかった。


「でもね、青空くん」

彼女は、続ける。

「青空くんが『今の関係が愛おしい』って思っているのと同じくらい、もしかしたら、海波さんも『早く次の関係に進みたい』って、思ってるかもしれないよ」

「え……」

「希望くんも言ってたんでしょ?『待たせてるのと同じだ』って。今のままでいるっていうのは、優しくて、安全な選択に見えるかもしれないけど、相手にとっては、すごく残酷なことでもあるんだよ」


その言葉は、希望に言われた時よりも、すとんと僕の胸の奥に落ちてきた。

そうだ。

僕が自分の恐怖から目を背けている間、優愛はずっと、不安な気持ちで待ってくれているのかもしれない。


「じゃあ、僕は、どうすれば……」

僕がそう尋ねると、今度は瀧川先輩が、僕の肩をぽんと叩いた。


「焦って、いきなりラスボスに挑む必要はねえよ」

「ラスボス……?」

「ああ。『好きだ、付き合ってくれ』っていう、最後の告白のことだ。お前が今一番怖いのは、それを言って砕け散ることだろ?」

「……はい」

「だったら、その前にもう一つ、イベントを挟むんだよ」


瀧川先輩は、ニヤリと笑った。

「今の、ただの『お出かけ』でも、『幼馴染と遊ぶ』でもない。誰がどう見ても、これは『デート』だろ、っていう、特別な一日を、お前が完璧に作り上げるんだ」


特別な、一日。


「その特別な一日を、彼女が心の底から楽しんでくれたなら。その日の最後に、お前を見てくれる彼女の目が、今までと全く違う、特別な色をしていたなら。……その時が、お前がラスボスに挑む、最高のタイミングだ」


その言葉に、僕の頭の中で、バラバラだったパズルのピースが、カチリとはまる音がした。

そうだ。

いきなり告白するんじゃない。

まず、僕の気持ちが「ただの幼馴染」ではないことを、その一日の全てをかけて、彼女に伝えるんだ。


「どんな場所がいいですか?」

僕が尋ねると、瀧川先輩は「そんなの、お前が一番よく知ってるだろ」と笑った。

「彼女にとって、そして、お前にとっても、一番、特別な場所だよ」


特別な、場所。

僕の脳裏に、一つの光景が鮮やかに浮かんだ。


激しい水しぶきと、僕が支えた彼女の体の柔らかさ。

僕の手をそっと握り返してくれた、彼女の手の温かさ。


修行の始まりの場所であり、僕らがただの幼馴染から、確かに男女なのだと意識した、あの海。


「……ありがとうございます、先輩」

僕が顔を上げると、もうそこには、ただ怯えているだけの僕はいなかった。

やるべきことが、はっきりと見えていた。


「なんか、いい顔になったな」

瀧川先輩が、満足そうに言う。

「困ったら、またいつでも声かけろよ。な、杏奈」

「うん。応援してるからね、青空くん」

森園先輩が、優しく微笑んでくれた。


その日の放課後。

僕は、帰り道で優愛に言った。

「なあ、優愛。今度の日曜日、空いてるか?」

「え? うん、空いてるけど……」


「行きたい場所があるんだ。二人で」


僕の、いつもより少しだけ真剣な声に、優愛は驚いたように目を丸くして、そして、こくりと頷いてくれた。

僕たちの、告白のための序章が、今、始まろうとしていた。

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