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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第五章 名前のない関係
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第六十三話 夕闇に咲く光

涼風祭二日目。

昨日のドキドキを引きずったまま迎えた朝は、どこかふわふわとして、現実感がない。

教室に入ると、優愛がすでにそこにいて、開店準備を始めていた。


「おはよう、優愛」

「……おはよ、溢喜」


僕の声に、彼女の肩がびくりと揺れる。

ばちり、と目が合った瞬間、お互いの脳裏に昨日のリンゴ飴の記憶が蘇り、二人して顔を真っ赤にして、さっと視線を逸らした。

その反応が、僕らの間の空気を、昨日までとは全く違う、甘くて、少しだけ気まずいものに変えていた。


「おいおい、朝からイチャイチャしてんじゃねえよ」

「してるか!」

希望の野次に、僕はいつもより大きな声でツッコミを入れてしまった。


二日目の「謎解きゲームカフェ」も、昨日以上に大盛況だった。

委員長と副委員長としての僕らの連携は、もう完璧と言っていい。

時々、カウンター越しに目が合っては、慌てて逸らす。

そのたびに、希望と美褒だけが、ニヤニヤと僕らを見ていた。


あっという間に時間は過ぎ、閉会を告げる放送が流れる。

クラスのみんなで「お疲れ様ー!」とハイタッチを交わし合う。

僕と優愛も、自然と手を合わせようとして、指先が触れ合った瞬間に、また二人してびくりと固まってしまった。


「……お、お疲れ」

「お疲れ様」

ぎこちない僕らの様子を見て、希望と美褒が、またニヤニヤしている。


全ての片付けが終わり、教室が元の姿に戻る頃には、窓の外はすっかり夕闇に包まれていた。

涼風祭の終わりを告げるのは、生徒会が企画した「スカイランタン」だった。

生徒一人一人が、願い事を書いた小さなランタンに火を灯し、合図と共に一斉に夜空へ放つのだ。


僕らもクラスメイトたちと一緒に校庭に出て、それぞれのランタンを受け取る。

「何、お願いするんだ?」

僕が聞くと、優愛は「秘密」とだけ言って、小さなペンで何かを書き込んでいる。


やがて、放送でカウントダウンが始まった。

『……3、2、1、GO!』


合図と共に、僕らは一斉にランタンから手を離した。

無数のオレンジ色の光が、ゆっくり、ゆっくりと夜空を昇っていく。

歓声は上がらない。

ただ、誰もが息を呑んで、その幻想的な光景を見上げていた。


「……きれい」

隣に立つ優愛が、ぽつりと呟いた。

その横顔が、昇っていくランタンの柔らかな光に照らされて、昼間とは違う、幻想的な美しさだった。


僕は、気づけば、彼女のすぐそばにあった手を、そっと握っていた。

優愛が、びくりと肩を揺らす。

でも、振りほどきはしなかった。


「優愛」

「ん?」

僕は、夜空を埋め尽くす光を見上げたまま、言った。


「涼風祭、終わっちゃったな」

「……うん」


僕は、彼女の隣で、ただそれだけを呟いた。

もっと言いたいことはたくさんあるはずなのに、言葉にならない。

涼風祭が終わってしまう寂しさと、彼女が隣にいる幸福感。

その二つが混ざり合って、胸がいっぱいだった。


優愛は、そんな僕の気持ちを察したように、何も言わずに、僕の手を、強く、強く握り返してくれた。

その温かさだけで、十分だった。


夜空に咲き乱れる、無数の静かな光。

それはまるで、僕らの、そして、この学校にいる全ての生徒たちの、未来を祝福してくれているかのようだった。


この温かい光景と、繋いだ手の温もりを、僕は一生、忘れないだろう。

そう、確信していた。

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