第五十七話 放課後の作戦会議
月曜日のホームルーム。
僕と優愛が練り上げた「謎解きゲームカフェ」の企画書は、クラスメイトたちから、満場一致の拍手で迎えられた。
「何それ、めっちゃ面白そう!」
「謎解きとか、絶対盛り上がるじゃん!」
「食べ物系なのもいい! 絶対儲かるって!」
口々に賞賛の言葉をくれるクラスメイトたちに、僕はなんだか気恥ずかしくて、隣に立つ優愛の顔を盗み見た。
彼女は、誇らしげに、そして嬉しそうに微笑んでいた。
その笑顔を見て、僕も胸の奥が温かくなる。
「――というわけで、今日から本格的に準備を始める。まずは、各係のリーダーを決めるぞ!」
学級委員長の声に、教室が再び活気づく。
放課後。
僕たちの教室は、さながら作戦司令室のようになっていた。
黒板には、優愛が書いた役割分担の表が大きく貼り出され、各係のリーダーたちが集まって、熱心に議論を交わしている。
「謎解きチーム、問題のアイデア、何かある?」
「カフェの内装、どんな感じにする?」
「メニューは、とりあえずドリンクと簡単なスイーツかな」
その中心で、優愛がテキパキと指示を出し、意見をまとめている。
その姿は、もうすっかり頼もしい「委員長」だった。
(……で、俺は、何をすればいいんだ?)
副委員長とは名ばかりで、僕はただ、その輪を少し離れた場所から、ぼん-やりと眺めていることしかできなかった。
すごいな、みんな。
一つの目標に向かって、こんなにキラキラできるんだ。
それに引き換え、僕は……。
「――ねえ、溢喜」
不意に、優愛が僕のそばにやってきた。
「どうした? ぼーっとして」
「いや、なんか、俺、いなくてもいいかなって……」
また、弱音がこぼれる。
すると、優愛は呆れたように、でもやっぱり優しく笑った。
「何言ってるの。副委員長の仕事は、ここからだよ」
「え?」
「みんな、アイデアを出すのは得意だけど、それを具体的にどうするかっていうところで、絶対に行き詰まるから。ほら、見てて」
優愛が指差した先では、内装係のリーダーたちが頭を抱えていた。
「『魔法学校のカフェテリア』ってテーマはいいけど、具体的にどう飾り付けすれば、安っぽく見えないかなあ……」
「壁とか、ただ黒い紙を貼るだけじゃ、文化祭って感じしないよね」
優愛は、僕の背中をぽん、と押した。
「行っておいでよ、副委員長くん。君の出番」
その目に、絶対的な信頼の色が浮かんでいるのを見て、僕はもう、逃げることはできなかった。
僕は意を決して、内装係の輪の中に入っていった。
「あのさ、壁にただ黒い紙を貼るんじゃなくて、レンガ模様の壁紙シートとか使うのはどうかな? 100円ショップとかでも、結構リアルなやつが売ってるし」
「あ、それいいかも!」
「あと、天井から、LEDのキャンドルライトとかを、テグスでたくさん吊るすんだ。そうすれば、魔法で浮いてるみたいに見えないか?」
「うわ、天才! それ、絶対可愛い!」
僕のアイデアに、内装係の女子たちが、目を輝かせて食いついてくる。
すごい。
僕の言葉が、ちゃんと役に立ってる。
「……やるじゃん、副委員長」
いつの間にか隣に来ていた優愛が、僕の脇腹をこつん、と肘で突きながら言った。
「だろ?」
僕は、少しだけ得意げに、でも照れながらそう返した。
日が暮れるまで続いた、放課後の作戦会議。
疲れたけど、それ以上に、今まで感じたことのない充実感で、僕の心は満たされていた。
帰り道。
二人で並んで歩きながら、優愛がぽつりと言った。
「やっぱり、溢喜を副委員長にして、よかった」
「……そうか?」
「うん。私だけじゃ、きっと、あんなに早くみんなをまとめること、できなかったから」
その言葉が、今日の疲れを全部、吹き飛ばしてくれた。
僕の居場所は、もうただ彼女の隣にあるだけじゃない。
彼女と一緒に、何かを創り上げていく、その隣にあるんだ。
僕たちの涼風祭は、まだ始まったばかり。
でも、僕はもう確信していた。
この最高のパートナーと一緒なら、絶対に、成功させられる、と。




