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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第四章 僕らが照らす道
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第五十話 氷が溶ける音

帰り道のセダンの中は、来た時とは打って変わって、穏やかで、どこか温かい空気に満ちていた。


「溢喜、優愛くん。……ありがとう」

助手席で、真実おじいちゃんがぽつりと言った。

「君たちがいなければ、我々は、一生あの日のままだった」

後部座席で、爽快おじいちゃんと栄誉おじいちゃんも、深く頷いている。


僕は、何も言えなかった。

ただ、胸の奥で、大きな何かが、ゆっくりと溶けていくのを感じていた。

光道家と青空家を縛り付けていた、長くて冷たい呪い。

その氷が、ようやく、解け始めたのだと。


家の前に車が着くと、僕は三人に深く頭を下げて車を降りた。

隣の家からも、優愛が降りてくるのが見える。

僕らは、言葉を交わさず、ただ静かに頷き合った。

今日一日、僕らはあまりにも多くのものを見すぎた。

今はただ、一人になって、この感情を整理する時間が必要だった。


玄関のドアを開けると、リビングから心配そうな顔をした父さんと母さんが出てきた。

「おかえつり、溢喜。……どうだった?」

父さんの声は、緊張で強張っていた。


僕が今日あったこと――真実おじいちゃんの告白と、四兄弟の和解を、ゆっくりと、一つ一つ話していく。

話が進むにつれて、父さんの目が見開かれ、母さんの目からは、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。


「……そうか。父さん(真実)が、ようやく……」

母さんは、それ以上言葉にならなかった。

父さんは、そんな母さんの肩を強く抱き寄せ、そして、僕の頭に、不器用にごしごしと手を置いた。

「……よく、やったな。溢喜」

その声は、震えていた。


翌日、日曜日の昼過ぎ。

家のチャイムが鳴った。

玄関のドアを開けると、そこに立っていたのは、真実おじいちゃんだった。

一人で。


「……お邪魔しても、いいかね」

いつもは厳格に見えるおじいちゃんが、どこか緊張した、子供のような顔で立っていた。

リビングに通すと、父さんと母さんも、硬い表情でソファに座る。


重い沈黙。

それを破ったのは、真実おじいちゃんだった。

彼は、ソファから立ち上がると、父さんの前に進み出て、そして、深く、深く頭を下げた。


「……すまなかった」

絞り出すような、声だった。

「娘を……幸せにしてくれて、ありがとう。そして、青空家の人間だというだけで、君を長年拒絶し続けてきたこと、本当に、申し訳なかった」


父さんは、何も言わずに立ち上がると、おじいちゃんの肩を掴んで、その頭を上げさせた。

「……もう、いいんです、お義父さん。俺も、若かった。もっと、やり方があったはずだ」


「父さん……」

母さんが、涙を浮かべて自分の父親の名を呼ぶ。

「お前にも、辛い思いをさせたな」

真実おじいちゃんは、娘である母さんの方を向き、ようやく、父親としての優しい顔を見せた。


父さんと、真実おじいちゃん。

二人が、固い握手を交わす。

それは、何十年も前に失われてしまった、二つの家族が、再び一つになるための、新しい約束の形だった。


その光景を、僕はリビングの入口から、そっと見ていた。

隣には、いつの間にか来ていた優愛が、静かに立っていた。彼女の目にも、涙が光っていた。


僕らがしたかったこと。

それは、ただ、大好きな人たちに、心から笑ってほしかっただけなんだ。


月曜日の朝。

いつもと同じように玄関のドアを開けると、隣から優愛が出てくる。

「おはよう、溢喜」

「おはよ、優愛」


僕らの心の中にはもう、何の重荷もなかった。

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