第五話 ドキッとする時、あるし
僕の休日の過ごし方は二通りある。
一つは、一人で好きなことをするとき。
そしてもう一つは、優愛といろんなところに行くとき(大体これだ)。
今日も僕は優愛に振り回されている。
「ほら、ちゃんと持ってよ。荷物、重いんだから」
「はいはい…」
駅前のショッピングモール。
昨日、“ガチで”なんて言うんじゃなかった…。
今日は優愛の機嫌を良くしないと!
雑貨屋の文房具コーナーに行くと、優愛にぴったりな、薔薇の花が描かれたシャーペンを見つけた。それを持って彼女に聞いた。
「ねえ、これどう思う?」
「…いいんじゃない?可愛らしくて…。誰かにプレゼントするの?」
僕は正直に言った。
「え、いや…。優愛にあげようと思ってただけだよ…」
僕がそう言うと、優愛は少し驚いた顔をして、すぐに笑った。
「…珍しく、カッコいいこと言うじゃん。いいセンスしてるね」
褒められた。
…と言っても、彼女はよく褒める。
僕がおかしいだけで、普通に生活していると、何でも共感して褒めてくれる。
でも、こうやって褒められると…嬉しい…。
なんとか正気を保ち、言った。
「いや、まあ…いつもの恩返しですよ。たまにはね」
「たまにじゃなくて、毎回そうだったらいいのに」
優愛はそう言って、僕の手にあったシャーペンを手に取った。
僕に触れた彼女の手は、僕と同じくらい熱かった。
買い物を終えて、僕らはモールの屋上にある展望スペースに向かった。 風が少し強くて、優愛の髪がふわりと舞った。夕焼けに照らされて、彼女の横顔がやけに綺麗に見えた。
「ねえ、覚えてる?小学校の頃、ここでアイス食べて、溶かしたこと」
「おお、あれね。僕が落として、優愛が怒って…」
「怒ったっけ?」
「めちゃくちゃ怒ってたよ。『アイスの命を無駄にした』って」
優愛は笑った。
その笑顔が、風景よりも鮮やかだった。
少し沈黙があって、優愛がぽつりと言った。
「…あの頃の溢喜って、なんか子犬みたいだったよね」
子犬ってなんだよ。子犬って…。
「え、今は?」
「んー…今は、ちょっとだけ…違うかも」
「違うって?」
優愛は僕の方を見て、少し頬を赤らめた。
「……なんか、ドキッとする時、あるし……」
その言葉に、僕は何も返せなかった。
何も考えられなかった。
自分の頬も赤くなっていることに気付いて目を逸らす。
でも、どこを見ればいいのか分からなかった…。
帰り道、僕はあまり優愛とは話せなかった。
違う、話さなかったんだ。
だってあんなこと言われたら…。
…この時間が、ずっと続けばいいのに。そう思った瞬間、自分でも驚いた。なんでそんなこと考えたんだろう。ただの休日。ただの買い物。ただの——幼馴染との、いつもの時間。
でも、優愛の笑顔が風に揺れて、僕の心まで揺れた気がした。
「……なんか、ドキッとする時、あるし……」
あの言葉が、頭の中で何度も響く。優愛のこと、幼馴染として見れなくなってきてる。いや、もう——見れないかもしれない。