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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第四章 僕らが照らす道
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第四十九話 兄として、弟として

「怖くて……!」


真実おじいちゃんの絶叫が、静かな渓谷にこだまする。

それは、何十年もの間、たった一人で抱え込んできた罪の意識と、誰にも言えなかった恐怖の叫びだった。

おじいちゃんは、その場に崩れるように膝をつき、嗚咽を漏らした。


誰も、言葉をかけられない。

爽快おじいちゃんも、栄誉おじいちゃんも、ただ唇を噛み締め、俯いている。

隣に立つ優愛が、ぎゅっと僕の腕を掴んだ。

彼女もまた、このあまりにも重い告白に、打ちのめされているのが分かった。

その重い沈黙を破ったのは、鬼のような形相で弟を睨みつけていた、優誓おじいちゃんだった。


「……そうか」


吐き捨てるような、低い声。

「お前は、ずっと……そんなものを、一人で抱えていたのか」


その声には、怒りよりも、もっと深い、何か別の感情が滲んでいた。

優誓おじいちゃんは、ゆっくりと膝をついた弟に近づくと、その震える肩に、無言で、そっと手を置いた。


「……すまなかった」


今度は、優誓おじいちゃんの声だった。

絞り出すような、か細い声。


「俺は、長男だった。お前たちの兄として、誰よりも強くあらねばならんと思っていた。颯喜が死んだ時も、本当は、俺が一番、取り乱していたのかもしれん。だから、お前が俺を責めてきた時、向き合うのが怖かったんだ」


優誓おじいちゃんは、一度言葉を切り、天を仰いだ。


「一番近くにいた俺が、もっと気をつけていれば……。いや、違う。弟のお前が、あんなに苦しんでいることに、気づいてやれなかった。兄として、失格だ。……すまなかった、真実」


兄として、強くあらねばならなかった男の後悔。

弟として、兄にすがるしかなかった男の罪悪感。


何十年もすれ違い続けてきた二つの心が、今、ようやく、一つの場所で重なろうとしていた。


「……兄貴」

真実おじいちゃんが、顔を上げる。その目からは、涙がとめどなく溢れていた。

「俺こそ……俺こそ、すまなかった……!」


二人は、どちらからともなく、互いの肩を強く掴み合った。

それは、子供の頃に戻ったかのように、不器用で、でも何よりも確かな、和解の姿だった。

その光景を見ていた爽快おじいちゃんと栄誉おじいちゃんの目にも、光るものがあった。


僕と優愛は、ただ、その光景を黙って見つめていた。

僕らがすべきことは、もう何もなかった。

僕らがしたことは、ただ、止まっていた時計の針を、ほんの少しだけ動かす、きっかけを作っただけだ。

あとは、彼ら自身の力で、動き出した針を、未来へと進めていく。


「……よかった」

隣で、優愛がぽつりと呟いた。その声は、涙で濡れていた。

「うん……よかった」

僕も、頷いた。

握られた腕の温かさが、僕の心にもじんわりと広がっていく。


空を見上げると、いつの間にか厚い雲が切れ、澄んだ秋空から、柔らかな日差しが差し込んでいた。

それはまるで、空の上にいる颯喜さんが、ようやく笑い合えた兄弟たちを、優しく照らしているかのようだった。


帰り道。

二台のセダンは、来た時とは全く違う、穏やかな空気に包まれていた。


「溢喜、優愛くん。……ありがとう」

助手席で、真実おじいちゃんが、ぽつりと言った。

「君たちがいなければ、我々は、一生あの日のままだった」

後部座席で、爽快おじいちゃんと栄誉おじいちゃんも、深く頷いている。


僕は、何も言えなかった。

ただ、胸の奥で、大きな何かが、ゆっくりと溶けていくのを感じていた。

光道家と青空家を縛り付けていた、長くて冷たい呪い。

その氷が、ようやく、解け始めたのだと。


僕らの本当の挑戦は、まだ始まったばかりかもしれない。

でも、今日、僕らは確かに、大きな一歩を踏み出した。

未来へと続く、新しい道へと。

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