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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第四章 僕らが照らす道
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第四十八話 あの日と同じ川

運命の土曜日、その朝は、まるで何事もなかったかのように静かにやってきた。

僕は制服ではなく、少しだけ厚手のシャツに袖を通しながら、リビングの電話機を睨みつけていた。

心臓が、鉛のように重い。


『もしもし、私だ』

電話の向こうの真実おじいちゃんの声は、いつもと同じように穏やかだった。

「……おじいちゃん、僕だけど」

『おお、溢喜か。どうした、改まって』


練習したセリフが、喉の奥でつっかえる。

でも、言うしかないんだ。

優愛も今頃同じように、優誓おじいちゃんに電話をかけているはずだ。


「今日、時間、あるかな。どうしても、一緒に行ってほしい場所があるんだ」

『ほう?』

「颯喜さんの……大伯父さんが、亡くなった川に」


一瞬の沈黙。

電話の向こうで、おじいちゃんが息を呑むのが分かった。

『……なぜ、その場所を』

「全部、聞いたんだ。父さんから。だから……だから、お願いだ、おじいちゃ。行かなきゃいけない気がするんだ。孫として」


それは、もうほとんど懇願だった。

僕の必死さが伝わったのか、おじいちゃんは長い沈黙の後、ぽつりと、でも確かにこう言った。

『……分かった。迎えに行く』


同じ頃、優愛もまた、受話器を握りしめていた。

『川だと? なぜ俺がお前と、今さらあんな場所に行かねばならん!』

優誓おじいちゃんの怒声に、肩がびくりと震える。

でも、ここで引くわけにはいかない。

「お願い、おじいちゃん! 私、逃げたくないの! おじいちゃんにも、逃げてほしくないの!」

孫娘の、涙ながらの訴え。

それは、どんな理屈よりも強く、頑なだった老人の心を揺さぶった。

『……分かった。分かったから、もう泣くな』


約束の時間。

僕の家の前に停まったのは、真実おじいちゃんの運転する、落ち着いたシルバーのセダンだった。

後部座席には、すでに爽快おじいちゃんと栄誉おじいちゃんが、静かに座っていた。

助手席に乗り込むと、誰も何も話さない、重い空気が車内を支配していた。


車は、僕の知らない道を走り続ける。

やがて、見覚えのある黒いセダンが、僕らの車の前を走っていることに気づいた。

優愛が、乗っているんだ。


二台の車は、まるで示し合わせたかのように、山間の小さな駐車スペースに停まった。

車から降りると、ひんやりとした秋の風と、川のせせらぎの音が、僕らを包んだ。


そこは、僕が想像していたよりも、ずっと穏やかな場所だった。

川幅は狭く、水は澄んでいる。

こんな場所で、本当にあんな悲劇が?


「……来たか」

先に車を降りていた優誓おじいちゃんが、吐き捨てるように言った。

その隣には、不安そうに佇む優愛がいる。

僕らが頷き合うと、爽快おじいちゃんが、先頭に立って川辺へと続く小道を歩き始めた。


川岸にたどり着くと、四兄弟は、まるで何かに引き寄せられるように、一つの場所で足を止めた。

そこには、不自然に平らな岩が一つ、鎮座していた。


「……あの日、私たちは、いつもここで釣りをしていた」

真実おじいちゃんが、ぽつりと呟いた。

「颯喜は、体が弱かったからな。釣りはせずに、いつもこの岩に座って、俺たちのことを見て、笑っていた」

栄誉おじいちゃんが、懐かしそうに続ける。


「あの日も、そうだ。俺たちは、誰が一番大きな魚を釣るか、夢中になっていた。少し、雨が降ってきたのも、川の水かさが増しているのも、気づかないフリをして……」

爽快おじいちゃんの声が、震える。


そして、優誓おじいちゃんが、天を仰ぐように言った。

「気づいた時には、あいつは……颯喜は、もう、いなかった。足を滑らせて、あっという間に、流れに……」


誰も、何も言えない。

ただ、川のせせらぎの音だけが、やけに大きく響いていた。


その時だった。

「……違う」

今まで黙っていた真実おじいちゃんが、震える声で言った。


「違うんだ、兄貴。気づいていた。俺は、気づいていたんだ。颯喜が、バランスを崩して、川に落ちる瞬間を……見ていたんだ」


全員が、息を呑んで真実おじいちゃんを見つめる。

優誓おじいちゃんも、鬼のような形相で、弟を睨みつけていた。


「じゃあ、なんで……なんで、助けなかった!」

「できなかったんだ! あまりに一瞬で、体が、動かなくて……! 怖くて……!」


真実おじいちゃんの絶叫が、静かな渓谷に響き渡った。

何十年も、たった一人で抱え込んできた、あまりにも重い、罪の告白。

僕と優愛は、ただ、その場に立ち尽くすことしかできなかった。

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