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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第四章 僕らが照らす道
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第四十六話 それぞれの後悔

あの日、僕と優愛が交わした約束は、重く、そして確かだった。

週が明け、月曜日から金曜日までの学校生活は、どこか現実感のないまま過ぎていった。

授業も、友達との会話も、頭の半分は週末のこと――それぞれの祖父と向き合うことで占められていたからだ。


「……大丈夫か、二人とも」

金曜日の昼休み。

希望が、心配そうに僕たちの顔を覗き込んだ。

「なんか、今週ずっと真剣な顔してるぞ。はとこ会の準備、そんなに大変なのか?」

「まあ、色々とな」

僕が曖昧に笑うと、隣に座る美褒が、すべてを分かっているような優しい目で言った。

「無理しないでね、溢喜、ゆーちゃん。何かあったら、私にもできることがあったら言ってね」

「……ありがとう、美褒」

優愛が小さくお礼を言う。

そうだ、僕らは一人じゃない。

ここにも、僕らを支えてくれる仲間がいる。


そして、運命の土曜日がやってきた。

僕と優愛は、別々の場所へ向かう。

僕は、僕の祖父である真実おじいちゃんの会社へ。

優愛は、彼女の祖父である優誓おじいちゃんの家へ。


株式会社「輝」の社長室。

真実おじいちゃんは、僕が一人で訪ねてきたことに少し驚きながらも、革張りのソファに座るよう促してくれた。


「それで、話とは何だ」

穏やかだが、どこか全てを見透かすような鋭い視線に、僕はゴクリと唾を飲み込んだ。

意を決して、まっすぐにおじいちゃんの目を見て、切り出した。

「大伯父さんの……颯喜さんのことについて、話が聞きたいです」


その瞬間、おじいちゃんの顔から表情が消えた。

「……お前が、知る必要のないことだ」

拒絶。

その冷たい声に、心が凍りつきそうになる。

でも、ここで引くわけにはいかない。


「知る必要があります。だって、これはもう、過去の話じゃない。僕と、優愛の、未来の話でもあるから。僕らは、この過去から逃げたくないんです」


僕の言葉に、おじいちゃんはしばらく黙り込んでいた。

やがて、深い深いため息をつくと、重い口を開いた。

「……あいつは、優しくて、少しだけ体が弱くて、そして誰よりも、俺たちのことを分かってくれていた、最高の親友だった」


同じ頃、優愛もまた、光道本邸の応接室で、優誓おじいちゃんと向き合っていた。

「ほう、颯喜のことかね。懐かしい名前を出してきたな!」

優誓おじいちゃんは、いつものように豪快に笑って見せた。

だが、その目の奥が、ほんの一瞬だけ、寂しそうに揺らいだのを、優愛は見逃さなかった。

「おじいちゃん。私は、本当のことを知りたいの。あの日、何があったの?」


真実おじいちゃんは、静かに語り始めた。

「あの日、川で……私は、少しだけ颯喜から目を離していた。釣りに夢中になっていたんだ。気づいた時には、もう……。もし、私がちゃんと見ていれば……」

その声は、後悔に震えていた。

「私は、自分の不甲斐なさが許せなかった。だから、兄貴(優誓)に当たったんだ。『お前がふざけていたからだ』と、ありもしない理由をつけてな。誰かのせいにしなければ、自分が壊れてしまいそうだったんだ……」


優誓おじいちゃんもまた、孫娘の前で、初めて弱さを見せていた。

「俺は、長男だった。光道家を継ぐ者として、誰よりも強くあらねばならんと思っていた。だから、弟(真実)が、俺のせいで颯喜が死んだと責めてきた時、素直に謝ることができなかった。『俺のせいじゃない』と、意地を張ることしかできなかったんだ。本当は、一番近くにいた俺が、もっと気をつけていれば……」


それぞれの場所で、それぞれの祖父が、何十年も胸の奥にしまい込んできた、痛切な後悔。

それは、互いを憎んでいたからではなく、互いが、そして何より自分自身が、かけがえのない親友を失った悲しみから、逃げ続けてきた結果だった。


その夜。

僕は、自室のベッドで優愛に電話をかけた。

『……そっか。真実おじいちゃんも、そうだったんだ』

電話の向こうの優愛の声は、少しだけ震えていた。

僕らは、今日一日で知った、祖父たちの本当の気持ちを、静かに報告し合った。


「二人とも、ずっと苦しんでたんだな」

『うん……。ずっと、一人で』


どうすればいい。

この、何十年もこじれてしまった兄弟の心を、僕らに解きほぐすことなんてできるんだろうか。


『……でも、分かったよ。溢喜』

優愛が、決意を秘めた声で言った。

『私たちが、次にすべきこと』


「……ああ。僕も、同じこと考えてた」


答えは、一つしかない。

僕と優愛は、電話越しに、強く頷き合った。

僕らの本当の挑戦は、ここから始まる。

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