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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第三章 ふたりの特別な時間
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第四十話 一本の鍵の重さ

約束の土曜日、僕たちが企画したはとこ会は、雲一つない秋晴れの下で始まった。


「うわー!広い!」

公園に着くなり、流満ちゃんが歓声を上げて芝生の上を駆け回る。

その周りでは、和満さんや幸葵たちがレジャーシートを広げ、美褒はさっそく持ってきたお菓子を並べ始めた。

紅葉には少しだけ早かったけれど、木々の葉は赤や黄色に色づき始め、澄んだ空気に柔らかな日差しが降り注ぐ、絶好の行楽日和だった。


「じゃあ、そろそろ始めますか」

僕がそう言って、持ってきたバドミントンのラケットを取り出すと、年下の子たちの目がキラキラと輝いた。


前回のもどかしさが嘘のように、僕は自然にみんなの輪の中心にいた。

最初は手加減していた僕も、流満ちゃんたちの無邪気なパワーに引きずられ、いつの間にか本気でシャトルを追いかけている。

僕が男だからという気兼ねは、そこにはなかった。

ただ、はとことして、一緒に遊ぶ時間を心から楽しんでいた。


ふと、息が上がってコートの端で休んでいると、優愛がスポーツドリンクを差し出してくれた。

「はい、お疲れ様、リーダーさん」

「からかうなよ」

僕が照れながら受け取ると、彼女は「ふふっ」と楽しそうに笑った。

「ううん、本当にそう思うよ。溢喜がいてくれて、本当によかった」

芝生の上に座り込んだ僕の隣に、優愛もそっと腰を下ろす。

彼女は、和満さんたち年長組とお喋りしたり、流満ちゃんたち小さい子の面倒を見たりと、僕とは違う形で、でも確かにこの場を支えてくれていた。

最高のパートナー、という言葉が、不意に胸をよぎる。


お弁当を食べ、宝探しゲームで盛り上がり、一日がもう終わりに近づいた、その時だった。

公園の入り口に、見慣れた黒いセダンが静かに停まった。

降りてきたのは、スーツをびしっと着こなした、光道四兄弟。


「おやおや、楽しんでいるようだね」

優誓おじいちゃんが、満足そうに目を細めながら僕らに近づいてくる。

その場の空気が、ピリッと引き締まった。


「溢喜、ちょっといいか」

僕が立ち上がると、優誓おじいちゃんは手招きをして、僕を少しだけ輪から離れた場所に連れ出した。

他の三人も、遠巻きに僕らを見守っている。


「今日の君は、ただの参加者じゃなかったな。主催者の顔をしていた」

予想外の言葉に、僕は少しだけ驚く。

「溢喜が考えたんだろう? 体を動かす遊びを取り入れたのは。おかげで、みんなの間に壁がなくなった。……よくやった」


素直な称賛の言葉が、なんだか気恥ずかしい。

僕が黙っていると、優誓おじいちゃんはジャケットの内ポケットから、何かを取り出した。


それは、古風で、重厚な作りの一本の鍵だった。


「おじいちゃんが渡したいものって……これ?」

「そうだ」

優誓おじいちゃんは、その鍵を僕の手にそっと握らせた。ずしりとした重みが、手のひらに伝わる。

「これは、光道本邸の書斎の鍵だ」

「……え?」

「あの部屋には、光道家の歴史が、我々が築き上げてきた全てが詰まっている。普段は、わしら兄弟しか入れん場所だ」


どうして、それを僕に?

僕が混乱していると、おじいちゃんは僕の目をまっすぐに見つめて、静かに、でも力強く言った。


「お前には、これを持つ資格がある、と俺は思った。……いや、我々全員が、そう思った」


その言葉の重みに、息が詰まる。

「人を束ねる『器』、人を思いやる『優しさ』。お前は、もうそれを持っている。だが、それだけでは足りん」

優誓おじいちゃんは、僕の肩にポンと手を置いた。


「暇な時でいい。一度、その鍵で書斎の扉を開けてみろ。そして、考えろ。お前が、光道の名を背負って何をしたいのかをな」

それは、命令ではなかった。


僕という人間を認め、信頼した上で託された、あまりにも重い、未来への問いかけだった。

僕は握りしめた鍵の冷たさと重さを感じながら、ただ、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

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