表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

第四話 ガチで怒られた日

僕は今、ピンチだ。

家に筆箱を忘れてしまった。

幼馴染に借りてこようと思ったが、そうもいかない。

教室に来る途中、わざと彼女の靴のかかとを踏んでしまい、機嫌が悪いんだ。


数秒悩んだ末、彼女のところに行き、言った。

「すまん!筆箱忘れたからいろいろ貸してくれ!」

優愛は、呆れたように言った。

「さっきのことを謝るかと思ったら、『筆箱忘れたからいろいろ、貸してくれ』って…」

僕はすぐに言った。

「そのことについては、ガチでごめんなさい!」

「『ガチで』って言ってる時点で、謝罪の気持ちが伝わってない」

ダメだ。どうやら本気で怒らせてしまったようだ。

「とにかく、今日は貸さないわ。自分で何とかしなさい」

優愛は足早に僕の目の前からいなくなった。

嘘だろ~。嘘だと言ってくれ~。


膝からガクッと崩れ落ち、しょんぼりしていると、後ろから声がした。

優愛とは違う、高くて、落ち着いた声だった。

「あ~。またゆーちゃん怒らせたー」

その声の主は、中学で出会った、白雲(しらくも) 美褒(みほ)

ふわっとした雰囲気で、いつもニコニコしている癒し系女子だ。


「女子を怒らせたら怖いって、何回言えばわかるのー?」

穏やかな声で言われ、悲しい気持ちが少し癒える。

「だけど、流石に嫌われた…よな…」

そう言うと、自分がやってしまったことへの罪悪感が押しかかってくる。

「筆箱のことか、ゆーのことか、どっちで凹んでんのかは知らないけど〜。文房具なら貸すよ〜?」

瞬間、僕の罪悪感は消えた。

「ホントっすか!ガチでありがとうございます!」

「だから『ガチで』って言うのはやめたほうがいいよ〜」

もうそんなのどうでもいい。

美褒から借りたペンで、なんとか授業を乗り切った。

でも、優愛はずっと僕の方を見ようとしなかった。


昼休み、僕はこっそり彼女の机に近づいた。

「…あの、さっきは本当にごめん。踏んだのは、わざとじゃなくて…いや、ちょっとだけわざとだったけど…」

優愛は、ため息をついて言った。

「ホントにもう…。背は私より大きいのに、中身は私より子どもなんだから…」

でも、その声は少しだけ柔らかかった。続けて優愛は言った。

「筆箱、明日は忘れないでよね。あと、靴も踏まないで」

「はい…」

「あと、『ガチで』って言うのも禁止。言ったら私の言う事聞いてね?」

「えっ、ガチで?」

「あ、言った。」

クソ!なんで僕はこうなんだ…。

優愛は少しだけ笑って言った。

「明日もどうせ暇でしょ。休日だし。私の荷物持ちしてよ」

「…はい。分かりました」

そう言って、僕は自分の席に戻った。


席に着いたら、希望がニヤニヤしながら向かってきて言った。

「フラれましたか〜?」

「フラれてません」

すぐにそう答えると、希望は少し考えて言った。

「フラれてない…ということは、二人はもう付き合ってるっていうことですか?!」

「違う違うどうしてそうなる」

僕は早口で返す。

確かに彼女は可愛いが、恋心を持っているわけではない。希望は僕の反応を見て、さらにニヤニヤを深めた。

「ふ〜ん。じゃあ“まだ”ってことですね〜」

「違うってば」

「でも、優愛様のこと、けっこう気にしてるよね?怒ってる時も、なんか…本気っぽかったし」


その言葉に、少しだけ胸がざわついた。

優愛の顔が、ふと頭に浮かぶ。

怒ってる時の目。ため息のあとに見せた、あの柔らかい声。


「…いや、ただの幼馴染だし」

そう言って、僕は窓の外を見た。

空は、昨日より少しだけ青かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ