第三十七話 今度は、私から
「言い出しっぺは美褒だけど、計画するのは僕たち、か。なんか面白いな」
ファミレスのテーブルでノートを広げながら僕がそう言うと、優愛は「ふふっ」と楽しそうに笑った。
僕たちの初めての共同作業は、思った以上に順調に進んだ。
日程は来週末の土曜日。
場所は美褒が提案した、少し郊外にある大きな公園。
僕が「広い場所で遊べるように」とバドミントンやボールを持っていくことを提案し、優愛が「小さい子たちも楽しめるように」とお絵描きセットやシャボン玉を加える。
一人では思いつかなかったアイデアが、二人で話すうちに次々と形になっていく。
その時間が、たまらなく楽しかった。
「……じゃあ、こんな感じかな」
優愛がまとめた計画案を、僕は満足げに眺めた。
「うん、完璧じゃないか?」
僕がそう言うと、彼女は嬉しそうに頷いて、はとこたちのグループチャットに『企画:溢喜&優愛』として連絡を入れてくれた。
すぐに、参加を表明する温かい返信が次々と届く。
ファミレスを出て、すっかり暗くなった帰り道。
僕たちの間には、共通の目標を達成した後の、心地よい一体感が流れていた。
「ねえ、溢喜」
家の近くの角で、優愛がふと立ち止まった。
「ん?」
「今日の……お礼、させてほしいな」
「え、お礼?」
「うん。溢喜が手伝ってくれなかったら、私一人じゃこんなに楽しい計画、立てられなかったから。だから、その……」
優愛は少しだけ言い淀んだ後、僕の目をまっすぐに見つめて言った。
「今度の日曜日、もしよかったら……また、二人で出かけない?」
今度は、優愛からだった。
僕の心臓が、大きく、でも心地よく跳ねる。
「……僕から誘おうと思ってたのに、先を越されたな」
僕が少しだけ意地悪くそう言うと、優愛は「えっ」と驚いたように目を見開いた。
そして、次の瞬間、みるみるうちに頬を赤く染めて、俯いてしまう。
「……ご、ごめん。なんか、私ばっかり、はしゃいで……」
「ううん、違う。すごく、嬉しい」
僕は慌ててそう言った。
「行こう。どこでも。優愛が行きたいところなら、どこへでも付き合うよ」
僕の言葉に、彼女はゆっくりと顔を上げた。
その瞳は少しだけ潤んでいて、街灯の光を反射してキラキラと輝いていた。
「……じゃあ、今度は私が考えるね。溢喜が絶対楽しめる、最高の行き先」
そう言って微笑んだ彼女は、この前のお出かけの時よりも、もっとずっと綺麗に見えた。
家に帰り、ベッドに倒れ込む。
天井を見上げながら、僕は今日の出来事を反芻していた。
「好きだ」と自覚して、どう接していいか分からなくなっていたのが、ほんの数日前のこととは思えない。
隣にいて、同じ目標に向かって笑い合う。
頼られて、そして、頼る。
おじいちゃんたちが言っていた「信頼」って、こういうことなのかもしれない。
ただの幼馴染でもなく、かといって、まだ恋人でもない。
でも、僕と優愛の間には今、他の誰にもない、特別で、かけがえのない関係が確かに生まれ始めていた。
僕はその温かい予感に包まれながら、日曜日への期待で胸を膨らせた。




