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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第三章 ふたりの特別な時間
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第三十六話 ふたりの作戦会議

「今まで通り」を心がける、と決めた翌朝。

僕は玄関のドアノブに手をかけ、一つ深呼吸をした。

大丈夫。

いつも通りだ。


ドアを開けると、昨日と同じタイミングで優愛が出てくる。

「おはよう、溢喜」

「おはよ、優愛」


昨日よりは、少しだけ自然に返せただろうか。

優愛は特に何も変わった様子はなく、にこりと微笑んで僕の隣に並んだ。


「今日の朝ごはん、何だった?」

「え? あー……目玉焼き」

「私はスクランブルエッグだった。なんか負けた気分」

「勝ち負けなのか、それ」


他愛ない会話。

昨日までの僕なら、ただ聞き流していたかもしれない言葉の一つ一つが、今はなぜか少しだけ特別に聞こえる。

そうだ、これが「今まで通り」だ。

そう自分に言い聞かせながら、僕たちは学校へと向かった。


授業中も、僕の挑戦は続いた。

数学の時間、先生に指されて席で固まっていると、右隣の優愛が、教科書の影でそっとノートの端に答えのヒントを書いて見せてくれた。

今までなら「サンキュ」と心の中で思うだけだった場面。

今日は、先生の注意が逸れた隙に、彼女の方を向いて「助かった」と小声で伝えた。

優愛は少し驚いたように目を丸くして、それから嬉しそうに小さく頷いた。


昼休みになると、僕たちの席が固まっている窓際の一番後ろは、自然と四人のための空間になった。

希望と美褒がくるりと後ろを向き、僕と優愛の机に自分たちの机をくっつける。


「そういえばさー」

希望が唐揚げを頬張りながら、にやにやして僕たちを見た。

「土曜日、二人で映画行ったんだって? どうだったんだよ、例の修行の方は?」

「ぶっ!?」

思わず、飲んでいたお茶を吹き出しそうになる。

「なっ、なんでお前がそれを……!」

「うちの親父、光道(ライトウェイ)勤めなんだよ。そしたら昨日、優誓社長がうちの親父に『うちの孫娘と溢喜くんがついにデートでな!』って、めちゃくちゃ上機嫌で自慢してたらしくてさ。それを俺が親父から聞いたってわけ」

「あのおじいちゃん、会社でも言ってるのか……!」

僕は頭を抱えた。

もう秘密も何もない。


「それで? どうだったの?」

希望がさらに突っ込んでくる。

僕がしどろもどろになっていると、美褒が呆れたように言った。

「もう、希望は野暮なんだから。そんなの、楽しかったに決まってるでしょ? ね、ゆーちゃん」

「え……あ、うん。……楽しかったよ。すごく」

美褒に話を振られた優愛は、少し照れながらも、まっすぐ僕を見てそう言った。

その一言に、希望は「おー!」と囃し立てる。

僕は、もう顔が熱くて何も言い返せなかった。


放課後。

賑やかな昼休みとは打って変わって、二人きりの帰り道。

少しだけ落ち着いた空気の中、優愛の方から口を開いた。


「そういえば、この前の話なんだけど」

「この前の話?」

「うん。はとこ会、次どうする?って話」


ああ、そういえばそんな話も出ていた。

ショッピングモールに行ったのは、みんなが集まれる一番近い場所がそこしかなかったからだ。

次は、ちゃんと計画を立てたいと、美褒も言っていた。


「美褒が言い出しっぺで、『次は紅葉を見に行きたい』って言ってたでしょ? あの話、私たちが具体的に企画しないかなって」

上目遣いで尋ねる優愛に、断る理由なんてあるはずもなかった。

「もちろん。やろうよ、二人で」

僕がそう言うと、優愛はぱあっと顔を輝かせた。

「ほんと!? よかった!」


僕たちは早速、帰り道の途中にあるファミレスに寄って、ノートを広げた。


「言い出しっぺは美褒だけど、計画するのは僕たち、か。なんか面白いな」

僕がそう言うと、優愛は「ふふっ」と笑った。


前回は急だったから、ショッピングモールになったけど、やっぱり自然が多いところがいいよね」

「じゃあ、美褒が言ってた通り、紅葉の綺麗な公園とか? みんなでお弁当持って」

「いいね! 小さい子たちも、広い場所の方が飽きないかも」


「好き」という気持ちを自覚してから、僕は優愛のために何ができるだろう、とずっと考えていた。

でも、答えはもっと簡単なことだったのかもしれない。


こうして、隣に座って、同じノートを覗き込んで、一つの目標に向かって一緒に頭を悩ませる。

彼女が楽しそうにアイデアを出す横顔を見ているだけで、僕の心は温かいもので満されていく。


これが、今の僕にできること。

そして、僕が一番したいこと。


「ねえ、この公園、ボートにも乗れるって書いてあるよ」

「へえ、面白そうじゃん」


特別な言葉はいらない。

ただ、この「今まで通り」の延長線上にある、新しい時間を、大切に積み重ねていけばいい。

僕はペンを取り、優愛の指差した公園の名前に、大きな丸をつけた。

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