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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第三章 ふたりの特別な時間
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第三十一話 僕がしたいこと

「次のチャンスで、絶対に自分から誘ってみせる」


昨日の帰り道、心の中で固く誓ったはずなのに、いざその笑顔を目の前にすると、僕の心臓は情けないくらいに音を立てていた。


朝のホームルーム前。

教室はいつものようにざわめいていて、僕の席の周りでも、希望やクラスメイトたちが週末の予定について楽しそうに話している。

優愛もその輪の中にいて、穏やかに笑っていた。


(……誘うなら、今か? いや、さすがに教室でなんて無理だろ!)


頭の中で、昨日固めたはずの決意が、クラスメイトたちの賑やかな声にかき消されそうになる。

結局、チャイムが鳴るまで、僕は一言も切り出すことができなかった。

情けない。


昼休みになっても、状況は変わらない。

いつものように廊下の窓辺で優愛と並んでいても、「あのさ」と口を開きかけては、当たり障りのない話題にすり替えてしまう。


「最近、涼しくなってきたね」

「うん。もうすぐ秋だね」


(違う、僕が話したいのは天気のことじゃない!)


心の中で何度自分にツッコミを入れただろう。

隣にいる優愛は、僕の挙動不審に気づいているのかいないのか、ただ静かに校庭を眺めている。

その横顔が綺麗で、また言葉を失ってしまう。

ダメだ、完全な悪循環だ。


放課後。

ついに、最後のチャンスがやってきた。

昨日と同じ帰り道。

夕焼けが僕たちの影を長く、そして一本に重ねる。


(今日、言わなきゃ。絶対、今日だ)


僕は何度も拳を握りしめ、深呼吸を繰り返した。

昨日の帰り道、この道で決めたじゃないか。

おじいちゃんたちが押してくれたこの背中に応えるんだって。

優愛の、僕だけに見せてくれる笑顔を守るんだって。


「……あのさ、優愛」

声が、思ったよりもうわずっていた。


「ん? どうしたの?」

優愛が、不思議そうに首を傾げて僕の顔を覗き込む。

その真っ直ぐな瞳に見つめられて、僕は一度、ぐっと言葉を飲み込んだ。

ダメだ、やっぱり緊張する。


僕が黙り込んでしまったのを見て、優愛が小さく笑った。

「なんか今日の溢喜、変だよ。そわそわして」

「そ、そうかな」

「うん。何か言いたいこと、あるんじゃないの?」


核心を突かれて、心臓が大きく跳ねた。

もう、逃げ道はない。腹を括るしかない。


僕は立ち止まり、優愛と向き合った。

「あのさ、いつも……迷惑ばっかりかけてるだろ、俺」

「え? そんなことないよ」

「ううん、ある。寝坊もするし、忘れ物もするし、テスト勉強も手伝ってもらってばっかりだし……。だから、その……なんだ」


しどろもどろになる僕を、優愛は黙って見つめてくれている。

その優しい眼差しに勇気をもらって、僕は一気に続けた。


「だから、そのお礼がしたい!……っていうか、お礼だけじゃなくて、俺が、したいんだ。優愛と、二人でどこかに出かけたい。もし、迷惑じゃなかったら……今度の休み、一緒にどこか、行かないか?」


全部、言った。

言い終わった瞬間、自分の顔に血が上っていくのが分かった。

恥ずかしくて、優愛の顔が見られない。

俯いた僕の耳に届いたのは、彼女の小さくて、でも弾むような声だった。


「……うん、行く」


顔を上げると、そこには頬をほんのり赤く染めて、今まで見た中で一番嬉そうに微笑む優愛がいた。


「嬉しい。誘ってくれて、ありがとう」


その笑顔を見た瞬間、僕の心臓を締め付けていた緊張が、温かいもので満たされていくのを感じた。

「僕にできること」を探した結果、たどり着いたのは「僕がしたいこと」だった。

夕焼け空の下、僕と優愛の新しい時間が、今、確かに始まろうとしていた。

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