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第三話 帰り道

今日も学校が終わった。

やっと帰れる…と思ったのも束の間、優愛がこっちに近づいてくる。

あー、違う意味で終わった。


彼女を背にして帰ろうと足を踏み出した時、背負った鞄の紐を掴まれ、転びそうになった。

反射で振り返ると、やはり優愛だった。


「ねえ。どうせ今日も家に帰ったらゲーム三昧でしょ?ちょっと私に付き合ってくれない?」

いいか、優愛。男子という生き物は、女子にお願いされたら断れない――とは言えなかった。


「いいよ。で、どこに行くの?」

「どこでもいいよ。溢喜の好きなところで」


いやいや、誘ってきたのそっちだろ。でも、そういうところが優しくていいんだよな…。


「じゃーあー…」

「どうせ、『ゲームセンターいこう!』でしょ。知ってるんだからね」

「バレた…」


なぜわかる?君はお母さんですか?

まあ、それで言ったら、僕はお父さんになるな。


「そう言う優愛は、どこか行きたいところあるの?」

絶対カフェと答える。さあ来い!


「え〜。強いて言うならカフェ…かな?」

ほら来た。

「じゃあ、行こうぜ」


カフェに着き、注文も済ませて、僕らは席に座った。

優愛がカフェにハマったのは、ちょうど一年前くらいだろうか。

それから何度もいろんなカフェを訪れてきた。

なにせ、甘いものと苦いものの組み合わせがクセになるとか。


「お待たせしました〜。こちら、ブラックコーヒーとカフェモカ、イチゴのショートケーキとチョコケーキです。以上でよろしかったでしょうか?」

店員さんがそう言うと

「はい。ありがとうございます。」

と優愛が一言。


しかし僕はそれどころではない。

何を隠そう、僕は苦いものが苦手だ。

もちろんシュガースティックはたくさん持ってきた。

だが、彼女に見つかってしまった。


本来なら、バレずに上手くやるはずだったのに!


「ちょっと!砂糖そんなに入れたらダメだって!」

シュガースティックは全部奪われ、僕のカフェモカには二本だけ入れられ、残りは元の場所に戻された。


無理だ、無理だ、無理だ!

チョコケーキで舌を騙せる自信なんてない。


彼女が戻ってきて席に座る。

僕は砂糖が少ししか入っていないカフェモカを前に、少し顔をしかめた。


「ねぇ、溢喜、どうしたの?」

優愛が少しにやにやしながら聞く。

「え、いや、ちょっと…」

「味見してあげる!」

そう言って、彼女は僕のカフェモカのカップを持ち、口につける。


「うん、美味しいよ。甘いから大丈夫」

僕は心の中でため息をつく。

「味見って言っておきながら、全部飲んで…全然味見じゃないじゃん」


少し怒って言うと、優愛はちょっとびっくりして言った。

「あ、ゴメン〜。じゃあ、私のブラックコーヒー、全部飲んでいいよ」

そういう作戦だったのか!

もうシュガースティックを取りに行ける雰囲気ではない。


僕はなんとか食べ終え、言った。

「それにしても、今日も学校疲れたね」

「そうだね。溢喜、帰り道どうする?」

「うーん、まっすぐ帰るつもりだけど」

「じゃあ、ちょっと寄り道しようよ。あの公園、久しぶりに行きたいな」


結局、僕らはカフェを出て、少し遠回りして公園に向かうことにした。

公園に滑り台やブランコがあるわけではないが、その道中、ただ並んで歩くだけで、どこか楽しい。


「ねぇ、覚えてる?小学校の頃、ここで秘密基地作ったよね」

「おお、あれね。僕が木の上に登って降りられなくなって…懐かしいな」


思い出話をしながら、僕らはゆっくり歩いた。

特別なことは何もない。ただ、幼馴染と一緒にいるだけで、気持ちが落ち着く。


やがて日が沈みかけた空を見上げると、優愛がぽつりと笑った。

「もう少し、こうやって歩こうか」

僕は驚きながら、頷いた。

いつもだったら『そろそろ帰ろっか』と言っているはずなのに。…とはいえ、その言葉の意味を深く考えたりはしなかった。

今日も、幼馴染とのいつもの時間が、静かに過ぎていった。

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