表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第三章 ふたりの特別な時間
28/185

第二十八話 いつからそんなに優しくなったの?

コンビニの自動ドアが閉まると、ひんやりとした夜の空気が肌を撫でた。

街灯がぽつりぽつりと灯り始め、アスファルトに僕らの影を長く引き伸ばす。


優愛は両手でホットコーヒーを抱え、白い息をふーっと吹きかけてから、ゆっくりと一口飲んだ。

「やっぱり、こういうのって落ち着くね」

湯気越しに見えた彼女の横顔には、今日一日の疲れが溶けていくような穏やかな笑みが浮かんでいた。

その表情に、僕の張り詰めていた気持ちもふわりと緩む。


「それ、まだ熱くない?」

「うん、大丈夫。……さっきはちょっとびっくりしたけど」

優愛は小さく笑って、わざとらしく肩をすくめてみせた。

その仕草が妙に可愛らしくて、不意に心臓が跳ねる。

僕はごまかすように、思わず視線を街灯の光へと向けた。


優愛の家へ向かう道。

二人で並んで歩く帰り道は、朝や昼の喧騒とは違う、特別な時間が流れているようだった。

信号で立ち止まったとき、優愛がふいにこちらを見上げる。

「ねえ、溢喜って、いつからそんなに優しくなったの?」

予想外の言葉に、心臓がどくりと音を立てた。

「……え?」

「この前のはとこ会のときもそうだったし、今日だって……。なんか、昔より頼れる感じする」

不意を突かれた言葉に、喉の奥がつまる。

優しくなった?頼れる?

僕はそんな風に変わったつもりはなかった。

それとも、優愛の前でだけ、そうあろうとしているのだろうか。

どう答えていいのか分からず、僕はただ曖昧に、困ったように笑ってみせた。


「そっか。……それなら、よかった」

優愛はそれ以上追及しなかった。

僕の曖昧な返事にも、どこか満足したようにコーヒーのカップを両手で包み込み、安心した面持ちで視線を前へ向けた。

その横顔に、僕の胸の奥で小さな熱が生まれる。


信号が青に変わる。

僕らはまた歩き出した。

肩が時折触れそうになって、けれど互いに避けようとはしなかった。


優愛の家が近づき、角を曲がったところで、僕は見慣れない車が停まっていることに気づいた。

黒いセダンが、街灯の下で鈍く光っている。


「あれ?誰か来てるのかな?」

優愛が小首を傾げる。

その車の横に立つ人影が二つ、三つ……いや、四つ?

見覚えのあるシルエットが、暗闇の中に浮かび上がった。


「あれって……もしかして」

優愛も同じことに気づいたのか、ハッと息を呑んだ。

その瞬間、ガチャリと音を立てて家の玄関ドアが開く。

「お、優愛おかえり! なんだ、溢喜も一緒か!」

聞き慣れた快活な声は、優愛のおじいちゃんである優誓おじいちゃんのものだった。

そして、その隣には……。

「なんで、うちのおじいちゃんまで……」

僕の祖父である真実おじいちゃんに、爽快おじいちゃん、栄誉おじいちゃんまで、なぜか兄弟揃って玄関に立っている。

どうやら今日の特別な夜は、まだ始まったばかりのようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ