表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第三章 ふたりの特別な時間
24/181

第二十四話 遠いところに集まるわけ

ついに来てしまった。

そう、今日は土曜日。

はとこたちで集まって遊びに行く日だ。

集合場所は、ちょっと離れた、いや、結構離れた田舎のショッピングモール。

なんせ、みんなが集まれる一番近い場所が、そこしかなかったらしい。


「さあ行くわよ!」

優愛が声をかける。

「レッツゴー!」

美褒も調子よく続ける。

本当に女子は元気だ。

どうせ僕が行ったところで気まずい空気が流れる予感しかしない。


僕らはもう高校生。

こんな思春期真っ只中の男が、女の子に気軽に話しかけられると思うか?

……無理だ。絶対に。


しかも、このはとこ会は年齢差もバラバラだ。

この前会った時、一番下の子はまだ小学生だったはず。

そんな子どもと高校生が一緒に遊ぶなんて、本当に大変だ。


――だけど。

せっかく集まるんだ。特別な時間にしよう。

そう思い直したところで。


「ほら、もうすぐ新幹線来るよ」

優愛の声でハッとした。

「これから新幹線に乗ってどこまで行くの〜?」

「んー、忘れた」

「え〜、思い出してよ〜」

「まあ、楽しめばいいじゃん」

そんな会話をしていたら、新幹線の中での時間は本当にあっという間に過ぎた。


気づけば、もうショッピングモールに到着していた。

さすが田舎のモール。駐車場がとにかく広い。

駐車場の向こう側には、一面の田んぼ。

本当に、ただの田んぼだ。

近くに高速道路が走っているらしかったが、それ以外は何もない。


「あ、いたいた!」

美褒が指差す。

視線の先には、見覚えのある顔。

僕と同い年くらいで、黒くて背中の真ん中ほどまである髪が美しい。

初めて会った時、スマホを触ってた子だ!

確か、美褒のいとこだったはず……。


「お久しぶりです!」

向こうから笑顔で挨拶してくれる。

……やばい。名前、思い出せない。

「あ、ああ!久しぶり……です」

とりあえず笑顔で返す。


優愛が横から小声で耳打ちしてきた。

「……ねえ、もしかして名前忘れてるでしょ」

「う……」図星だ。

続けて優愛が言う。

「あの子の名前は、大岩(おおいわ) 幸葵(さき)。覚えた?」


「……あ、ああ。幸葵、ね」

僕は頷きながら、心の中で何度も名前を繰り返した。


幸葵は相変わらず明るい笑顔で、僕らに手を振っている。

そして、その隣にはさらに何人かのはとこたちが集まっていた。

合わせて10人ほど。

にぎやかすぎて、ちょっとした修学旅行みたいだ。


「よし、じゃあ行こっか!」

美褒が勢いよく声を上げると、自然に流れができて、みんなでモールの中へ。


「溢喜さんって、何してる人なんですか」

そういったのは、くせ毛が激しい茶髪で、背が僕の肩くらいしかない小学校五年生、平月(ひらつき) 流満(るみ)だ。

「何してるって……高校生だけど?」

「高校生活って楽しいんですか?部活とか!友達とか!テストってやっぱり難しいんですか?」

矢継ぎ早に質問を繰り出してくる流満。目はまん丸で、星が散らばってるみたいに輝いている。


「え、えーっと……まあ、それなりに?」

僕が曖昧に答えると、流満は「ふわぁ!」と声を上げて、さらに食い気味に聞いてきた。


「高校生って、放課後にカフェとか行くんですか!?ドラマで見たことあります!」

「いや、そんなにドラマみたいな毎日じゃ……」


「ちょっと、流満」

少し落ち着いた声がかぶさる。

同じ平月家の長女、平月(ひらつき) 和満(なごみ)。大学生で、流満の姉だ。


「そんなに質問攻めにしないの。溢喜君困ってるでしょ」

そう言いながらも、彼女の表情は笑っている。

どうやら妹のはしゃぎっぷりを微笑ましく思っているらしい。


「え〜、だって聞きたいんだもん!」

頬をぷくっと膨らませる流満。


和満はそんな妹の頭を軽く撫でてから、僕の方をちらりと見た。

「でも……高校生活、どうなの?青春してる?」

急にこちらに矛先が向いた。


「えっと……青春はよくわからないですが、まあ、楽しいですよ」

「ふふ、そうなんだ」

和満はどこか安心したように頷き、その横で流満が「ほら!高校楽しいんだって!」と得意げに跳ねていた。

……なんかこの姉妹、セットで来られると体力持たないかも。


そのあと、向かったのは服屋。

「ねえねえ、このワンピどう?」

「こっちは?」

「あ、セールだって!」

はとこたちはあっという間に試着モード。

気づけば僕は、なぜか試着室の前で荷物を持たされ、立ち尽くす羽目に。

――これ、完全に保護者じゃん。


そのあとも本屋や雑貨屋を回り、最後はゲーセンへ。

クレーンゲームで盛り上がる女子たちに付き合って、気づけば何回も挑戦することに。

景品なんて全然取れないのに、「あと一回!」の声に逆らえず、財布は軽くなっていく。


「溢喜、がんばれ〜!」

「ほら、もうちょっと右!」

流満まで声を張り上げて応援してくるし、和満は後ろでスマホを構えて「実況でもしよっかな」なんて呟いている。

頼むから撮らないで……。


結局、大した成果もなく終わり、僕はへとへと。

ベンチに腰を下ろすと、優愛が笑いながらペットボトルを差し出してきた。

「はい、お疲れさま」

「……ありがと」

受け取って一口飲むと、体中に冷たい水が染み渡っていった。

ふと横を見ると、美褒も幸葵も、流満も和満も、そして他のはとこたちも、それぞれ楽しそうに話している。

僕はヘロヘロのまま、その光景を眺めた。

――なんだかんだ言って、悪くないかもな。


そんな風に思った瞬間、館内アナウンスが鳴り響いた。

「お客様にお知らせします――」

まるで、この先に待っている何かを告げる合図のように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ