第百九十話 画面越しのファッションショー、旅行へのカウントダウン
「ふぅ……。任務完了」
自室に戻った僕は、ベッドの上にドサリと買い物袋を広げた。
今日一日歩き回って手に入れた戦利品の数々。
優愛が選んでくれたワインレッドのニット、細身のパンツ、そして暖かそうなインナー。
どれも普段の僕なら選ばないようなアイテムだけど、優愛が「似合う」と言ってくれたものなら、間違いはないだろう。
「さて、タグ切ってハンガーにかけるか」
重い腰を上げかけたその時、スマホが軽快な着信音を奏でた。
画面には『優愛(ビデオ通話)』の文字。
まだ別れてから一時間も経っていないのに、寂しくなったのだろうか。
僕は苦笑いしながら、緑色のボタンをスワイプした。
「もしもし、優愛?」
『ヤッホー、溢喜! 見て見て!』
画面いっぱいに映し出されたのは、いつもの部屋着……ではなく、今日買ったばかりの新しい服を着た優愛の姿だった。
白いふわふわのニットに、僕が「いいな」と言ったチェック柄のスカート。
彼女はスマホを少し離して、くるりと回ってみせた。
『ジャーン! 早速着てみました! どうかな?』
画面越しでも伝わってくる、その破壊力。
スカートの裾がふわりと揺れ、彼女の笑顔が弾ける。
背景の勉強机や本棚といった生活感とのギャップが、逆に「彼女感」を強調していて直視できない。
「……似合ってる。店で見た時より、可愛いかも」
僕が素直に感想を言うと、優愛は画面に顔を近づけてニシシと笑った。
『えへへ、ありがと! 旅行の初日、これで行くからね』
『おう。楽しみにしてる』
『で、溢喜は? まさか、まだ袋から出してないとか言わないよね?』
優愛の目が鋭く光る。
図星だ。
「……今、出そうとしてたところ」
『だーめ! 今すぐ着てみて! サイズ感とか、家で着てみたら違ったってことあるし、私がチェックしてあげるから!』
「ええ……今から着替えるのか?」
『当たり前でしょ! ほら、三分待つから!』
画面の向こうで優愛が腕組みをして仁王立ち(座っているけど)している。
逆らっても無駄だ。
僕は観念してスマホを立てかけ、カメラの画角から外れて着替えを始めた。
買ったばかりのニットに袖を通す。
新品特有の匂いと、少し硬い感触。
「……お待たせ。どうだ?」
再びカメラの前に戻ると、優愛が目を丸くして、じっと画面を見つめてきた。
数秒の沈黙。
「……優愛さん? もしかして変か?」
『……ううん。違う』
優愛が首を横に振る。
そして、少し頬を染めて、ぼそりと呟いた。
『……やっぱり、カッコいいなって。私の見立てに間違いはなかった』
「……そりゃどうも」
『溢喜、背高いからロングコートも似合うと思うんだよね。次は春服デートでコーディネートしてあげるね』
もう次のデートの計画まで立てている。
気が早いが、優愛とならきっと楽しいだろう。
『よし! ファッションショーは終わり! 次は持ち物チェックだよ!』
『え、今から?』
『当然! スキーウェアの下に着るものとか、日焼け止めとか、今のうちにリストアップしないと!』
優愛が画面の中でメモ帳を取り出す。
そこからは、一月二日の夜とは思えないほどの熱量で、スキー旅行に向けた作戦会議が始まった。
画面越しに交わす言葉と笑顔。
物理的な距離は離れているけれど、僕たちの心はもう、数日後の雪山へと飛んでいた。
「……あ、そういえばシャンプーとリンス、トラベル用の買った?」
『忘れてた! 溢喜、貸して!』
『自分で買えよ……』
夜が更けていく。
お正月ののんびりした空気は、少しずつ「旅立ちのワクワク」へと変わろうとしていた。




